五十五話 作戦変更
『夜になれば再び暗部は攻めてくるでしょう。ただしコンペを明日に控え、一度実力行使も退けています。搦手で来る可能性が高いです』
イーディスは自らの電脳を通じて、ツーとスリー、そしてジーベックにいるエレンを含めたスターリングの面々に説明する。
『戦力が元に戻ったとはいえ、部隊を分けるのは得策ではありません。搦手に対抗するのも面倒ですので我々が派手に動くことで暗部の目をひきつけます』
「それで暗部の目をジーベックから逸らせると?」
『はい、暗部のリソースも無限ではありません。それに一度失敗し焦っている。目の前の餌に飛びつく可能性は高いです』
「私たちはどうすればいい?」
ネオンが代表して、イーディスに話す。
『新型のARMSが出てくる可能性はあります。それに対抗できるのはネオンのARMSだけです』
「分かった、任せて」
『一度使ったのですからもう一度使う可能性はあります。我々はチャック・ネイドを捕らえて情報を抜き出した後、すぐにカディアス・ベケットの排除に向かいます』
「頼む」
「イーディス、ちょっといいか」
『なんでしょう?』
「少し不味い事態になったかもしれない、これを見てくれ」
アレンは手に入れたデータをイーディスの電脳に送信する。
『これは…第六研究所の廃棄処分予定表ですか』
「十六行目を見てくれ」
『第九研究室の最重要実験サンプル、もしかして!?』
聖女イリステラが囚われてるのは第六研究所の地下十階にある第九研究室だ。
そこの最重要実験サンプルと聞いて想像するのは、聖女イリステラ本人のことだ。
『アレン、この情報はいつのですか!?』
「ついさっき手に入れたものだ、第六研究所の第九研究室に関する情報を見つけたら抜き取るように設定したスパイウェアが入手した」
『作戦を変更します!、今すぐに第六研究所に向かいます!』
「落ち着いて、イーディス」
『落ち着いてなどいられません!、今この間にもイリステラが殺されたら…!?』
「だから落ち着けと言っている」
ネオンは怒鳴ったわけではなかったが、その言葉から物理的な重さを感じたような気がした、それは通信越しのイーディスも感じたようだった。
「焦りは冷静な思考を奪い、行動の正確さを鈍らせる。だから落ち着く、深呼吸して」
『私に有機肺はありません』
「軽口が叩けるなら上等」
『ありがとうございます、ネオン』
「ん」
『理由は不明ですがイリステラを殺すというのなら我々は何がなんでも彼女を奪いに行きます』
『アレン、助けてください』
「いいぞ、何をして欲しい?」
『ハッキングで我々を援護してください』
「任せろ」
『チャックとカディアスの件はスターリングに任せられませんか?、我々の装備は何を使っても構いません』
「んー」
ネオンは思案する、今の戦力でチャックの拉致とカディアスの暗殺、その両方が成し遂げられるかと。
「ネオン、シルヴァーナを使ってツー、スリーに協力してもらえば可能じゃないか?」
「ん?、それなら出来るかも」
『出来ますか?』
「出来ると思う」
『それではお願いします、こうなった以上は速さが命です、ジーベックに暗部が来る前に作戦を発動します。それではアレン、ネーニャのスピリット小隊との回線を繋げますのでバックアップをお願いします』
「了解。ネオン、俺は多分こっちにかかりっきりになる」
「ん、任せて」
頷いたアレンは、振り向いて皆の顔を見る。
「言葉はいらないよな?」
「うむ」
「ああ」
『はい』
リオン、ゼナ、エレンの返事を聞いたアレンは、ツーとスリーの二人と顔を合わせる。
二人はネオンとリオンとの戦闘で、義体を破損させていたがアレンの手により、天使の輪っかを模した外部通信ユニットと共に修復済みで戦うのに問題はない。
「二人に助けて欲しい。これが取引外のことなのも理解してる、修理した対価を払えってわけでもない。ただムカつくクソ野郎の顔を自分たちで殴りたくないか?」
アレンの提案に、顔を見合わせたツーとスリーは、共に笑顔を浮かべた。
「素晴らしい提案だね、乗るよ!」
「神が言っているのだ、自ら鉄槌を下せと!」
テンションが高い二人に、発破をかけた側のアレンが思わず苦笑してしまった。
「それともう一つ提案があるんだが、二人とも正式な名前を名乗らないか?」
「「正式な名前?」」
「いつまでも番号呼びってわけにもいかないだろ?、それに俺はあまり番号で呼ぶのは好きじゃないんだ、嫌なら今のままでも構わないが」
「考えたこともなかった」
「そうだね、番号で呼ばれるのに慣れてたよ」
「昔の名前を名乗るのは…なんか嫌だな」
「同感だね、未練もないし、そうだ!、団長が名付けてよ」
「俺が?」
「うん、団長はネーミングセンスありそうだし、どう?」
「私もお願いしたい」
「いいけど気に入るかは分からないぞ」
予防線を張りつつ、アレンは真剣に二人の名前を考える。
「君がイドラで、君がカーリーってのはどうだ?」
アレンはツーにイドラ、スリーをカーリーと名付けた。
「イドラ」
「カーリー」
「気に入らないか?、それなら別の…」
「いや、気に入った。私はイドラ」
「私も、これからカーリーって名乗るよ」
「気に入ったら良かったよ、ぐぇ」
突然首根っこを掴まれたアレンはうめき声をあげる。
「アレン、仕事だよ。イドラ、カーリー、一緒に戦うなら私の指揮下に入ってもらうから」
「分かった」
「指示には従うよ」
「よろしい、さぁ、アレン、キリキリ働いて」
「お、おい、なんか当たり強くないか?、名前は大事だろ」
「そうだね」
「さらっと流すな!、名前は大事だ、ネオンも知ってるだろ」
「ん、知ってる」
「ニヤニヤしてる暇があるなら、出撃の準備をしたらどうだ、ネオン君」
「君呼びはやだ、呼び捨てがいい」
「ネオン、出撃しろ」
「ん!」
ネオンは、アレンから離れると今にもぶちぎれそうなゼナと、憮然としたリオンの顔が目に入る。
「…私は謝らない」
「謝れよ!、時間は有限なんだぞ!?」
「ネオン、戦前に男と睦事とは」
「うるさい!、シルヴァーナのアクティブステルス機能を使って目標のビルに接近する、イドラとカーリーはイーディスたちの熱光学迷彩装備を借りて、こっちも同じくステルスで接近する、ゼナとリオンはシルヴァーナに乗って移動する、二人の装備はイドラとカーリーが運ぶ、エレンはバックアップ、作戦は以上、質問は?」
「二人の装備ってどのくらいの重さかな?」
「狙撃用長距離レーザーライフルと、長い剣と短い剣が二本」
「それなら私とイドラでも運べると思う」
「ん、協力ありがとう。皆には迷惑かけるけど、一緒に戦えて光栄、全員生き残ってこの星を出る」
ネオンの言葉に、皆一様に頷くのだった。




