いよいよ……
30分で到着したのは山の麓にあるテニスコート。
住宅街の汚れた空気と違って、ここは澄んでて気持ちが良い。毎日ここで練習できたら最高だろうな。
「ここらへん熊出るらしいぞ」
やっぱり学校でいいや。
信介が注意書きの看板に描かれている熊と同じポーズをしているのを見て、他の1年男子が大笑いしている。
「和成、熊見つけたら今日の夜みんなで熊鍋にしようぜ」
猟師もビックリしそうな発言に苦笑いで返す。
魔法使いってホントに凄いな。熊と犬に大した差などないのだろう。怖がってるのは俺だけだ。
「珍しいわね。あなたが男どものバカにのらないなんて。そんなに熊が怖いの?」
「熊さんを舐めるなよ。日本で一番強いかもしれない熊さんだぞ。非魔法使いでは遭遇したら逃げの一択すら通用しない熊さんだぞ」
ニュースで近くの地域で熊の目撃情報が出たときは、登下校をビクビクしながら自転車を走らせてたくらいだ。魔法が使える今でも絶対に遭遇したくない。
それなのに信介たちは虫取り少年のようにワクワクしながら山の頂上を見ている。あの山に何匹の熊がいるのか、想像するだけで恐ろしい。
「まあ、私たちが使うのは地下にある魔法使い専用のコートだから、遭遇することはないわ。だから余計な心配はやめなさい。試合に集中するのよ」
「地下なの?」
紅玉が言うには、非魔法使いに見られないために魔法使いの公共施設は別で作られているらしい。
今回は地下だが、壁や天井は外のコートの景色と同化していてほとんど違いはないらしい。
数分ほど1年男子のバカ騒ぎを見ていたら、箒の大群が空から降ってきた。
「来たわね」
2人ほど見たことがある顔がある。東法のお出ましだ。
全員箒から降りると、軍隊のような統制の取れた状態で並びこちらへ向かってくる。
先頭にいる顧問と思われるジャージ姿の筋肉モリモリの男がウチの顧問と挨拶を始めた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。東京魔法高等学校マジックテニス部顧問、羅生です。本日はよろしくお願いします」
国語の教科書に載ってそうな名前だな。下が門だったら完璧だぞ。
「いいえ、時間ピッタリですよ。さすが名門校ですな。北の風魔法高等学校マジックテニス部顧問、伊勢です。よろしくお願いします」
両者深々と礼をしたあと東法の部員も一斉に礼をしたので、こちらもバラバラと礼をする。
「紅玉、お前も挨拶しろよ」
「あの男に頭下げるとか絶対にイヤ」
「この前あんなことされたから下げたくないのはわかるけどさ、ほら、みんなお前のこと見てるから」
紅玉の頭を掴み無理矢理下げさせようとするが、抵抗してくるのでなかなか下げられない。
「絶対イヤ!」
「挨拶も社会人には必須なんだぞ」
「なら社会人にならなくていいわ!」
何言ってるんだこのバカお姫様は。
「面白い生徒ですな。でもそんな無理に下げなくてもいいんだよ。これはウチのやり方だから。それに葛に非があるのは本当だからね」
「紅玉を甘やかさないでください東法の先生。これもちゃんとした社会勉強です。今のうちにやらせないと手遅れになりますので」
「あなたはいつから私の保護者になったのよ!」
そのあと受付を完了させ、地下のテニスコートへと下りる。
紅玉の言う通り地下なのに外と全く変わらない景色。それに空気もうまい。
壁に貼り付けられた紙によると、10コートも入る広さで天井も100メートルあるようだ。これならよほどなことをしない限り、ボールが天井に届くことはあるまい。
コートを挟んだフェンスの外にそれぞれ応援スペースがあり、学校ごとに分かれ練習の準備をする。
気になったので向こうで準備している東法の様子を観察する。
顧問を中心にして部員たちが集まっている。おそらくミーティング中だろう。
「無理はするな。東法の名に恥じぬ姿を見せてこい!」
キリっとしててカリスマ性のありそうな顧問。信介の調べた情報によると、過去に魔法オリンピックに出場した実力者らしい。一方こっちの顧問は、猫背で最近白髪が増えてきた中年の男。大会での記録はない。
「「「「「「「「「はあ……」」」」」」」」」
「なんだ1年坊主! そのがっかりしたため息は!」
ミーティングを終えると、タオルと水筒を準備している人たちに目が行った。
「みなさん、タオルとスポーツドリンク、用意しておきますね」
美少女と美少年のマネージャーからの手厚いサポート。
一方こちらは無造作に置かれたタオルと古いジャグ1個。ジャグに関しては水を忘れた憐れな者たちによる取り合いがたまに見られる。
「「「「「「「「「「「「「「「「はあ……」」」」」」」」」」」」」」」」
「だからなんだそのため息は! 今度は全員でだし!」
待遇の差でウチの弱さを再確認したあと、練習に移る。
合同練習といっても、さっきの紅玉のようにバチバチすることはない。お互いの練習メニューを体験してみるだけ。
最初に東法の球出し練習から見る。
前にボールの入ったカゴを持った顧問がボールを出して部員が打つ。どこでもやる当たり前な練習。
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
だけどとにかく早い。一球打ったらすぐに列の後ろに回るの繰り返し。威力も申し分ない。
顧問のリズムの良い掛け声で動く部員たちの姿は中学時代を思い出させるが、その時とは比べ物にならない。
それと、カゴのボールが一向になくならない。理由は相手コート側で待機してる部員が、打たれたボールを全てカゴに向かってロブで打ち返しているからだ。
ボール拾いという無駄な時間を無くす最高率の球出し練習。もちろん、どんな威力のボールでも追いつきカゴに入れるレベルの誘導魔法があってのものだけど。ウチじゃあとてもできない。紅玉ならできるだろうけど、ずっとロブだけ打たせるわけにはいかないしな。
「凄いですね」
「いえいえ、まだまだですよ」
これでまだまだならウチはなんなんだ。
「ねえ、これからウチの練習見せるの? 俺超恥ずかしいんだけど」
信介が俺と同じ気持ちを囁いてきた。俺だってあれを見せられたあとにいつも通りのゆるゆるな練習なんかしたくない。
みんなも同じようで、憂鬱そうな顔をしている。
……仕方ない。
「紅玉、頼む」
「はあ……わかったわよ」
意図を言わなくても理解したようで、紅玉は相手コート側に立った。アイツも蒼葛に恥を晒したくないのだろう。
「おいおい、マジかよ」
信介たちも意図に気づいたようで、若干顔が引きつる。
合同練習としては意味がないが、しょぼい練習を見せて笑われてメンタルがやられるのは試合のためにも避けたい。とにかく恥をかかなければいい。
「これ、完全にマネご——むごご⁉」
口にしようとした信介の口を塞ぐ。
「いいか、俺たちが恥をかかず帰るにはこれしかない。四の五の言わず合わせろ」
俺の言葉に部員と顧問全員が頷く。
「はぁい! はぁい! はぁい! はぁい!」
よし、先生の掛け声が少しおばさんみたいなのは気になるけど、概ね東法と同じようにできてるはず。
「へえ、北風もウチと同じなんですね」
「そ、そうなんですよ。あはは!」
「「「「「「「「「「「「「「「あはは!」」」」」」」」」」」」」」」
遠くにいる紅玉以外全員でニッコリと笑う。
「完全に詐欺だな」
「まだ言うな信介。帰ったらいくらでも口にしていいから」
そのあとの練習も全部東法に合わせ、嘘だらけの練習が終わった。
”まあ、東法は紅玉目当てだったらしいし別にいいか!” と開き直ることにした。
「いやあ、同じような練習でもところどころに違いがあって勉強になりますね」
「「「「「「「「「「「「「「「「そうですねッ!」」」」」」」」」」」」」」」」
もう紅玉以外必死だよ。
ていうか東法の顧問はなんであんな真剣にウチの練習を見るんだよ。お前の後ろにいる教え子達見ろって、全然真剣じゃないぞ。完全にこっちがマネしてるの見抜いてるぞ。
「ではお昼休憩に入って、そのあと練習試合を始めましょう」
ご飯のあと、いよいよ蒼葛との試合が始まるのか。
母さんに作ってもらったお弁当を口に入れるけど緊張で味がしない。
「このあとのためにもちゃんとエネルギー補給はしておきなさいよ」
食が進んでいない俺を心配した紅玉は自分のお弁当を口にしながら言ってきた。
そうだな。腹が減っては戦はできぬということわざがあるくらいだ。ちゃんと食べないと。
大好物の唐揚げを食べようとしたら、信介に袖を引っ張られた。
「おい、あれ東法の生徒じゃないか?」
信介の視線の先にいたのはコートのフェンスに体を隠し頭だけを出した高橋幸だった。東法はコートの反対側で休憩している。ペアである蒼葛はいない。ここに用はないはずなのに何しているのだろう。
人見知りの小さな子供のような仕草でかわいいなと思っていたら、手を前に出して手招きしてきた。
高橋幸の視線は俺たちの方に向いている。
「俺?」
自分に指をさすと、高橋幸は頷いた。
俺に何の用があるのだろう。接点はこの前の紅玉と蒼葛の試合だけだったはず。
「スパイかもな。話しかけてこちらの情報を抜き取るつもりかもしれない」
信介が真面目な顔で言った。
「敵の情報を持つことはスポーツでは有利になる。和成、気をつけろ」
んな漫画やアニメの世界じゃないんだから。話すだけで敵のプレースタイルまではわからないだろ。
……魔法って充分ファンタジーだったな、そういえば。
「気をつけなさいよ。試合前にケガさせたりする話もあるわ」
紅玉も珍しく心配そうに見つめてきた。
「わかった。用心しておくよ」
小走りで高橋幸のもとへ行く。
「俺に何か用か?」
「……そっちのベンチで話そ」
高橋幸が指さしたのは、この会場の隅にあるベンチだった。一番端のコートの横にある使いづらい位置にあるベンチ。だから誰も座っていない。
聞かれたくない話をするならちょうどいい場所だ。信介の言う通り、情報を抜き取るのが目的か?
2人でベンチに腰掛ける。ここからでも信介たちの姿は見えるが、表情までは見えない。
「私の家系は、みんなエージェント」
相手が口を開くのを待っていたら、突然自慢された。
「へえ~、それは、凄い、ね」
うん凄い。凄いんだけど、なんでそんなことを言ってきたのかがわからない。
「言い方を変えれば殺し屋」
「え?」
さらに変なことを言ってきた。殺し屋? 殺し屋って、人を殺す仕事をしている人のことだよな。
「……怖い?」
試すようにこちらを見てくる。
「そ、そりゃあ、な」
本当だったら怖い。
「フ、まだまだだね」
「なにが?」
鼻で笑われ、思わずツッコんでしまった。
やばいやばい。もしこちらの情報を抜き取るのが目的なら冷静にならなきゃ。
「本当は魔法警察の刑事課」
「殺し屋じゃないのかよ!」
冷静になるつもりがまたツッコミを入れてしまう。
魔法警察の刑事課って、全然真っ当な魔法使いだし怖くもない。
「仲良くなりたいときはまずジョーク。これ定番」
自信満々に言ってくるが、全然そんなことはない。というか内容がダメ。殺し屋とか暗いことのジョークは初対面の人には言っちゃダメだろ。
「じゃ、じゃあ魔法警察の家系の君が俺に何の用?」
「私はまだ学生。警察じゃない」
「わかってるよそんなこと!」
ズレた奴だなあ。変なところで気にするし会話が全然進まない。
「で、何の用だよ。お昼休みが終わっちまうから早くしてくれ」
「ん、喋るときは最低限のことしか口にしないようにしてる」
「……そうか」
さっきから滅茶苦茶喋ってたけどな。
聞き流すつもりで次の言葉を待ってたら、急に真面目な顔で高橋幸は言った。
「だから単刀直入に言う。ウチに来て」
「は?」
「私の家に来て」
余計わからなくなった。
話が読めない。なんで俺がこの子の家に誘われているのだろうか。
偉く真面目に話すから何も言えない。何が目的なんだ?
「最初見た時にわかった。和成には戦う魔法の才能がある。だからウチに来て、東法に通いながら魔法警察になるための訓練に励んでほしい」
……スカウトってことだろうか? 俺が?
「俺全然魔法使えないんだけど」
「今は経験がないだけ。これから頑張ればいくらでも伸ばせる」
希望にあふれた言葉。初対面同然の女の子からこんなことを言われるとは思わなかった。
「魔法警察は人手不足で大変。だから実力のある若者がたくさん必要。和成ならいっぱい人を助けることができる」
そう言って高橋幸は手を差し出してきた。
俺の名前、憶えているのか。紅玉と比べたら俺なんて月とスッポンくらい差があるのに。
「ウチに来て。その才能を、人を救うために使って」
差し出された手を見る。
初対面の印象からは考えられないほど正義感に満ちた考えを持つ少女に、俺は困惑している。
同時に、別の感情もある。
魔法使いの世界に来て、おそらく初めて魔法の才能を認められた。
正直、嬉しい。ずっとついてこれないと思ってたから。
俺にも、魔法使いとして輝けるものを持ってたんだと今わかった。
でも俺の答えは……
「悪いけど、東法に行くことはできない」
「お金が心配? 私の家から出すよ」
「違う。そうじゃないんだ。俺は、マジックテニスをしたい、自分に負けないためにも続けたいんだ。だから……」
「なら東法でやればいい」
東法で、マジックテニス……。
「……いや……」
「ここにいたい理由があるの?」
「……」
脳裏によぎったのは信介と静さん、そして紅玉だった。
東法でもできるってわかった時は、理由もなく断ろうとした。だけど今のマジックテニス部にいたい理由を聞かれると、何故か3人の顔が浮かんでくる。
毎日信介や紅玉とマジックテニスをして、部活終わりに静さんと信介の3人で魔法の練習をする。
そうか。俺はマジックテニスを続けるだけでなく、アイツらと一緒にいたいとも思ってるんだ。
それは東法に行ったときに孤立するかもしれない恐怖心からかもしれない。でもどんな理由だろうと、アイツらと一緒にいたいという気持ちに間違いはない。
「ごめん。俺には身に余る光栄だけど、やっぱり東法には行けない」
多分、物凄いチャンスを逃してる。大物になれるかもしれないチャンスを自分から放してる。
「そう……なら勝負。私が勝ったら東法に来て」
「それって、今日の試合のことか?」
コクっと頷く。
そこまでの才能が俺にはあるというのか。
「……わかった、それならいいぜ」
どうせ負けたらマジックテニスはできなくなるしな。それに負けなければいいだけだし。
「やくそく」
高橋幸は小指を差し出す。
「ああ、約束だ」
俺も小指を出して、指切りげんまんをする。
「フ、楽しみ」
口角を上げて若干の笑みを浮かべる。
勝ちを確信しているのか、もう嬉しそうだ。
もしかしたら、高橋幸は魔法警察になるのが不安だから俺を誘ってきたのかもしれない。
何か新しいことをするときに心細いから誰かを誘うように、同じ道を辿ろうとしてくれる人がいるってことは安心材料になる。信介が俺を誘ってきたように。
「なあ、なんでお前はマジックテニスに入ったんだ?」
会話からしてマジックテニスに特別興味があるとは思えない。
「葛に強引に入部させられた。やめようとしたら親から入ったなら嫌なことでも最後までやれって言われた。正直めんどくさい」
それはご愁傷様なことだ。
「今のうちに法律の勉強をしておけ」
そんな捨て台詞を吐いて高橋幸は帰った。
俺も信介たちのところに戻ると、何を話したか質問攻めを喰らった。
素直にスカウトのことを言うと、信介は不安そうな顔になる。
「それで、OKしたのか?」
「いいや。次の試合で負けたら東法に行くことになった」
「マジかよ……なら余計負けられないじゃん」
そうだな。これでさらに勝つ目的ができた。
「……本当に行くの?」
紅玉が小さな声で聞いてきた。
「負けなきゃいいんだよ。だろ? だからそんな顔するなって」
自分のせいで大変なことになってしまったとでも思っているのかもしれないが、これは俺が選んだことだ。
「負けてもお前のせいとか思わないから安心しろ」
そう言うと、紅玉の顔がちょっとだけ不機嫌になった気がする。
多分、3週間も同じ時間を過ごしてきたからだろう。みんなにはわからない程度でもわかるようになってきた。
「何気にしてるんだよ」
「……別になんでもないわ」
すぐにキリっとして顔を背けてしまった。
そのあと急いで弁当をかきこみ、試合の時間になる。
「では練習試合に移りますか。そちらの生徒さんが葛たちと試合したいということでよろしいですか?」
「あ、はい。すみません、ウチの生徒がわがままを言ってしまって」
「いえいえ気にしないでください。葛も紅玉と試合ができるとずっとワクワクしてましたから。滅多にない機会なのでお互い全力で頑張りましょう」
試合の時間になったからか、東法の生徒たちが一斉にやる気を出し始めた。やっぱりどんな学校でも試合が一番好きらしい。
「じゃあ早速やるぞ。俺たちが一試合目で文句ある奴いるか!」
蒼葛が叫ぶと、誰も何も言わない。
てっきり最後あたりでやると思ってたから、1試合目なことにドキッとしてしまった。
「反対意見ゼロってことで俺たちが最初だ。お前らもいいよな」
「ええ、望むところよ」
ネットの前に立って試合前の挨拶をする。
「すみません、ウチの葛が強引で」
「いえ、とんでもないです」
東法の主審と挨拶をする俺。隣では紅玉が蒼葛を睨んでいる。高橋幸は俺を見て親指を立ててグッドサインをしている。なんだこれ、これがマジックテニスの挨拶か?
「では先攻を決めてください」
主審が言うと、紅玉がラケットを立てる。サーブ権を決める時のラケットトスは、地面に立たせたラケットを回しながら倒し、グリップの下に書かれているメーカーのマークの向きで決める。マークの向きが通常ならスムース、真逆ならラフとなる。
「スムースだ」
「ラフ」
ラケットが倒れる。
「スムースよ」
「よっしゃ。先攻は貰うぜ」
後攻か。先にサーブを打たれるのは不利になることも多い。ましてや相手は全国1位。どんなサーブを打ってくるのか。
定位置に移動しようとすると、蒼葛が口を開いた。
「たった1週間だが、少しはマシな顔になったな。だが、ペアの方は相変わらず素人。どんな作戦を考えたのか知らんが、勝ち目はあるのか?」
すでに勝った気になっている顔だった。
紅玉が言い返そうと前に出るが、腕を前に出して制止させた。
「言わせたままでいいの?」、と顔で俺に訴えてきた。
「先輩、スポーツにおいて勝敗に絶対ということはありません。どんなに実力差があろうと、心意気1つで弱者が勝つこともあります。だからこそ、言わせてもらいます」
「ほお、なんだ?」
不敵に笑う蒼葛に対して、俺は平然を装いながら胸を張って宣言する。
「勝ちますよ、俺たちは」
その言葉が聞きたかったとでも言うように、蒼葛は歯を見せて笑みを浮かべたあと定位置である右サイドのベースラインへ移動した。
「かっこいいぞ……」
高橋幸もそう呟いたあと左サイドのネット前へ。
俺たちも自分の定位置に立つ。
後衛の紅玉が先にレシーブだ。前衛の俺はネット前に立ち、サーブの準備をしている蒼葛を見る。
「3ゲームマッチプレイボール」
「「「「ハイ!」」」」
自分たちのマジックテニス人生を掛けた試合が始まった。




