四十六話 粒子電池と衝突
ネオンとイーディスが出ていき、二人きりになったアレンとメーヴェは黙々と作業を進めていたが、突然メーヴェが口を開く。
「アレン、このARMSは貴方が造ったの?」
「設計したのは俺だ、その機体を見てもまだ信用できないか?」
「いいや、逆にこんなARMSが現実に存在してることに驚いている」
「鉄人会の天才たちなら造れそうなものだけどな」
「彼奴らが興味があるのは義体だけ」
「そっか、俺からするとどうしてARMSに興味を持たないのか理解できないけど、納得はできるな。君たちの義体は群を抜いている」
「私たちからすれば自分たちで直せないのは面倒でしかない」
「それは一技術者として謝罪するよ、現場で使いやすい機械を造るのも仕事のうちだ」
「…驚いた、そんな台詞を吐く技術者がいるんだ」
「鉄人会の連中は違ったか?」
「彼奴らは自分たちの研究に忠実だった、使う私たちのことをどこまで気にしていたかは分からないけど、あまり気にしていなかったと思う」
「不親切だったかもしれないが、その優秀な義体のお陰で彼女たちは生きているとも言える」
アレンは、十六台の医療ポッドを見ながら話す。
「その通り。別に彼奴らに負の感情はない、私たちは彼奴らに感謝してる、彼奴らの義体がなければ神怒隊の皆はとっくの昔に死んでいるから」
四肢を義体に変える、脳を電脳化する、それはつまりその機能を何かしらの理由で失ったことを示している。
「複雑か?」
「少しだけ、私は医療ポッドの前で何度諦めたか分からない」
「全力を尽くすよ」
「うん、イーディスたちが信じたのなら私も信じる」
アレンが十六人のシスターのマグラートリアクターの代わりに用意したのはシルヴァーナだ。
シルヴァーナのエルトロンジェネレーターが半永久的に生み出すエルトロン粒子を、ベルジェダイトという金属に塗布すると、光電効果により、電子が生まれるのだ。
この性質を利用し、シルヴァーナのエルトロンジェネレーターからのエルトロン粒子の供給を前提とした簡易的な粒子電池を開発した。
この電池を使えば、修理のためにマグラートリアクターを取り外してもシスターたちが死ぬことはない。
「エルトロン粒子って何?」
「それについてはノーコメントだ、この船にベルジェダイトがあって良かったよ」
「別にレアメタルってわけじゃないから、それを構成機で一瞬で電池にしたアレンの方が凄いけど」
「設計図はここに来るまでに作ってあったからな。よし、準備完了だ。シルヴィ、ジェネレーター出力を戦闘モードへ」
《了解しました》
「メーヴェさん、俺はマグラートリアクターの修理に集中するから、取り外しと取り付けは頼む」
「任せて」
「ああ」
アレンは頷き、開いた胸部から球状のマグラートリアクターを取り外し、すぐにメーヴェが簡易粒子電池を差し込んだ。
「ここからが俺の戦場だ」
アレンは真剣な表情で、マグラートリアクターを分解し始めた。
◆◆◆◆
アレンたちが作業を始めた頃、ネオンとイーディスは空港の上空を飛行していた。
「揺らすな、斬るぞ」
「文句が多いですね、レーダーをジャミングしながら急いでるんですからむしろ褒めて欲しいくらいです」
イーディスの抗議を聞き流すネオンは、話を強引に切り替える。
「イーディス、陽動組と連絡はついた?」
「全く、貴女という人は一度アレンに叱ってもらうべきです」
「いいから」
「はぁ、アレリアから暗部の追跡が弱まったとの報告がありました、黒魔女隊出現とジーベック襲撃の可能性を伝えたら、すぐに戻ると」
「判断が早くて助かる」
「彼女は優秀な指揮官ですから、それよりも本当に黒魔女が攻めてきた時のことを考えませんか?」
「考えてどうするの?、もしアレンがお仲間を全員直したら戦えるって話なら大歓迎」
「もし皆が揃っても聖女イリステラがいない我々では、まず勝てないでしょう、情けない限りですが」
「それなら考える意味はない、仲間には耐えろとは言ったけど、黒魔女相手だったら今の私たちでは何もできない」
それほどまでに黒魔女隊は強敵だ。
ネオン自身も、シルヴァーナと一緒であれば負ける気はしないが、宙賊や雇われの傭兵のように容易くはいかないだろう。
幸いなのは、おそらくジーベックを襲ってくるのは黒魔女隊ではなく、エグロン社の暗部である確率が高いことだ。
「黒魔女隊の動機に心当たりはある?」
「ネオンがARMSでドンパチしたからでは?」
「誤魔化さないで。それは姿を現した理由で、リノレスⅠにいる理由じゃない」
「私はなんでも知ってるわけではありませんよ」
「エグロン社の内部情報は知っていた」
「情報収集が私の担当ですからね」
「それに何かしら黒魔女隊のことについて知っていたら既に話してますよ、私たちは協力関係なのですから」
「今はその言葉を信じてあげる」
「ありがとうございますと言っておきましょう」
「とりあえず目の前の厄介事から片付ける」
ネオンは腕時計型の小型通信端末を操作し、エレンに通信を試みるが、応答はない。
「ジャミング」
「慎重になっている暇はなさそうですね。ここからは速度を重視します、舌を噛まないでくださいね」
「余計なお世話」
お姫様抱っこされたネオンをしっかりと掴んだイーディスは、スラスターの出力を上げ、ジーベックが停泊するドッグへ急ぐ。
『エンジェル1よりドラゴン2へ、エンジェル3が第二空港の第2455ドッグで武装集団を発見した、数は30、パワードスーツを着た5人の重装歩兵に加え、機密データにのっていた5機の新型の戦闘ボットがいる、既に戦闘は始まっている模様、それと…』
『エンジェル1?』
珍しく言い淀むアレリアに、イーディスは疑問を零す。
『聖女イリステラ様を模した義体兵士がいる』
『クソ共が、イリステラさんを侮辱しますか!』
『ドラゴン2』
『私は冷静です、エンジェル1。ジーベックへの援護を優先させます、合流を急いでください』
通信を終えたイーディスは、ジーベックが停泊するドッグへと急降下する。
「戦闘が始まってる」
「上から奇襲します」
空港のラウンジとジーベックを繋ぐ細長い通路の上に降りた二人は、屋根を破壊して、通路の中にパーソナルシールドを展開しながら飛び込む。
幾つもの実弾がシールドを叩き、バックステップを踏むネオンとは対照的に前に出たイーディスは、パーソナルシールドを、正長方形に展開する。
パーソナルシールドを消したネオンは、レーザーライフルの引き金を引き、イーディスのパーソナルシールドの端から、レーザーが一人の兵士のヘルメットを貫通して、脳天を貫く。
「「「!?」」」
仲間が突然死に、戦闘員たちがほんの一瞬動揺した隙を突き、ネオンとイーディスは、バリケードのように展開した防御用の戦闘ボットの裏に隠れる仲間と合流する。
「ネオン!」
「遅れた」
「なんの祭りは始まったばかり」
「非常に助かります」
ネオンたちの登場を、エレン、ゼナ、リオンは諸手を挙げて迎える。
「状況はそこまで悪くないけど、パワードスーツ兵と戦闘ボットが来たら、かなりキツイ。まだ援軍は来るけど、船の中に撤退する準備はして」
「分かりました」
「エレンは戦闘ボットでゼナとハッチの守備、ゼナは私たちの邪魔をさせないで、リオンは私たちと一緒にパワードスーツ兵と戦闘ボットを片付ける」
「承知しました」
「任せろ」
「人間はどのような相手でも構わぬが、戦闘機械の相手は苦手故、それを留意してくれぬか」
「分かった、戦闘ボットは私たちがやるから」
「気をつけてください、あれはただの戦闘ボットではありません」
「分かってる、機密データで見たマグラートリアクターを積んでる新型、指揮官タイプぽいのもいるし簡単にはいかないだろうけど、やるしかない」
幅広の盾を構える戦闘ボットの隙間から、通路の奥を覗くと、戦闘員たちが下がり、パワードスーツ兵と戦闘ボットたちが前に出てきた。
相手はこちらの陣地ごと踏み潰すつもりだ。
ネオンは、今度アレンに陸戦用戦闘スーツを作ってもらおうと思いながら、コンバットナイフを抜き、レーザーライフルの先端に銃剣のように取り付けた。




