五十六話 クラッキング
アレンが齎した情報による作戦変更で、リュケイオンの船内で慌ただしく、シスターズが動き回る中、少数のスターリングは出撃準備を整えた。
ネオンはシルヴァーナのコックピットに乗り込み、ゼナとリオンの二人は初めてその中に入る。
「これが宇宙で唯一の第九世代ARMSのコックピットか」
「操縦系も全く知らぬな」
「当たり前、シルヴァーナはアレンがゼロから開発した機体、コックピットの内装や操縦系だってアレンが設計した」
「それを聞くと本当にうちの団長は天才だな」
「そのような陳腐な言葉で片付けて良いのかすら疑問でござる」
「そう、アレンはすごい。それとコックピットを汚したら許さないから」
コックピットに座ったネオンは、戦闘支援AIのシルヴィを呼び出す。
「シルヴィ」
『なんでしょう』
「紹介する、傭兵団の同僚のゼナとリオン」
『初めまして、シルヴァーナの戦闘支援AIシルヴィです、以後お見知りおきを』
「お、おう」
「よろしく頼む」
『はい。ネオン、既にセルフチェックを完了しており、全システムオールグリーンです、いつでも出撃可能です』
「さすが。イドラ、カーリー、こっちはもう出られる、そっちは?」
『準備完了』
『いつでも出れるよ』
「了解」
ヘルメットを被ったネオンは、ゼナが補助席に座り、リオンが座席に設置された整備用の取っ手を掴んで足場に足を乗せているのを確認した。
「こちら、スターリングのシルヴァーナ、発艦許可を求む」
『既に許可は降りています、ハッチを開放しますので其方のタイミングで出撃してください』
「分かった」
リュケイオンのオペレーターに、出撃タイミングを任されたネオンは、再びイドラとカーリーと通信する。
「通信封鎖をするから目標地点で合流するまで通信はできない、二人はその天使の輪っかでも通信はしないこと、ステルスが意味なくなるから」
『『了解』』
「ん、シルヴァーナ、発艦する」
熱光学迷彩を起動したシルヴァーナは透明になり、そのままリュケイオンの格納庫から飛び上がる。
そのまま上昇したシルヴァーナは、雲に入るスレスレで、飛行形態へと変形し、目標地点まで飛ぶ。
「重力圏でも自由に飛行できるとか、イカれてるな」
「うむ。重力圏でARMSを運用する場合はフロートを使うのが一般的でござるが、それすら必要ないとは」
「シルヴァーナは特別だけど、単独での重力圏飛行自体は存在する技術、ただコスパ悪いだけ、エース用のハイエンド機を一機作るか、一般兵用の量産機を五機作るか、それだけの話」
「ま、数は多い方が示威効果はあるもんな。中身はともかく」
血のにじむような訓練と数多の戦場を越えたエースパイロットと、そのエースパイロットが乗るハイエンド機の恐ろしさを、戦場を知らない人間は分からないのだ。
「ゼナとリオンだって、近いうちに乗るでしょ。二人の機体にはアクティブステルスはないけど」
「アレンに頼んでつけてもらうか」
「某は正々堂々の斬り合いを望む故要らぬな」
「いや、お前は遠距離武器を持てよ」
「弓なら使えるが、銃は苦手でござる」
「アレンに言って。それとそろそろ着く」
シルヴァーナの飛行速度であれば、目標地点まではそれほど時間はかからない。
飛行形態から格闘形態へと、変形したシルヴァーナは、目標のビルを発見し、降下する。
「シルヴィ、降下後目標の上空十メートルで待機して」
『了解』
「二人とも降りるよ」
ネオンの呼びかけで、コックピットのハッチを開き、警告音が鳴る中、サイドウインチが降り、ゼナとリオンはそれに掴まり、次々と降りる。
二人が屋上に降りたことを確認したネオンは、剣とレーザーライフルを持って、サイドウインチを掴んで、屋上に降りる。
サイドウインチを収納し、コックピットのハッチを閉じたシルヴァーナは真っ暗な空に消える。
十分ほど、待機しているとリオンは突然刀に手を伸ばす。
「!!」
「私たちだよ」
「熱光学迷彩装備を使ってたのに気付いた、すごい」
熱光学迷彩を解除したカーリーとイドラは、迷彩を解く前にリオンに気付かれたことに驚く。
「機械は苦手でござるが、お主たちは人、気配を感じるのでござるよ」
「「?」」
「リオンは五感が鋭い、それよりも装備を渡して、通信封鎖を解除、チャンネル027を使って」
ネオンの指示に従い、カーリーとイドラは運搬した装備をゼナとリオンに渡す。
「エレン、聞こえる?」
『はい、感度は良好です、いつでも』
「ん、行くよ」
屋上のロックをエレンのハッキングで破り、スターリングの面々はビルの中に侵入する。
ネオンは近くの電子端末に小型端末で有線接続する。
「エレン、二十二階の警備システムを無力化して」
『いいですよ』
エレンのハッキングにより、目標がいる二十二階の警備システムを無力化した。
『警備システムを無力化、目標地点への最短ルートを全員のHUDに表示します』
「ありがとう」
ネオンは率先して、非常階段を駆け下りて、二十二階へ急ぐ。
「エレン、対象はいる?」
『います』
「ん、警備員は?」
『いません、警備ボットが三機います』
「了解」
五分ほどで、目的の部屋に辿りついたネオンたちは素早く、ドアロックを解除する。
「カーリー、イドラ、私たちで警備ボットを排除する、対象に気付かれる前に確保」
「「了解」」
ドアを開けると、ネオンが突撃し、正面に立っていた警備ボットを両断する。
そのままリビングに入り、リビングにいた警備ボットをカーリーのレーザーライフルが撃ち抜く。
リビングを制圧すると、リオンが寝室に押し入り、その後ろにいたイドラが寝室の警備ボットをレーザーライフルで破壊する。
「な、なんだ!?」
警備ボットが破壊された音で飛び起きた小太りの男をリオンが拘束し、ベッドに押し付ける。
「ぐぁ、貴様ら何者だ、私を誰だと思っている!?」
「全室クリアだよ」
「ああ、人の子一人いない」
「ん、二人共、こいつがチャック・ネイド?」
「そうだよ」
「そう」
カーリーとイドラの言葉に頷いたネオンは、チャックの首に付けられたソケットに、有線を差し込む。
「やって」
『了解です』
電脳に強制接続された男は、ビクンと体を震わせたと思ったら先ほどまでの喚きが嘘みたいに静かになる。
「情報を引き出した後はこの男はどうする?」
「どうもしない、私たちは。復讐したいなら好きにすればいい」
ネオンに選択肢を与えられたイドラとカーリーは、お互いに顔を見合う。
「私は嫌いだけど殺すのは面倒、カーリーは?」
「私も同意見だけど、五体満足で返してあげるのはどうかと思うね」
「それなら不能にしてやる」
「良い提案だね、電子ドラッグでできるかな」
「やってみよう」
イドラとカーリーは男が聞いたら底冷えする内容の会話を交わしている間に、クラッキングが終わった。
「カディアスの居場所が分かった、こいつを始末するなら早くして」
「殺さない、電子ドラッグを打ち込むだけ」
首元から有線を伸ばしたイドラは、チャックに電子ドラッグを打ち込む。
「行くよ、目標地点はエグロン社本社ビル近くのビル」
ネオンの号令で、皆は部屋を出ていき、残された男の末路を気にする者は誰もいなかった。




