五十一話 撤退と奇跡
いつ暗部の兵隊が戻ってくるか分からない状況で、ネオンはリュケイオンへの撤退を決めた。
今撤退すれば暗部から追跡を受ける可能性は低いと考えたからだ。
「ジーベックを捨てるのか?」
「捨てても問題ない、暗部が欲しいのは機密データ、私たちの船じゃない」
「それでもサボタージュをされたら面倒だ」
「誰かが残るしかないな、私とエレンが適任か?」
「いいえ、私だけで十分でしょう。生体スキャンには引っかかりませんし、暗部も貴重な資源と時間を浪費して、機械知性の機体を破壊しようとは思わないはずです、無駄ですから」
「分かった、何かあったらすぐに教えて。イーディスたちが助けに行く」
「お願いします、アレン様の船を傷つけるわけにはいきませんから」
「任せてください、とりあえずリュケイオンへの撤退を優先させましょう。輸送手段ですが…」
ネオンはイーディスが、リオンとゼナをシエラ、アレリア、キアラの三人のうち二人が運ぶとして、ツーとスリーを運搬するには一人足りない。
「ツーは難しいけど、スリーには自分で飛んでもらえばいい」
「大丈夫ですか?」
ツーとスリーとネオンたちが取引したことを聞いているイーディスだが、懸念は示しておく。
「問題ない、自殺する人間を止めはしない」
「彼女を置いて何処かに行ったりしないよ、私たちは運命共同体だから」
「クサい台詞を言うな」
「事実だからね」
「問題ないなら構わない、暗部が戻ってくるまでにさっさと移動しましょう」
◆◆◆◆
エレンとアレン謹製の二機の戦闘ボットをジーベックに残して、イーディスたちは空を飛んで撤退する。
『ツーとスリーの二人と、イーディスたちは似てるけど同じじゃないよね?』
『同じというのは同一の人間が設計したかという意味ですか?』
『ん』
『その意味なら私たちと彼女たちは違います、彼女たちはおそらく聖女イリステラを参考に作られた劣化コピーの義体でしょう』
『劣化コピー?』
『本物の聖女イリステラと同程度の義体性能であったら、リオンは無傷では済みません』
『なるほど、つまりエグロン社もしくは裏切ったマキウス教会の技術者には鉄人会の技術を再現することはできなかったと』
『そういうことです』
『でもマグラートリアクターは再現できたんでしょ?』
『アレンの方が詳しいと思いますが、マグラートリアクターの技術自体は協定の影響で、広く知られていますから』
『協定?』
『マグラート協定です、マキウス教会と各星間国家が結んでいるもので、マグラートの供給量に関する決め事が主だとか、リアクターの技術はその協定が結ばれた際に教会側から渡したものだそうです』
『へー、それじゃあ二人とイーディスたちは似てるけど全然違うんだ』
『その表現はいささか違いますね、私個人としては聖女イリステラを侮辱するような彼女たちの存在を嫌悪していますが、彼女たち個人にそのような感情は抱いていません』
『どうして?』
『剣を振るわされた人間と剣を作った人間、悪いのはどちらかという話です』
『なるほどね』
『ですが今の私たちに彼女たちを助ける余裕はありません、二人のことはお願いします』
『…アレン次第』
そう言いつつもアレンは受け入れてくれるような気がするネオンだった。
◆◆◆◆
リュケイオンに来ると、皆は一様に格納庫へと顔を出した、正確にはイーディスたち天使が行くので付き合ったというのが正解だったのだが、アレンの仕事ぶりに興味があるのも事実だった。
「これは現実か?」
「ふん、現実だ、イーディス、まさかとは思うが我々が寝ている間に回路がショートしたわけでもあるまい」
イーディスの言葉に答えたのは、医療ポットに腰掛けた全身義体の黒髪女性のものだった。
「「「レイナ!」」」
「迷惑を掛けたな、皆。ここにいる十五人を代表して謝罪する」
格納庫に置かれた十五個全ての医療ポットのハッチが開き、その中にいた十五人全員が目を覚ましていた。
「いや、ここはただいまだろう」
「そうだね」
「うん!」
「本当に不甲斐ない」
「ただいま!」
「おひさー」
「元気そうだな」
「私達も元気だよ!」
「義体を損傷している奴も多いがな」
「私たちは五人に足元を向けて眠れないや」
「何を言ってる、元々足など向けて寝たことなどないだろう」
「比喩だよ」
「あの青年には感謝せねば」
「あのARMSにもだね」
「「「「皆!!」」」」
シスターたちの感動的な再会が始まり、スターリングの面々は彼女たちに配慮して、距離を取った。
アレンの姿を探すネオンは、シルヴァーナの足元でその姿を見つけた。
「アレン!」
「すー、すー」
アレンは寝袋の中で、爆睡していた。
「アレンさんは皆を蘇生し終えた後、突然気絶して爆睡した」
「お前は確かメーヴェとか言ったけ、メーヴェさんが寝袋を?」
「ん、皆を救ってくれた恩人を冷たい床の上に放置するわけにはいかない、本当はベッドに連れていきたかったけど、このARMSのAIが目の前から離したら暴れるって言うから仕方なく」
「ナイス、シルヴィ」
『当然のことをしただけですよ、ネオン』
「ーーー」
「メーヴェさん、理解して欲しい、アレンは私たちの団長だから。それよりもあの輪に加わらなくていいの?」
「もう十分再会は堪能した、あんたたちはリュケイオンに来るのは初めてだし、一人くらいは勝手を知ってる人間がいないと困るでしょ」
「アレンの寝袋も含めてありがとう」
「某からも感謝を」
「ありがとよ、メーヴェさん」
「ん、当然のことをしただけ」
「それにしてもこの短時間で十五人分のリアクターを修理するとか、とんでもねえなうちの団長はよう」
「然り」
「この男がお前たちの傭兵団の団長なのか」
「ネオンが団長だと思ったよ」
ツーとスリーの素直な言葉に、ゼナは笑う。
「確かに、腕っ節だけならアレンよりもネオンの方が強いだろうな」
「某の方が強いでござるよ!、単分子剣なぞに某の剣は負けぬ!」
「リオンの刀がどれ程の業物でも、私の剣には勝てない」
「何故!」
「私の剣を作ったのはアレンだから」
「ぐぬぬ、認めぬ!、論より証拠、今すぐ某と剣を合わせよ、ネオン!」
「いいよ、受けて立つ」
「止めろや、お前ら疲れ果てた我らが団長がいるのを忘れてないか?」
「「あ」」
「自我の強いこいつらもアレンの下でならまとまれるってわけだ、無論私も含めてな、ネオンの下なんかごめんだね」
「某も嫌でござる」
「私だって自我の強い部下は嫌」
「「「喧嘩なら買うぞ?」」」
(三人が喧嘩し始めたら仲裁する人間がいないのでは?)
(この連中をあの男がまとめているのか)
内心そんなことを考えるツーとスリーだったが、ちょうど注目していた寝袋が動き、アレンが起き上がる。
「ふぁ、一時間経ってないくらいか。あれ?、どうして皆がここに?、それとそっちの二人は誰だ?」
状況を上手く飲み込めないアレンが起床した。




