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五十三話 アレンの実力

「驚くのは理解できます、聖女イリステラは捕まっているはずだと」


イーディスの言葉にその通りだとネオンとリオンの二人は頷く。


「聖女イリステラはただの義体兵士ではありません、我々を生み出したイモータルエンジェル計画の最高傑作です、たとえ四肢の義体をパージされ五感を失い、電脳封鎖を受けたとしても彼女を完全に封じることはできないのです」


「ウィザード級ハッカー」

「まさにそれです、彼女は完全に拘束を受ける前にエグロン社のネットワークに触れて、分化する枝を植えました」


「枝?」

「盗聴やハッキングの隠語、つまり情報を抜き取る装置を付けたってこと、電子的に。分化するってこと勝手に枝を増やすの?」


「はい、ですので枝というより木という表現の方が正しいです。その木は葉を落とすように分化し、ネットワークに根を張ります。普段は沈黙していますが特定の信号を受けることで動き、その時のみ特定の情報をコピーします」


とんでもないハッキング能力に、ネオンは驚きを隠せないが、イーディスたちを統率するリーダーたる女であればという妙な納得感もある。


「さらに言うと一度使われた木は枯れて無くなります」

「証拠隠滅まで完璧」

「"落葉樹《ディシュツリー》"。情報を抜き取るのに時間を掛かることにさえ目をつぶれば、最強のスパイウェアです」


◆◆◆◆


「任意起動型分化スパイウェアか、それも自動消去機能付きの。優秀なハッカーだな、聖女様は」


ブリーフィングルームでの話を聞いたアレンの感想に、リオンは思わずネオンの方を見る。


「今のがアレンの感想でござるか?」

「ん、ほぼ予想通り」


「ウィザード級ハッカーを優秀なハッカーってお前な」

「ゼナ、俺もそのウィザード級なのを忘れてないか?」


「いや、だってアレンはアレンだ」

「褒めてるのかそれは?」

「ハッカーらしくないって意味だよ、ハッカーって言ったら複数のパネルと電脳を接続してるイメージがあるし」


「そういう連中と一緒にされるのは困るけど、まぁ、言いたいことは分かるよ」


アレンは体の何処も義体化していないし、もちろん電脳化もしていない。


「アレン、見せてあげて、ハッカーの実力を」

「嫌だよ」

「むぅ」


「別にゼナが正しく理解してなくてもいいんだよ、俺にはそのスパイウェアは通用しないって分かっていれば」

「通用しないのか?」

「しないぞ」

「マジかよ」

「マジだよ」


それならアレンがウィザード級ハッカーを優秀としか言わないのも納得だ。


「同格なんだよな?」

「おそらくはな。俺は守りの方が得意なんだよ。それで聖女様の話もいいけど、件の作戦については?」


「今夜決行するらしい。それと私たちは参加しない」

「そうなのか?」

「ん、アレンには引き続き義体の修理をして欲しいのと、カディアスの始末を任せるからって。まだ了承はしてない」


「なるほど」


借りた作業台の上で作業を続けながら、アレンは一瞬考える。


「義体の修理についてはむしろこっちからお願いしたいくらいだ。話は変わるけど聖女様の救助計画についてイーディスたちは何か言っていたか?」

「んん、何も」


「そうか、作戦の了承ついでにイーディスたちに会おう、まだブリーフィングルームに居るか?」

「多分」


作業を終わらせてから、皆を連れてブリーフィングルームを訪れたアレンを、イーディスたちは歓迎する。


「アレン、不自由していませんか?」

「大丈夫だ、皆も元気そうで何よりだよ」


「「「「…///」」」」


アレンの言葉に五人の小隊長は照れた様子を見せ、それを見たネオンは額に青筋を浮かべた。


「?」

「アレン、こいつらの首を刎ねたい」

「彼女たちは味方だぞ?」

「関係ない」

「関係あるよ」


ネオンの頭を撫でて宥めたアレンは、五人の小隊長に片目を瞑って謝る。


「気を悪くしないでくれ」

「い、いや、大丈夫だ。正妻のネオンさんが気を悪くするのは当然だ。変な態度を取って申し訳ない。恩人の前で緊張しているだけなのだ」


「許す」

「なんでお前が?」


「コホン、俺が来たのは君たちが行なっている諜報活動を手伝わせて欲しいからだ。まだ聖女様の居場所は特定できていないんだろ?、セキュリティが強固で」


「!?、どうしてそれを?」

「君たちは優秀だ、でも電子戦はウィザード級ハッカーの聖女様に依存していたんじゃないか?」


アレンの指摘は的を射ていた、アレンがそう考えたのは諜報活動に聖女イリステラのスパイウェアを使っていると聞いた時だ。


「ハッカーは他人のツールを使わない。だから君たちの中にハッカーはいないと考えた。俺の推測は間違ってるか?」

「いいえ、その通りです。聖女イリステラがいる限り我々の中にハッカーは必要ありませんでした」


「ウィザード級ハッカーはそういう存在だからな。それで最初に話が戻るんだが、俺にハッキングを手伝わせて欲しい」

「アレンのことを侮辱する意図はないのを前提に聞いて欲しいのですが、ハッカーとしての実力はどの程度なのですか?」


「貴女たちのリーダーと同じウィザード級ハッカー、過去に共和国の兵器開発技術局のデータサーバーを破壊して、軍部の偉い人達の機密情報を流出させた。他には当時の首相を…」

「おい!?、どうして知ってるんだよ!」


「やっぱりアレンがやったんだ」

「やってない、断じてやってない」


「何をやらかしたんだよ、うちの団長様は」

「首相という単語が聞こえたが」


「いーや、ネオンは何も言ってないぞ。なぁ、ネオン」

「ふがぁ、ふがぁ」


口を強制的にアレンに塞がれ、もがいていたネオンだったが、小声でアレンに囁かれるともがくのを止めて、黙る。


「自慢したいのに」

「喧伝することじゃない、違法行為だってこと忘れてないか?」

「気にしたことなんてないくせに」

「何か言ったか?」

「んん、何も」


「もしかしてあの事件の犯人って…「(ギロリ)」アレンは凄いハッカーなんですね」


アレンに凄まれたイーディスは、適当に誉めそやす。


「それで俺の実力には納得できたか?」

「それはもう十分に」


アレンがハッカーとしてやったことにはツッコまない方がいいのだろうと考えたイーディスは、仲間たちにもそれを伝達し、仲間たちも深く同意してくれた。


「ありがとう、ここの設備を使っていいか?」

「ご自由に使ってください」


イーディスの了承を得たアレンは、小型端末から何かをホロディスプレイに送信し、ウインドウを表示させる。


さらにホロキーボードを叩いたアレンは、ブリーフィングルームの中央に大きな球体をホログラムで表示する。


「これは?」

「エグロン社本社のセントラルネットワーク、その擬似モデルだ」


アレンはホログラムの中に立ち入ると、一部分に触れてズームし、先程送信したウインドウを電子的に加工した剣で、突き刺す。


突き刺された箇所が一瞬赤く光るが、すぐに消え、剣は中に入り込む。


「ファイヤウォールを!?」

「いや、まだ破ってない、今通り抜けたのは表層のようなものだ、本命はさらに下にある」


どんどん深く入り込む剣を見ながら、アレンはホロキーボードを素早く叩く。


「複合装甲防壁《アブーレティブシェル》だ、複数の防壁を重ねることで強度を乗算させる、おまけにこの防壁は、破壊されたら再生する仕様だから時間を掛けることはできない。"落葉樹《ディシュツリー》"ではハッキングできなかったのはこれが理由だ」


聖女イリステラ本人がいたら関係ないのだが、言っても詮無きことなので、心の中にしまう。


皆に説明しながらも、アレンの手は止まらず、入り込んだ剣が、より鋭く研磨されていく。


複合装甲防壁《アブーレティブシェル》を破る方法は単純だ、再生する暇すら与えず一撃で破壊すればいい。


そのためには複合装甲防壁《アブーレティブシェル》の全ての障壁の情報を入力する必要がある。


幸いというわけではないが、使用されている複合装甲防壁《アブーレティブシェル》の型式はアレンにとって既知のものだ。


「よし」


刀身を伸ばした剣で、幾重にも重なった複合装甲防壁《アブーレティブシェル》を斬り裂いたアレンは、障壁が完全に再生する五秒間で、必要な情報を抜き取った。


「アレン、終わった?」

「ーーー」

「アレン?」

「ん?、ああ、終わったよ」


ネオンに応えたアレンは抜き出したデータを、イーディスの電脳に送信する。


「アレン、これは!?」

「ハッキングで手に入れた聖女イリステラの現在地は、エグロン社本社の第六研究所の地下十階にある第九研究室だ」


シスターズはついに手に入れた最重要情報に拳を握り、ネオンはアレンをじっと見るのだった。


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