四十三話 緊急発進
「ん?」
「ネオン?、どうかしたか?」
「陽動作戦は上手くいってるみたい」
ちらりと窓から外を見たネオンは、アレンの言葉に答える。
「当然です、我々の基本は三人組、三人で動くのであれば星間企業の暗部が相手でも逃げて時間を稼ぐだけなら万に一つの失敗はありません」
「それならどうして十五人の仲間が仮死状態にされた?」
それはネオンがイーディスの仲間たちが仮死状態になっているという話を聞いた時から、抱いていた疑問だ。
イーディスたちは軍の特殊部隊と比べても遜色ない実力を持つ集団だ、下手な電磁パルス攻撃を食らうとは思えないし、例え食らったとしても十五人もの仲間が被害を被るとは思えなかった。
「ほんの少しの油断と綻びを突かれたのです、イリステラさんを探す一年間でいろいろとあり、ダークシンジゲートの一角"ブラッドホエール"と戦う羽目になったのです」
「ダークシンジゲート?」
「銀河に深く根を張る六つの犯罪組織で構成された犯罪者の寄合のようなものでござる、"ブラッドホエール"はその犯罪組織の一つでござるな」
「その通り、私たちは"ブラッドホエール"の艦隊を宇宙の藻屑に変えたのだけれど、捨て身のEMP爆弾の自爆を交わすことはできなかった。無事だったのは爆発に巻き込まれなかった私を含めた五人だけだ」
「EMP爆弾による自爆か。戦術兵器を犯罪者が持ってるのか」
「商売に善悪はねえってことだよ、商人にとってはたとえ極悪人でも金払いのいい客は上客だ」
「死の商人か」
「正しくな」
(それにしてもひっかかるな、あのメディカルデータを見る限り、イーディスたちはかなり性能の高い電磁防壁を持っていた、それを貫通するほどの威力を持つEMP爆弾は軍用レベルだ、自爆したということは希少でもない)
ブラッドホエールとやらは大量のEMP兵器を所持している可能性が高い。
(危険な犯罪組織だ、覚えておこう)
「アレン様、リノレス第二空港まであと五分ほどです」
「ああ」
今は目の前のことに集中せねばとアレンは気を引き締めた。
◆◆◆◆
その昔、宇宙へ進出する前から使用されていた空港を流用しているので、空港と呼ばれているアレンたちの船が停泊するリノレス第二空港は、リノレスIに存在する他の宇宙港と同じように、とてつもない広さを誇る宇宙港だ。
第二空港は、民間の空港の為、ドッグの数が一万近くあり、ドッグを接続するターミナルだけでも、とても一日では回りきれぬ程広い。
そして空港は夜になっても人の流れが止まることはなく、忙しなく活動している。
「それではアレンをリュケイオンに案内します、ネオンたちは当初の予定通りお願いしますね」
「そっちに監視の目がある可能性はゼロじゃない、船に残ってる仲間はなんて?」
「リュケイオンに監視の目はありません、ですのでアレンが危険な目に合う可能性は低いです」
「ふん。アレン、さっさと目を片付けてシルヴァーナと一緒に行くから」
「ああ、待ってる、それとネオン、臨機応変に判断して動いていいからな」
「いいの?」
「ああ、イーディスたちは多少こっちが勝手に動いても合わせられるだろ、彼女たちの決行日自体は動かないし主導権《機密情報》はこっちにあるんだ」
「好機は逃さないようにする、ありがとう」
「そう何度も暗部と戦いたくないからな、頼む」
「ん、任せて」
アレンとの会話を終えたネオンは、イーディスに目を向ける。
「イーディス、アレンに何かあったら斬るから」
「覚えておきますよ」
◆◆◆◆
アレンとイーディスたちと別れたネオンたちは、ジーベックが停泊するドッグに移動するために高速鉄道に乗り込み、移動する。
ホームに降りたネオンたちは、ジーベックに真っ直ぐ向かう。
「エレン、周囲の防犯カメラは掌握できた?」
「はい」
「ん、そのまま周囲の動きを監視して、私たちを見つけたら何か動きがあるはずだから」
「分かりました」
エレンに指示を出した後、ネオンたちは一日振りの乗り慣れた船に帰ってきた。
最初に格納庫に移動したネオンたちは武装を整える。
「やっぱりライフルがないとな」
「ゼナは好きな狙撃位置にいていいよ、エレンはゼナと一緒に居て、リオンは私と一緒」
「承知」
「エレン、ラウンジに動きはあった?」
「はい、私たちを目撃し、通信を試みた者が一名、数時間前からジーベックを監視している者が二名います」
「試みた?、妨害できたの?」
「完全には不可能でしたが、通信の一部のジャミングに成功しました」
「やるね、私たちはその三人を排除するからエレンは他に暗部の人間がいないか探して」
「分かりました」
「ん、行動開始」
◆◆◆◆
ラウンジにやってきたネオンとリオンは、適当に歩く。
「ネオンはARMSのパイロットでござろう、陸戦隊としての戦闘経験が?」
「ん、シルヴァーナが修理中の時に補助要員として何回か戦ったことがある」
「なるほど、シルヴァーナが修理中?」
「その話は深堀りしないで、アレンに殺されかけた時を思い出す。あの時のアレンは怖かった、リオンもアレンを怒らせたら駄目だよ」
「言われてみると、アレンが怒っているところを見たことがないでござるな、怖いのでござるか?」
「怖い、命の危機を感じた」
「それほどまででござるか」
「ん、私が十割悪いから甘んじて受け入れたけど、リオンも気を付けてね」
「肝に銘じておこう」
二人は一席開けてラウンジの椅子に座る。
「今すぐ通信機器と監視装置を捨てて、捨てないなら斬る」
「い、いきなりなんですか?」
ネオンの隣の席に座る男は、突然のネオンの脅しに声を上げる。
「二度は言わない」
「!?」
いつの間にか抜かれていたリオンの脇差が、男の喉元に添えられていた。
「我々を敵に回してこの星から生きて出られると思うなよ」
「前提から間違ってる」
男が床に捨てた通信機器と監視装置を、立ち上がったネオンは踏みつけて、破壊する。
「私たちは短い休暇を邪魔されたただの傭兵団」
「ぐはぁ!?」
手刀を打ち込んで気絶させたリオンも立ち上がり、脇差を鞘に納める。
「ここから二手に別れる」
「相分かった」
二手に別れたネオンとリオンは、残りの二人がいる場所へ向かう。
『エレン、他に怪しいヤツはいた?』
『いいえ。そのラウンジを監視していますが…!?、レーダーに機影、真っ直ぐこちらに向かってきています、これはARMSです!』
『え!?』
突然の報告に驚くネオンに、レーダー情報が共有される。
(見間違えじゃない、確かに一機のARMSがジーベックに真っ直ぐ向かってる!)
『リオンはここは任せる!』
『ネオン?!』
ネオンは、全速力でジーベックに戻る。
『現在一機のARMSがジーベックに接近しています』
『何!?』
『悪い、ネオン、大気圏内でARMSを飛ばした経験はねえ!』
『大丈夫、今戻ってる!、二人は残りの二人を片付けて』
『承知』『任せろ』
走りながら通信を切り替えたネオンは、シルヴィに繋げる。
『緊急発進準備、重力下での戦闘になるから』
『了解しました』
ジーベックの船内に戻ったネオンは、格納庫まで突っ走る。
『エレン、接敵予測時間は?』
『二百四十秒です』
『ギリギリ間に合う、いつでも出れるようにしといて』
『何時でも出れます』
『優秀』
通信を終えたところで格納庫に到着したネオンは、コックピットが開いたシルヴァーナに駆け寄り、垂れ下がるウインチを掴み、コックピットに乗り込む。
「出る」
『シルヴァーナ、発進準備完了』
ネオンがコックピットに乗る間に、格納庫のハッチは開いていた。
『ネオン、空港管制の離陸許可は降りていませんが』
『相手は暗部、空港警備は出てこない。シルヴァーナ、出る』
ジーベックの格納庫から出撃したシルヴァーナは、ジーベックの背中に降りる。
『敵影を確認、距離1000、数は1、ARMSです』
「見えてる」
シルヴァーナに搭載された高性能光学カメラは、夜の暗闇でも敵ARMSの姿を正確に捉えていた。
「赤いARMS」
暗い赤色の装甲に、赤色のスラスター光を見せる未知のARMSもまた、シルヴァーナを正確に捉えていた。
『障害を排除する』




