四十一話 アイデアと次手
仮死状態の仲間たちを治すと言ったネオンの言葉に、驚いたのはイーディスだけではなかった。
「お前、自分が何を言ってるのか自覚してるのか?」
「その言葉、冗談ではすまない」
シエラとアレリアは、もはや怒っているのと変わらない態度で、ネオンを睨む。
「冗談じゃない、戦力が足りなくて極端な作戦しか取れない、それなら動けないそちらの仲間を治そうと考えるのはそこまで不思議なことじゃないと思う」
「ネオンは皆のことを理解していない、私たちが皆を治す為にどれだけ労力を注いだのか知らない」
「軽々しくあいつらを治すとか言うな」
彼女の仲間たちに関する話題は想像していたよりもデリケートで、ネオンは失敗してしまったかと内心頭を捻る。
「二人共待ってください、その非難は見当違いです。ネオンたちは私たちの仲間の事情など知りませんし、私たちは伝えようともしていない、にもかかわらず非難するのは違います」
「アレリア、貴女のことは尊重していますが、皆の現状を私に伝えなかったこと、それは私を要らぬ心労から守る意図があったのでしょうが、それは余計なお世話というやつです、私はネオンの案を試してみたい」
「「ーー」」
アレリアとシエラの二人は、イーディスが賛成したことに黙り込むが、純粋に驚いたシエラと違い、アレリアはイーディスの言葉に顔を俯かせた。
「私はアレンに賭けてみたいです」
イーディスの仲間たちは義体化したサイボーグ兵士だ、そうなると治せるのは医者ではなく、整備士だ。
アレリアは俯いたままだったが、シエラはアレンに目を向ける。
彼女は何か言おうとしたが、言うのを躊躇うように視線を逸らす。
「シエラ、彼は信頼できます、私のバイザーを修理してくれたのも彼ですから」
イーディスの言葉に反応したのは、シエラだけではなく、アレリアもだった。
「鉄人会製の機械を修理」
「まさか本当に…」
手元の小型端末を操作したシエラは、とあるデータをアレンに送信する。
「シエラ、これは?」
「仲間の一人、エレインのメディカルデータだ、お前の助けになるか?」
「見てみるよ」
アレンは、送られてきたメディカルデータを開き、真剣な表情で、データを精査する。
固唾を呑んで見守るシスターの三人を他所に、スターリングの面々は、特に気負っていなかった。
それはひとえにアレンの能力を信頼しているが故である。
「内部の損傷が酷いな、まるでパルス砲を正面から受けたみたいだ」
口にはしなかったが、全身の七十パーセントが破壊されているにもかかわらず、生きている事実にアレンは驚いてしまった。
(あまりに壊れている箇所が多過ぎる、この損傷箇所を全て修理するのは簡単ではないが不可能ではない、問題はマグラートリアクターの方だ)
EMPの影響を、心臓部であるマグラートリアクターも受けた可能性が高い、明らかに性能が低下しているのだ。
(間違いなく何処かが損傷しているが、このデータで分からないとなると損傷は内部にある可能性が高い、リアクターそのものを取り外し、分解しないと治すことはできない)
マグラートリアクターを取り外す、それはつまり心臓を取るのと同義であり、それを取られた人間が迎える結末は『死』だ。
救うためには心臓を取り外す必要があるが心臓を取り外せばその人間は死ぬ、この難題を今まで彼女たちを診察したメカニックたちは乗り越えることができなかったのだろう。
マグラートリアクターはただでさえ、突出した性能を持つリアクターであり、代替品となるリアクターを用意するのはかなり難しいと言わざるを得ない。
さらにマグラートリアクターを取り外せたとしても、直せる保証はどこにもないのだ。
(マグラートリアクターの代替品か、用意するのは不可能ではないけど、十数人分となると難しい)
足りないものは色々とあるが、一番は時間が足りない。
アレンの脳裏に一つのアイデアが浮かぶ。
「エレン、シミュレーションを手伝ってくれ」
「承知しました」
アレンはエレンの陽電子頭脳と、小型端末を同期させ、ビークルのボンネットの上に小型端末を置き、ホロキーボードを表示させる。
アレンの目がホロディスプレイを縦横無尽に行き来し、ホロキーボードを絶え間なく指が叩く。
全ての動作に無駄がないアレンの作業風景に、シスターズは思わず目を奪われる。
五分ほどの時間が経ち、キーボードを叩くのを止めたアレンは、シスターズに注目されていることも忘れて、ネオンに話しかける。
「ネオン、シルヴァーナの力を借りてもいいか?」
「いいよ」
「ありがとう」
「ん、それがアレンの助けになるなら」
ホロディスプレイを閉じて、小型端末を腕に付け直す。
「エレンもありがとうな」
「アレン様の助けになるなら私はなんだってします」
「本当に助かるよ」
会話を終えたアレンは、シスターズに向き直る。
「まずこれが一番知りたいだろうから、言わせてもらう。君たちの仲間は治せる」
「本当!?」「本当ですか!?」「本当か!?」
「あ、ああ、機械に関して俺は嘘をつかな、いっ!?」
三人の音圧にたじろいだアレンが言葉を終える前に、イーディスが抱きつく。
「コロニーでアレンと出会ったのはまさに神のお導きだったのですね」
「落ち着け、治せるとは言ったが簡単なことじゃないぞ」
「大丈夫です、手段さえあれば私たちは何があっても実行するので」
ちょっと怖いなと思ったアレンだった。
◆◆◆◆
イーディスは手段さえあれば何でもやると言っていたが、アレンの考えた治療法を実行するには、クリアしなければならないことがいくつかあるが、それよりも喫緊の問題が存在した。
「皆を治療するには宇宙港に停泊している私たちの母艦に行く必要があります」
「問題は移動中に間違いなく暗部に見つかることだな」
この倉庫内はイーディスたちのお陰で安全だが、一歩外に出れば暗部の目がどこにあるか分からないし、機密データを持って逃げられることを警戒している暗部の長であるカディアス・ベケットは、宇宙港に監視の目を置いているであろうことは容易に想像できる。
「囮が必要」
「ん、どっちがやる?」
「私たちがやる、ネオンは空は飛べないでしょ?」
「飛べるの?」
「翼があるから」
アレリアの言葉になるほどと納得するネオンだったが、アレリアは実際に機械翼を動かすことで飛ぶわけではなく、翼に内蔵された複数のスラスターを使って飛ぶのだ。
「それなら囮役を担っても脱出するのも難しくはないか、何人でやるつもりだ?」
「私とアレリア、それと仲間の一人のキアラに協力してもらう、母艦へはイーディスが連れてって」
「それが最善ですね」
「シルヴァーナをそっちの船に移動するために、俺たちの船にも戻る必要がある、宇宙港を監視する連中の目はどう誤魔化す?」
「それはこっちから襲撃して潰せばいい」
「潰せるのか?」
「潰す」
「俺の力はいるか?」
「大丈夫だけど、エレンの力は借りたいかも」
「分かった。エレン、頼めるか?」
「アレン様の命令であれば喜んで」
「方針が決まりましたね。移動開始時刻は日が沈んだ後、1800としましょう。ネオン、作戦所要時間は?」
「二時間もあれば充分」
「分かりました、我々は痕跡を消してから合流するので、合流時刻は2000にしましょう」
「ん、暗部の実力は未知数だけど、忠告はいらないよね?」
「必要ありません、我々の実力を教えて差し上げますよ」
イーディスは、不敵な笑みを浮かべるのだった。




