表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が書き終えた、大好きな悪役令嬢の話  作者: 夜凪 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/57

第21話「まだ笑っていられる」

朝が来た。断罪の朝だった。


目を開けたとき、まだ暗い。天蓋の布が、呼吸に合わせてかすかに揺れている気がした。マットレスが柔らかくて、体が沈んでいる。


(今日だ)


5日前から、ずっとわかっていた。わかっていて、何もできなかった。


布団の中で手を握った。アリエスの手。白くて、爪がきれいで、私の手じゃない。この手がもう勝手に動く。握り方にも癖がある。親指を内側に巻き込む。アリエスの癖だ。


扉を叩く音がして、侍女が入ってきた。深い青のドレスを持っていた。正式な場のために仕立てられたもので、肩に乗せただけでわかった。重い。布の裏地が、首筋に冷たく触れる。


鏡の前に立った。


アリエスがいた。髪を整えられて、ドレスを着せられて、いつもより白い顔をした公爵令嬢。


(笑え)


真白さんが書いたこの朝。アリエスは笑っていた。冷たく、凛として、大広間の扉を開ける。それがアリエスだった。私は読んだ。この場面を、何度も読んだ。


口の端を上げようとして、唇が震えた。


(だめ、笑って)


体が答えた。口元がすっと持ち上がる。鏡の中のアリエスが、冷笑を浮かべた。ひかりが作った笑みじゃない。アリエスの筋肉が覚えている顔だった。


廊下に出ると、ライナスがいた。


いつもより早い。まだ外が白みかけてもいない時間なのに、もう立っていた。鎧は着けていなくて、騎士服だけだった。半歩後ろの、いつもの場所に。


何も言わなかった。ただ、いた。


「……行くぞ」


私が言った。ライナスが頷いた。


廊下は長かった。足音が二つ、響く。真白さんが書いたこのシーン、アリエスは一人で歩いた。ライナスがいたかどうかは書かれていなかった。


でも今は、後ろにいる。


大広間の扉が見えてきた。侍従が頭を下げて、扉に手をかける。


息を吸った。肺の中に、冷たい空気が入る。


(アリエスでいる。ちゃんと、アリエスでいる)


扉が開いた。


両側に貴族たちが並んでいた。視線が一斉に向く。空気が変わった。ざわめきが止んで、足音だけが残る。


ヴァネッサがいた。最前列に近い場所に、静かに立っていた。表情が違う。いつもの冷たい微笑じゃない。もう笑ってもいない。確信している顔だった。勝ちを確信している。


奥に王太子が座っていた。こちらを見ている。でも目が合っても何もない。表情が動かない。守るつもりがないことが、その顔でわかった。


(怖い)


怖い。足が重い。でも止まれない。


怖いということは、失いたくないものがあるということで。ここにいたいということで。


だから笑っていた。アリエスの口元で、アリエスの目の冷たさで。


前を向いて、歩いた。


次話:「読んだことのない場面」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ