四十九話 取引と襲来
「できるのでござるか?」
「試してみる価値はあると思う」
ネオンの提案に驚いたリオンの疑問に、ネオンは淡々と答える。
「ふむ、剣奥とは活人なりか」
「何それ?」
「某の師の言葉でござる、人を活かす剣が剣の秘奥という意味だ」
「良い言葉」
「うむ、至言に違いない。時間は少ないが協力しよう」
リオンはまず放り投げた刀を回収し、鞘に納める。
その間にネオンは、地面に倒れて呻き声を上げる二人の義体兵士に近寄る。
戻ってきたリオンはいつでも義体兵士たちを斬れるように、反対側に立つ。
「そこの二人、私の声は聞こえる?」
「うぅ、誰だ」
先程に加え通路から落ちてくる前にもネオンと死闘を繰り広げていた二枚翼の義体兵士が誰何する。
「私はネオン、さっきまでお前と戦ってた女。お前の名前は?」
「名前は…ない、強いて言うなら02が呼称と言える」
「そう、そっちは?」
「同じだよ、03が呼称かな」
四枚翼の義体兵士は淡々と答える。
「仮にツーとスリーと呼ぶ。二人に提案がある」
「「提案?」」
「ん、私たちの側につく気はない?」
「何だと?」
「私たちは傭兵団スターリング、別に機密データには興味の欠片も無い、でも暗部のカディアス・ベケットを始末しない限り私たちは一生狙われる、だから二人にはカディアスの排除を手伝って欲しい、その対価に二人をどこでも自由な場所に運んであげる」
「「ーーー」」
ネオンの提案を聞いた二人は、押し黙る。
「彼女と話させてくれ」
「構わない」
ネオンは両腕を失ったツーを起こして、片腕を失ったスリーと向かい合わせで、話せるようにする。
「03、これは神の啓示かもしれない」
「02って普段は冷静沈着なのに信仰が絡むと急にバカになるよね?」
「バカとは失礼な、私はあのクソ坊主の元で神への奉仕が遂行できるとは思えない」
「こういう状況で私が説得する側になるとは思わなかったよ、でも言わんとしてることは分かるよ」
「そうだろう、それで03の意見は?」
「私の意見を言う前に、ネオンさんに聞きたいことがある」
「ネオンでいい」
「ネオン、どうして02を殺さなかったの?」
03には戦術リンクで同期していた影響で、02の状況を知っていたので、あえてネオンが殺さなかった理由を聞いてみたかった。
「私は自由に生きられないことの辛さを知ってるから、ましてや他人の命令で死ぬなんて許されちゃいけない」
「…自爆すると気付いていたのか」
「義体人間と戦うのが初めてだと思う?」
「なるほど」
義体人間が厄介なのはしぶといだけでなく、時折自爆するようなイカれた人間がいるからだ。
ネオンには自爆するなんて全く理解できない、リオンも深く頷いているのを見るに、同感なのだろう。
「そういうことなら私はその提案を受けるよ」
「随分とあっさりしているのでござるな」
「ネオンのその言葉だけは信用できると思った、それだけだよ、それに私たちの前に転がってる選択肢の中で一番上等に見えたってだけ」
「そういう意味では交渉が上手いな」
「私たちは敵同士だった、敵には容赦しない。取引を持ちかける時も」
「ネオン、そろそろ時間でござる」
「ん、そうだね」
ネオンは、落ちてきた通路を見上げつつ、エレンに通信する。
『エレン、こっちは何とか終わった、私とリオンは無事。そっちの状況を教えて』
『こちらは戦闘ボットを無力化し、暗部の兵隊を撤退させましたが一つ問題があります』
『聞きたくないけど教えて』
『黒魔女隊の陸戦部隊が現れました、要求は一つです、《銀翼》のパイロットに会わせろと』
一番現れて欲しくない奴らが現れ、ネオンは顰めっ面になるのを我慢するのだった。
◆◆◆◆
当初の作戦通り、戦闘ボットは援軍として投入された戦闘ボットも含めて、エレン謹製の攻勢ウイルスにより、無力化することに成功した。
生き残っていたパワードスーツ兵も倒したことで、暗部の兵隊は一時撤退を選んだが、その後すぐに漆黒のパワードスーツに身を包んだ人間が大勢現れ、イーディスたちを半包囲した。
「最悪だ、あの漆黒のウィッチキャップのパーソナルマークを見ろ、黒魔女隊の陸戦部隊だ」
「その通り、ゼナ・ハーヴェイ元大尉」
「!?」
パワードスーツ兵たちの中から、一歩前に出てきた兵士がゼナの名前を言い当てる。
「回りくどいのは嫌い、《銀翼》のパイロットに会わせろ。隠すと皆のためにならない、そこの機械知性と似非天使共は余計なことをするな」
釘を刺されたエレンと、イーディスたちは、反撃するのを止めた。
判断に迷った瞬間、エレンの元にネオンから通信が来た。
『先に確認しますが《銀翼》のパイロットはネオンのことなのですか?』
『ん、《銀翼》はシルヴァーナの異名、戦場で戦ううちに敵が勝手に呼んだ』
『なるほど、会いますか?』
『会うしかない、私たちの戦力じゃ黒魔女隊の精鋭部隊には勝てない』
『危険だと思います』
『それは承知の上』
『貴女がもし死ねばアレン様は深く悲しまれます』
『私は死なない、通路の下にいるって言って』
『分かりました』
◆◆◆◆
エレンからパイロットの居場所を聞いたエレシア・レン少佐は部下に確認を取らせてから、数人の部下を連れて、ドッグの中に降りる。
「一体誰がパイロット?」
「私」
「お前か」
エレシア・レン少佐は、パワードスーツのヘルメットを格納し、直接ネオンを観察する。
「確かに超弩級の美人」
「ありがとう」
「褒めてない、今のは感想。私は連邦航宙軍特務ARMS中隊《黒魔女隊》所属のエレシア・レン少佐。お前の名は?」
「ネオン・ヴァイク、ただの傭兵」
「ネオン・ヴァイク、私とお前は会ったことがある一年前のエルドフィール宙域で」
「少佐ってことは、お前はもしかして《黒兜》?」
「その異名で呼ぶということはどうやら本物みたい、こうして会えて嬉しい、《銀翼》」
「私は嬉しくない」
「そうかも」
プシューという音が聞こえると、パワードスーツの背中が開閉し、ぴっちりとした戦闘用スーツを着たエレシアが降りてくる。
「どういうつもり?」
「私はまどろっこしい問答はしない、それともその腰の剣は飾り?」
パワードスーツの腰に固定されていた剣を鞘ごと抜き、己の腰元に差したエレシアが何を言わんとしてるかを、ネオンは理解する。
「質問に答えてない」
「お前は自分の脅威を理解していない」
「私はもう《銀翼》じゃない」
「それは客観的には分からない、お前が《銀翼》だった事実は変わらない。それでもこの国で生きたいのなら私に証明するしかない、時間は少ないよ?」
暗部の援軍を黒魔女隊が抑えていると考えると、その抑えは彼女の言う通り長くないのかもしれない。
いや、黒魔女隊には長居する気がないのだろう。
「ーー」
全てを理解したネオンは首に掛けていたレーザーライフルを外して、リオンに渡す。
「そう、言葉はいらない」
「ん、ただ剣だけが語る」
お互いに剣へと手を伸ばしたネオンとエレシアは身構え、ネオンは己の存在を証明する戦いへ踏み込んだ。




