四十二話 シスターズの陽動作戦
夜の帳が降りたエキュメノポリスの一角で、残されたシスターズによる陽動作戦が始まろうとしていた。
『こちらエンジェル1。エンジェル3、報告を』
『エンジェル3、ジャミングフィールド展開中、効果は依然として継続中、暗部と思わしき人員十二名は捜索活動を継続している』
『了解、ジャミングフィールドを限定的に解除、陽動作戦を実行する、エンジェル3は監視を終了しポイントα《アルファ》7にて合流を』
『了解』
やや機械的な仲間の返答を聞き終えたアレリアは、シエラと共にビークルに乗り込む。
「シエラ、キアラとはポイントα《アルファ》7で合流する」
「了解だ」
ビークルのエンジンを始動させたシエラは、アクセルペダルを踏み、倉庫から通りの道路へと躍り出る。
その時、アレリアとシエラの天輪が僅かに光る。
『こちらエンジェル3。合流まで45秒、それと星間企業の暗部ならそろそろ見つかると思うから注意して』
『こちらデーモン2、こちらへ向かってくる三台の不審車両を発見した、多分見つかったな』
『了解、デーモン2。想定通り』
ジャミングフィールドを切ってから約60秒間で発見されるのは、かねてからの想定通りだ。
エグロン社の暗部は質の高い装備と人員を揃えていると、アレリアは分析している。
それでもアレリアたちを発見できないのは、彼女たちが持つ装備もまた高性能なものであり、それらの装備を使用する彼女たちが歴戦の兵士だからに他ならない。
「ポイントα《アルファ》7に到着した」
シエラがビークルを停めると、ドアがひとりでに開き、何かが入ってきて、シートが凹む。
ドアが閉まると、ビークルは走り出す。
シート周辺の空間が歪み、熱光学迷彩を解除したバイザーを着け、頭に半透明の輪っかを浮かべる修道女が現れた。
「キアラ、不審車両の監視をドローンにやらせて、シエラは運転に集中させる」
「分かった」
「シエラ、ルートは任せるけど予測されないように気をつけて」
「善処するよ、何せこっちの目的は奴らの目を引くことだからな」
バイザーの裏側で周辺の道路情報を投影させたシエラは、目的地を宇宙港に設定し、ルートをいくつか表示させる。
(宇宙港へ行くアレンたちを援護するために囮をやるっていうのに、目的地を宇宙港に設定するのは変な気分だな)
これは暗部に囮だと気付かれないための策で、脱出するために宇宙港に向かっていると思わせるためだ。
無論宇宙港に到着する前に、消える予定だが。
「三台の不審車両、暗部の車両と確認、真っすぐこっちに向かってくる」
「キアラ、片付けて」
「分かった」
ビークルのルーフを開いたキアラは、シートの下からレーザーライフルを取り出す。
「いつものやつ?」
「うん、基本のやつ」
「いいね、私は使いやすくて好き」
ルーフから上半身を出したキアラは、レーザーライフルの銃口を後方へ向ける。
その銃口の先には、アサルトライフルを構える人間が乗る三台の車両が見えた。
「火薬兵器は嫌いじゃない」
レーザーライフルの引き金を引き、無数の光弾が一台の車両のエンジンを蜂の巣にしてしまう。
「でも光には速さで劣る」
一台を無力化したキアラだったが、残りの二台がライフル弾の雨を浴びせてくる。
銃弾に当たりたくないキアラは車内に引っ込む。
「重力の下で生きる連中は火薬兵器が好きだな」
「安価で扱うのが楽だから」
航宙艦やコロニーでは空気がとても大切なので、船体や外壁に穴を開けて密閉性を損なうリスクがある火薬兵器はまず使われないので、彼女たちにとって火薬兵器は珍しいのだ。
アレリアたちのビークルが左折し、再びルーフから顔と銃口を出したキアラは、同じように左折してきた暗部の車両に光弾の雨を降らせる。
一台を走行不能にする間に、もう一台の車両から放たれる銃弾がキアラを襲う。
といえこの暗闇と走行中の車両という条件下では、キアラに正確に命中することはない。
マズルフラッシュのせいで暗視装備が使えない暗部の戦闘員とは違い、バイザーの暗視モードを起動しているキアラは車両の位置を正確に捉えることができる。
「片付けた」
「ナイス」
街灯に突っ込む暗部の車両を見届け、ビークルはさらに道を進む。
「暗部は別の手を打ってくるはず、ドローンの監視を厳として」
「了解」
「予測は?」
「陸がダメなら空から来ると思う、暗部は私たちが只者では無いと理解した、それなら次は多少目立っても大きな兵器を投入してくるはず」
「空か、携行ミサイルでも撃ってくるか?」
「それはない、暗部は私たちを生きて捕らえたいはず、一撃で殺してしまうような手段は取らない」
「ミサイルは流石に避けられないからその言葉を信じたいな」
「一瞬何かが映った」
キアラがポツリと呟く。
「ドローンが撃ち落とされた。シエラ、正面から来る」
「了解!」
ハンドルを強く握ったシエラは、視覚システムをフルモードにした瞬間、ビルの影から何かが現れる。
それを目撃した瞬間、シエラはブレーキを踏み、ハンドルを切る。
その瞬間30mm機関砲が斉射され、コンクリートの上をドリフトするビークルのトランクを、鋼鉄の光線が掠める。
「っ!!」
ハンドルを戻し、アクセルを踏み込んだシエラの運転するビークルは六枚羽の真下を通過する。
シエラはすぐに六枚羽とビークルの距離は算出する。
『五秒後、再び薙ぎ払われる。電磁煙幕弾を!』
通信を受け、ルーフを開けたアレリアは、腰に差していたピストルを抜き、ビークル後方のコンクリートに向けて引き金を放つ。
発射された三発の弾丸がコンクリートに接触した瞬間、真っ白い煙幕が瞬く間に立ち上り、ビークルの姿を隠す。
『ちっ!』
照準装置が妨害されたステルスヘリのパイロットは、舌打ちしながらも、30mm機関砲の引き金を引くが、貫いた煙幕の先に、目標のビークルは既に存在しなかった。
『ムクドリよりハチノスへ、目標を見失いました。すぐに捜索を開始します』
『こちらハチノス、すぐに見つけろ、追加の地上部隊も到着する、生きてさえいればどんな状態でも構わん』
『了解』
光学迷彩を起動したステルスヘリは、ビル群に消えた。
◆◆◆◆
煙幕に紛れて逃げたアレリアたちのビークルは、近くの立体駐車場に停車していた。
『あの六枚羽はエグロン社製AH-12ステルスヘリ、主武装は二門の30mm機関砲と対戦車ミサイルだ』
『光学迷彩は問題ないけどどうやって接近するかが問題だね』
『こっちが熱光学迷彩を起動して近づくのは?』
『ありだな、ヘリを落とせる火力はあるか?、レーザーライフルじゃ力不足だぞ』
『設置爆弾が二つある、上手く使えば落とせると思う』
『準備が良いな』
『天使は優秀だからね』
『デーモン2、エンジェル3、囮は必要?』
『必要ない、ビークル単体で囮になる、攻撃は私とエンジェル3でやる、エンジェル1は地上からやってくる別動隊の監視を頼む』
『了解』
通信を終えた三人はビークルを降り、それぞれ熱光学迷彩を起動し、闇夜に消えた。
『四班よりハチドリ、例のビークルを発見しました』
『すぐに向かう』
ステルスヘリのパイロットは、立体駐車場に近づき、報告のあったビークルを発見し、スキャンする。
「もぬけの殻、ビークルを捨てて逃げたか」
『ハチドリより地上部隊、『ぎゃああ』どうした!?』
『じ、銃撃です!、突然レーザーに撃たれて、敵はどこだ!?、ぎゃああ』
「ちっ!、罠か」
ステルスヘリのパイロットは、一度立体駐車場から距離を取る。
『見えた、あそこだ』
『了解』
バイザーの視覚システムにより、光学迷彩を起動したステルスヘリの居場所を看破したシエラとキアラは、機械翼を展開し、熱光学迷彩を解除し空を飛び、上空のステルスヘリへ一気に接近する。
ステルスヘリのコックピット内に、接近警報が鳴り響くが、真下から迫る二人をすぐには見つけることはできなかった。
「私たちを舐めすぎだ、そこらのスパイや工作員と一緒にするな」
二人によって設置された爆弾が爆発し、火に包まれたステルスヘリが墜落する。
「アレリアを援護する」
「了解」
シエラは一瞬宇宙港の方角を見て、すぐにキアラの後を追うのだった。




