四十四話 重力下の交戦
時間は戻り、都市の某所に存在するエグロン社の暗部の指令室にて、指揮官のカディアス・ベケットは部下たちからの報告に歯嚙みしていた。
「やはりブロンズランクの傭兵団は囮か?」
「おそらくは」
「ちっ、奴らが向かう先は分かっている、第二空港に人員を回せ」
「了解しました」
メインモニターを睨むカディアスは、ここまでの一連の流れを思い起こす。
(忌々しいニーケロン社のスパイめ、死んでもなお我々を苦しめるとはこの借りは必ず返してやる。落ち着け、出口は塞いでいる、ここは無駄に戦力を消費せずに奴らが焦れた瞬間を狙えばいいのだ)
「ベケット様、シンドール博士より通信です」
「何?、このような忙しい時に何の用だ、繋げ」
カディアスの手元のモニターに、髪がぼさぼさで目元に深いクマをつけた不健康そうな男が現れる。
『イヒヒ、随分と忙しいそうだね、ベケット君』
「社益を守るために働いている最中ですからね」
『社益?、自己保身の間違いだろう』
「…用がないのでしたら切りますよ」
『そう邪見にしないでくれ、実はお願いがあるのだよ』
「聞くだけ聞きましょうか」
『君たちが追っている傭兵団がいるだろう、それを”MX-00”の実戦試験の相手として使わせてくれんかね』
「”MX-00”、それは確か此度のコンペで発表する予定のARMSでしたか。しかし場所は空港です、無茶を言うのもほどほどにしていただきたい」
『実験で死傷者が出たとしても君たちならどうとでもごまかせるだろう』
「そういう問題ではないでしょう、ネイド司祭の了承は得たのですか?」
『もちろん、彼は快く賛成してくれたよ、コンペの発表時に試験飛行の映像だけでは味気ないだろうとね』
(自分勝手な生臭坊主め)
「パイロットの制御はできているのですよね?」
『勿論だとも』
「事故で処理するにも限度があります、こちらの指示に従っていただけるでしたら許可しましょう」
『交渉成立だね、”MX‐00”が活躍する様を共に見届けようじゃないか』
用件を言い終えてモニターから消えたシンドール博士に、溜息を吐きたい気持ちを抑えつつ、スターリングというブロンズランクの傭兵団に所属する全てが不明の謎のARMSが気になるカディアスだった。
◆◆◆◆
暗赤のARMSを視認したネオンは、操縦桿を押し、フットペダルを踏み、スラスターを吹かせて、敵機との距離を詰める。
暗赤のARMSは、レーザーライフルを構えると、迷わず引き金を引く。
ビームシールドを展開したネオンは、レーザーを正面から受けながら、ビームサーベルを抜き、斬りかかる。
敵ARMSは、素早くバーニアを噴射して、光の刃を躱す。
そのまま二機は入れ違うような形で、距離を離す。
「!、今のを避ける」
『ネオン、あのARMSは重力下でも飛行しています、並みの機体ではありません、十分に注意してください』
「ん」
重力下での飛行技術は並みの技術では成し得ないハイテクノロジーだ、つまり敵ARMSは高性能機である可能性がとても高い。
重力下でも問題なく飛行しているシルヴァーナのことを棚に上げるネオンは、敵ARMSの性能と先ほどビームサーベルを躱した敵パイロットを警戒する。
レーザーが放たれ、ネオンは一瞬だけ展開したビームシールドで防ぐ。
(敵の目的は船じゃなくてこっちみたい)
素早く思考しながら、シルヴァーナを加速させたネオンは、高度を上げながら敵機が追ってくるのを確認する。
(なるべく人気が少ない倉庫区画に誘導する)
どうやら敵はこちらと戦うのが目的と判断したネオンは、戦場を選ぶことにした。
乱数回避機動で、敵ARMSのレーザーを躱しながら飛行するシルヴァーナの武装をチェックする。
(ビームライフルは使えない、機動鋼翼は防御で使うのが限界、使える武装は頭部ビームバルカン砲とビームサーベル)
シルヴァーナのビームライフルは威力が高すぎるので、流れ弾の危険性を考えると人気がなくても使うことはできない、機動鋼翼は宇宙空間の使用を想定しているので、射出兵器として使うのはほぼ不可能と言っていいだろう。
倉庫街に移動できたことを確認したネオンは、高度を高く保ったまま、回避行動を取る。
その時レーザーが放たれ、偏差撃ちされたレーザーが夜の闇に吸い込まれる。
『回避機動が予測されました』
「ん」
予測されることを予測していたネオンは、回避行動をするフェイクをかけ、操縦桿を操作し、旋回する。
シルヴァーナにはレーザーが簡単には当たらないと判断した暗赤のARMSは、レーザーライフルを腰部ハードポイントに収納し、スラスターを膨らませて、加速する。
赤いレーザー刃を纏う実体剣を抜いた暗赤のARMSと、ビームサーベルを抜いたシルヴァーナは一気に距離を縮め、互いに剣を振り、倉庫街の空で切り結ぶ。
交錯した二機は、お互いに八の字を描くように旋回し、二度三度と切り結ぶ。
「強い」
シンプルな感想を呟くネオンは、戦いが長引きそうな予感を覚える。
(これほどの凄腕と戦うのは久しぶり、でも時間を掛ける余裕はない、こっちの情報が少ない間に墜とす)
再び旋回し、戻ってきたシルヴァーナと暗赤のARMSは、お互いにここを勝負どころと決め、加速する。
メインカメラを光らせる敵ARMSに対し、胸部が僅かに赤く光っていることに気付いたネオンは、操縦桿のサイドスイッチを押し、頭部ビームバルカンを発射する。
『!!』
頭部の銃口に気付いていた敵ARMSパイロットは、この至近距離の銃撃に反応し、機体を捻るも、反応することを予測していたネオンによるシルヴァーナの強烈なキックが炸裂し、暗赤のARMSは眼下の地面に激突しそうになるが、地面に激突する寸前にスラスターを吹かせて、墜落だけは防ぐ。
敵ARMSの体勢不利を見て、高威力ビームライフルを抜いたネオンは、迷わず引き金を引く。
夜の闇を切り裂く青き奔流が、暗赤のARMSに迫る。
『ーーー!!』
敵ARMSのパイロットはシルヴァーナが抜いたビームライフルを見た時点で、姿勢を立て直すのを諦め、すぐにスラスターを噴射し、地面スレスレを飛行する。
それによりシルヴァーナのビームを避けた暗赤のARMSは、姿勢を立て直しながら、レーザーライフルを抜き、引き金を引く。
姿勢を立て直すところを狙ったネオンもまた、高威力ビームライフルの引き金を引く。
青と赤の光線が、両者の機体の真横を通過する。
上から一方的に撃たれることを嫌う暗赤のARMSは、高度を上げるチャンスを狙う。
敵ARMSが上昇を狙っていることをネオンも承知しているので、チャンスを与えることはない。
遠距離の撃ち合いが、十秒ほど続き、チャンスをこじ開ける敵ARMSは、胸部装甲を開き、赤く光るパラボラアンテナのような砲身が覗く。
『高エネルギー反応!』
「っ!」
反応したネオンは、操縦桿を引き、距離を取る。
赤い波動が広範囲に広がるが、辛うじてシルヴァーナはその範囲から逃れるも、その隙に敵ARMSは高度を上げていた。
「やる」
『先程の攻撃は電磁波の拡散攻撃です、クロスレンジで照射された場合はシルヴァーナの電磁シールドでも耐えられる可能性は高くありません、回避を推奨します』
「ん」
頷きながら、高威力ビームライフルを腰部ハードポイントに収納したネオンは、ビームサーベルを引き抜き、上昇してくる敵ARMSに斬りかかる。
シルヴァーナの接近を予測していた暗赤のARMSも、レーザーライフルを収納し、レーザー刃を纏う実体剣を構えて、斬りかかる。
青と赤の刃がぶつかり合い、二機は鍔迫り合いのような格好になる。
「っ!!」
『っ!!』
三度切り結んだ瞬間、ネオンは二本目のビームサーベルを逆手で引き抜き、斬りかかるが、何と暗赤のARMSは反応して、ギリギリでバーニアを噴射し、右肩の装甲が削れる程度で済ませる。
避けられることを完全に想定していた訳ではなかったネオンだったが、即座に頭部ビームバルカンを撃ち、頭部を狙うも、右腕に仕込まれた発生装置から展開されたレーザーバリアにより、防がれる。
レーザーバリアが消え、ネオンがビームサーベルを振るうのと、敵ARMSが実体剣を振るうのはほぼ同時であり、僅かに速いネオンの逆手と順手による二本のサーベルの一撃で、実体剣は半ばから切り落とされた。
『っ!』
暗赤のARMSのパイロットは、すぐに操縦桿を引き、距離を取ろうとするも、ネオンはそれを許さず追いかける。
その瞬間、両者のコックピット内に接近警報が鳴り響く。
『「!?」』
索敵をした両機は戦闘を中止し、ネオンのコックピットのディスプレイに、三機のARMSが表示される。
三機のARMSの肩に付けられたパーソナルエンブレムが見えた。
『ネオン、あれは連邦航宙軍の特務ARMS大隊"ヴァルプルギス"です!』
「黒魔女隊!?」
ネオンはその瞳に警戒の色を色濃く宿し、即座にシルヴァーナの熱光学迷彩を起動する。
スラスター光が発生しないように、慎重に飛行するシルヴァーナだったが、黒魔女隊がそれ以上接近してくることはなく、ネオンは無事に撤退することに成功した。
その時、暗赤のARMSのシグナルもロストし、同じように逃げたことをネオンは理解するのだった。




