四十八話 剣士リオン
アレリアが、同期通信により、仲間たちにウイルス感染作戦を伝えた瞬間、義体兵士と戦っていたネオンは、真横の壁をぶち破って、義体兵士と一緒に外に落ちてしまった。
『ネオン!?』
『大丈夫ですよ』
『相手は聖女モドキ、援護した方がいいんじゃない?』
『イーディスが大丈夫というのならば信じる』
「ネオン!」
ネオンが義体兵士と一緒に落下したことに気付いたリオンは、こちらにアイコンタクトを送り、ネオンを追って、破壊された穴から外に出た。
『援護は彼女の仲間に任せる』
『そうだな、私たちは戦闘ボットを無力化するぞ』
同期通信を終えたシスターズは、ウイルス感染作戦を実行に移す。
◆◆◆◆
ラウンジと船を繋ぐ通路から落下したネオンと義体兵士は、すぐ近くにジーベックの船体が見えるドックの中に転落する。
空中で斬り合いながらも、お互いに蹴飛ばし合い、ネオンは受け身を取って着地し、義体兵士は暗赤の機械翼を広げて、空中に留まる。
右腕から銃口を出して、ネオンを狙った義体兵士へ上から降ってきたリオンが、機械翼のスラスターを斬る。
「っ!?」
スラスターを一基失い、姿勢制御に注力する義体兵士に、ネオンは容赦なくレーザーを浴びせる。
パーソナルシールドを展開した義体兵士は、レーザーを受けながら墜落しないように、ゆっくりと地面に降りてくる。
「ネオン、助太刀に参った」
「ん、正直助かる」
「それは重畳、相手は最新鋭の義体を積んだ手練でござろうからな」
「面倒、特に機械翼が邪魔」
「うむ、ただの機械翼ではござらん、某が一太刀で断てぬほど硬い」
「やっぱり面倒」
ため息を吐きたくなるネオンは、レーザーライフルのエネルギーパックを交換して、リロードし、着地する義体兵士を細かく注視する。
義体兵士は、右腕から銃口を覗かせながら、左腕を変形させ、近接ブレードと銃口を覗かせる。
パーソナルシールド越しにこちらを鋭く見ているのが、ヘルメットにより表情が見えなくとも分かった。
その時、輸送機のローター音が響き、二人は目の前の義体兵士から目を離さず、上を見ると、輸送機が一基の降下ポッドを、シスターズとエレンたちが奮戦する通路に落としていくのが見えた。
「敵の増援か」
「うむ、しかしこちらへ来た選択は間違ってなかったようでござる」
「優先排除対象を確認」
先程戦っていた義体兵士と、同じようなフォルムの機械翼を広げた義体兵士が二人の目の前に降り立ち、無機質な声で告げる。
先程まで戦っていた義体兵士と似通っている部分は多いが、翼の枚数が四枚と先程の兵士よりも二枚多かった。
「戦術リンク構築」
「戦術リンク同期」
二人の義体兵士は、お互いに同期しているように見えた。
「リオン、四枚翼を任せる」
「承知」
「「対象を排除する」」
「「斬る!」」
四人はほぼ同時に動き出し、義体兵士の二人はネオンに狙いを定め、腕を変形させた銃口から弾丸とレーザーを発射させる。
「舐められたものよ!」
「っ!?」
四枚翼の義体兵士の射線に躍り出たリオンは、脇差しを抜き、レーザーを斬る。
宇宙に存在する数多の剣士の中でも、ほんのひと握りの剣狂いたちだけが、行なう光線斬りに、義体兵士は驚愕を強いられ、ほんの一瞬だけ、近接ブレードを抜くのが遅れ、レーザーの銃口を斬られてしまった。
機械翼のスラスターを噴射して、距離を取った四枚翼の義体兵士に対し、リオンは脇差しを鞘に戻し、刀の鞘に手を添えながら、地面を蹴って踏み込む。
「情報更新、優先排除対象を追加」
「そうでなくてはな!」
抜き放たれた刀の刃を、義体兵士は翼で受け止める。
リオンの腕と彼女の故郷で打たれた名刀"狐月"でも、機械翼は一太刀では斬れない。
居合は速さに極振りした剣技であり、受け止められたこの瞬間だけは、卓越した身体能力を見せるリオンの足も止まる。
そこに勝機を見出した義体兵士は、機械翼で刀を受け止めた瞬間、残った三枚の翼をリオンへ突きを放つように打ち、左腕を変形させる。
リオンは刀の柄を両手で握り、三枚の翼の突きを弾く。
驚く義体兵士だが、もはや構ってられず至近距離で、左腕の銃口からレーザーを放つ。
光とリオンが刀を戻す速度、どちらが速いか比べるまでもない。
リオンの脳天をレーザーが貫くその瞬間、刀を捨てたリオンは、羽織の袖で、レーザーを受け止める。
レーザーの熱線と言えども、レーザーの中でも迷わず突っ込む帝国の剣士御用達の羽織の袖を貫くことは敵わない。
左腕を炙られながらも、リオンは義体兵士に寝技を仕掛け、首に両脚を組みつかせ、露出した左腕の銃口を掴んで、体重をかけて引き倒す。
「この腕貰い受ける!」
「!!」
メキメキと左腕が軋み、脚で首を絞められる義体兵士は、機械翼のスラスターを噴射して、地面と擦り合いながら、リオンをどうにかして引き剥がそうとする。
「ぐっ!、この程度で某を引き剥がそうとは笑止!」
「っ!!!」
露出した銃口ごと関節部を引き抜かれた義体兵士は、左腕を失い重心がおかしくなったことで、地面を転がる。
リオンも同じように地面を転がるが、何とか受け身を取って、着地する。
「覚悟!」
脇差を引き抜いたリオンは、義体兵士へ真っ直ぐ斬り掛かる。
警告表示がいくつも視界に浮かび、一際大きな表示が目に飛び込む。
『戦闘継続能力が低下、自爆機能を起動します』
その瞬間、戦術リンクを同期させることで相方の状態を把握できる二枚翼の義体兵士は、相方が自爆しようとしていることに気付く。
相方の自爆機能の起動を知った僅かな感情の隙をネオンは見逃さない。
「シッ!」
「!?」
至近距離で放たれるレーザーを二本の近接ブレードを交差させて、防いだところで、レーザーライフルを手放したネオンが抜き放った単分子剣が、両腕を斬り飛ばす。
斬撃で両腕だけではなく、ヘルメットも破壊された義体兵士の視界に幾つもの警告表示が浮かび、一際大きな表示が浮かぶ。
『戦闘継続能力が低下、自爆機能を起動します』
「!!」
トドメを刺そうと剣を振り上げたネオンの耳に微かに義体兵士の声が聞こえた。
「死ぬことすら自由にできないのか」
「!!!」
ネオンは、義体兵士の頭の上に浮かぶ天使の輪のような外部通信ユニットを斬る。
「リオン!、頭の輪を斬って!」
「…承知!」
ネオンの叫びに呼応したリオンは、迷わず四枚翼の義体兵士の外部通信ユニットを斬る。
「「!!?!」」
その瞬間、二人の義体兵士の身体が、ビクビクと震え、地面に倒れる。
「が、ああ」
「あああ」
頭部の通信ユニットを失った二人は、呻き声を上げて頭を抱える。
残心を残すリオンだったが、地面の上で蹲る二人に敵対する様子はない。
「ネオン、これは?」
「こいつらはシステムかウイルスで制御されてた、おそらくそれは頭の輪を起点に制御してた」
「頭の輪?、電脳ではなく?」
「それだと一人一人の電脳にいちいち指示を出す必要がある、それだと非効率」
電脳を持つ義体人間を統制するやり方は軍で腐るほど見てきた。
「なるほど、それでこやつらはどうする?」
電脳を持つ全身義体の人間は簡単には死なない、首をはねても電脳の性能によっては殺すことはできないのだ。
「少し試してみたいことがある」
ネオンの提案にリオンは目を見開き、驚くのだった。




