四十話 明らかになる敵と代案
「二つのことが分かったな、教会とエグロン社を繋げているのはマグラートで、そのマグラートを利用した無人兵器の軍隊を作ろうとする何者かがいることだ」
アレンは明らかになったいくつかの事柄から、二つの事実を抽出する。
「なんだがどす黒い闇の中を覗いている気分だな」
「同感でござる」
「情報を整理した方がいいな、エレン、そっちは終わったか?」
「はい、リストの名前と社内での役職を照らし合わせたリストを作成しました」
「皆に配ってくれ、イーディスにも」
「承知しました」
エレンが作ったリストが、イーディスに共有され、アレリアとシエラにも共有される。
「イーディス、知ってる名前はあるか?」
「…カディアス・ベケット、この男がエグロン社の暗部を率いる指揮官の名です」
「外部管理部の部長っていうのは隠れ蓑か」
「はい、外部管理部は表向きは窓際部署ですが、その実態は警備部では処理できない裏の仕事を担当する部署です」
「なるほどな、こいつの性癖は度し難いな」
「どんなの?」
「知らない方がいいよ」
リストに載っている人間共の弱みの内容は、エレンに命令しアレンにしか分からないようにしている。
女性が知らなくていいことはあるとアレンは考えている、一つ言えるのはこいつが殴られて悲しむ人間は一人もいないということだ。
そんな証拠を名も知らぬスパイに押さえられるとは、脇が甘いと言わざるを得なくない。
誰でも無防備になる瞬間なので、仕方がないのかもしれないが。
「こいつが暗部の指揮官なら、こいつを無力化するのが俺たちの目標だな」
ひとまずこいつの名前と顔だけは覚えておくことにした。
「チャック・ネイド。アレリア、この名前と顔に見覚えがないか?」
「…覚えてる、イリステラが連れていかれたあの場所にいた、小太りの神父」
「点と点が繋がったな、イーディス、こいつの外部出向員って肩書きはなんだ?」
「エグロン社の本社には様々な宗派の社員の為に、その宗教専用の祈祷室などがあります、チャック・ネイドはマキウス教会からエグロン社に派遣された神父だと思います」
「二人共、こいつが?」
「ああ、こいつだ」
「こいつ」
「分かりました」
淡々と頷いたイーディスは、底冷えするような目で、リストのチャック・ネイドの名前を睨む。
「イーディスはエグロン社の内情に詳しいね」
「売れた名前と勲章は意外と有用なのですよ」
探りを入れるネオンに、イーディスはさらりと返す。
「教えない気?」
「神の手はどこにでもあります」
意味深な言葉で、はぐらかすイーディスに、ネオンは目を怒らせるが、アレンは肩を叩いて落ち着かせる。
「重要なのは聖女イリステラの居場所と、カディアス・ベケットの居場所だ」
「それとそちらの戦力も知りたいでござるな、まさか三人ということはなかろう」
リオンの言葉は、アレンも気になっていたことだった。
かつての教会最強戦力であった神怒隊の残党、星間企業と戦うのに三人だけというのは無謀を通り越して浅はかだ。
「話す、我々の仲間は総勢二十一人、でもそのほとんどが仮死状態」
「仮死状態?」
「アレリア!、その問題は解決したのではないのですか!?」
「解決はしてない、リアクターをスリープモードにして擬似的に眠らせているだけ」
「私に嘘をついたのですか!?」
「嘘は言ってない、私は皆が落ち着いたと言っただけ」
「同義です、私は仲間たちが苦しんでいるのを知らなかったのですから!」
「落ち着け、イーディス」
「落ち着けるわけがないでしょう!、シエラ!、貴女もアレリアと同じように黙っていたのですか!?」
「そうだ」
「何故です!?」
「お前の役目は皆を心配することじゃないからだ」
「それは…」
イーディスは、シエラに確信めいたことを言われたのか言葉に詰まる。
「醜態を見せた、そういうわけで、動ける仲間はここにいない二人の仲間を加えた五人」
アレリアはイーディスに構わず、正確な人数を報告してくる。
「リオン、どうなんだ?」
「十分とは言えぬが、元の作戦ではどのようにして聖女イリステラを救出する手筈だったのでござるか?」
「二日後、エグロン社のコンペティションが開かれる、それによりイリステラさんがいると思われるエグロン社の研究施設の警備が手薄になる、その隙を突く作戦」
「聖女の居場所は?」
「正確な居場所はまだ、でも本社の研究施設にいることは間違いない」
「カディアス・ベケットの居場所は?」
「それは知らない」
「調べることはできる?」
ネオンに聞かれたアレリアの視線が、イーディスに向き、それに気づいた彼女はアレリアの求めに応じる。
「可能ですが、必要がありません。アレンたちが機密データを持っている以上は取り返すべく自らやってくるでしょう、自分の弱味が入っていますから」
「逆にこっちで罠を張ればいいのか」
「はい、そしてカディアス・ベケットを排除し、暗部に一定の打撃を与えれば、割に合わないと判断して、暗部はアレンたちを狙うことを諦めるはずです、手に入れたデータをどうするかは任せます」
アレンの脳裏に好奇心旺盛な船医兼研究者の父親が思い浮かぶ。
「それで諦める?」
「割に合わないなら諦めます、その機密データが流失したとしても星間企業のエグロン社には大した痛痒を与えませんから、暗部も一枚岩ではありませんし」
「なるほど」
イーディスの言葉には説得力があり、ネオンは納得した。
「これからやることは二つだな、一つ目は機密データを餌に罠を張り暗部の指揮官であるカディアス・ベケットを殺害、もしくは無力化する、二つ目は聖女イリステラを研究施設から救出する、その後は聞いてなかったな」
「救出に成功した後は、我々の航宙艦でエグロンIを脱出する予定です」
「もし宇宙港を閉鎖されたらどうする」
「それを解決する案はありますが、アレンたちのお陰でもっと穏便で効果的な案を思いつきました」
「マグラートを私物化する裏切り者チャック・ネイドを含めたエグロン社の社員たちの弱味をコンペティションの会場で、広めればいいのです」
「コンペティションの会場にはエグロン社の幹部が集まるから効果的というわけか」
「はい、どうでしょうか?」
「悪いがその案は却下させてくれ」
「…何故ですか?」
断られると思っていなかったイーディスは、理由を問う。
「俺たちの仲間がコンペティションで、研究成果を発表するんだ、そのために命だって賭けた、彼女にとって今回のコンペティションはそれだけで大事で、もしコンペを通過すれば多くの人間が救われると言っていた」
「俺はそんな晴れ舞台を邪魔するつもりはない、これはスターリングの総意と思って欲しい」
ケイトが何を研究していて、何が多くの人間を救うのか全く知らないが、彼女はこの星に来るために文字通り命を賭けたのだ、そうまでしてたどり着いた舞台を潰すような真似はできないとアレンは考えている。
「私の案を否定するなら、代案はあるのですか?」
「それは…」
代案がないアレンはネオンに助けを求める。
「そこで詰まるのかよ、途中まではかっこよかったのに」
「うるさいな、作戦立案は俺の専門外なんだよ」
口喧嘩するゼナとアレンを他所に、助けを求められたネオンは、片目を閉じて思案する。
優れた思考回路を五秒ほど回転させたネオンは、口を開く。
「代案はある」
「本当ですか?」
「ん、二つある、一つは現実的だけど突飛な案、もう一つはそっちに大きな利益がある案」
「後者から聞きましょうか」
「仮死状態の貴女の仲間を治す」
ネオンの提案に、イーディスは大きく目を見開くのだった。




