三十九話 情報共有と電子コードの中身
空想の天使や悪魔のような機械翼、神怒隊、聖女イリステラ、シスターアレリアが明かした数々の初耳の単語に対し、無表情を貫くネオンだったが、おもちゃを前にした子供のように目を輝かせるパートナーを見て、溜息を吐く。
「はぁ、アレン」
「いやいや、許してくれよ、ネオン!、あの翼を見て興奮しない奴は機械オタクを名乗るのを止めるべきだ!」
「真面目な話をしてるから、今は静かにしてて」
「えぇ」
「アレン」
「分かったよ」
不満そうな声を上げたアレンを、薄目で睨んだネオンは、アレリアたちに向き直る。
「私のパートナーがごめん、聞きたいことはいろいろあるけど、イリステラって人を助けるのが目的ってことは分かった、それと元神怒隊ってことも」
「知ってるんだな」
「ん、マキウス教会の暗部にして最強の武装集団、名前くらいは知ってる、その逸話も」
神怒隊、教会が唱える教義に反する存在を決して許さず、信仰を否定せし存在を撃滅する。
全身を義体化したサイボーグ兵士たちで構成されたマキウス教会最強の武装集団であり、かつて起きた星間戦争においても、数々の逸話を残したマキウス教会が密かに恐れられる理由の一つである。
「一応ありがとうと言っておく、私たちは目的と正体を明かした、そっちはどうする?」
「エグロン社の暗部と戦うという点においては、私たちは協力できる、けれどその前に電子コードの中身を知った方がいい、お互いに」
「巻き込む気か?」
「別に知りたくないなら構わない、でも暗部が人を殺して、街への被害を気にしないほどの秘密は暗部と戦う上では強みになるかも」
ネオンは、シスターズの返事を待たず、アレンとエレンに、電子コードの解析をお願いする。
「お願い、アレン」
「オーケー、やってみるけど時間をくれ」
「もちろん」
「エレン、手伝ってくれ」
「承知しました」
アレンとエレンの二人は、やや離れ、電子コードの解析を始める。
「さてと、ひとまずその翼は仕舞ったら?」
剣を鞘に納めたネオンに促されるように、彼女たちは機械翼を収納する。
完全にこの場を支配しているのはネオンだった。
「あの電子コードの中身がなんであれ、お前たちとは手を組む。協力する上で情報交換しよう」
「異論はない、そっちが先に答えて」
「いいよ」
「そっちの戦力はどの程度?」
「中型輸送艦一隻と、ARMSが三機。戦えるのは私とリオン、それとゼナの三人、一応エレンも戦えるけど勘定には入れないで」
エレンの第一優先対象はアレンなので、アレンが危険でない限りは自ら戦うことはしないだろう。
「どの程度戦える?、特にゼナ」
「レーザーライフルがあれば、間違いなく活躍すると保証するが、CQBはそれなりだ、間違ってもそこの剣持ち二人と同列にするなよ」
「射撃に自信があるのか?」
「ああ、てめぇらにも負けねえ自信はあるぜ」
「ふふ、頼もしいですね」
「次はそっちの聞きたいことを聞く」
「聖女イリステラって何者?」
その問いを投げた瞬間、シスターズの間に独特な空気が発生したのを、ネオンは感じた。
「聖女イリステラ、私たちのリーダー」
「彼女は神怒隊の元隊長で、私たちの光です」
「イリステラさんは最強のシスターだ、それだけは変わらない」
「急にカルトじみたことを言うの止めて」
「私たちは本当のことを言っただけですよ、これが聖女イリステラです」
イーディスは、小型端末を操作し、ホログラムを表示させる。
「おお、清廉な美少女でござるな」
「機械の翼が八枚ないか?」
「私の方が美人」
「殺すぞ、ネオン」
「シエラ、落ち着いてください」
「冗談、三人にとって大切な人なのは分かった」
「私たちだけではない、神怒隊の全隊員にとってイリステラさんは特別な存在だ」
シエラは遠い過去を思い出すかのように、呟く。
「そっちの話を信じるなら、イリステラが簡単に捕まるとは思えない、それにさっき教会と戦うとも言ってた、三人はどういう立場なの?」
「マキウス教会内部の権力闘争に巻き込まれた、今の私たちに公的な身分は存在しない、イーディスが傭兵として有名なくらい」
「権力に溺れたクソ共のせいで、私たちは濡れ衣を着せられ教会を破門された身だ、神怒隊はもう存在しない、イリステラさんがいなければ私たちが今ここにいるかは分からないな」
聖女イリステラは、仲間たちを逃がす時間稼ぎをする為に自ら捕まることを選んだという。
「私たちが巻き込まれた争いの中身はどうでもいい、私たちの目的は聖女イリステラを救うこと、そのためにこの一年生き続けてきた」
「あの時我慢したんだ、私たちはもう遠慮しない」
尋常ではない覚悟をアレリアとシエラが見せたところで、アレンが声を上げる。
「皆、暗号が解けたぞ」
「早いね」
「俺一人だと一時間はかかったかもな、エレンのお陰だ」
「もっと褒めてください」
「エレンが優秀で助かったよ」
「ありがとうございます!」
「そんで?、あれだけ手を込んで隠されてたんだ、どんな情報が入ってたんだ?」
「入ってたのは三つのファイルだ、何かの財務記録と無人兵器の開発データ、それと…あー、女性陣は見ない方がいいかも」
「なに?」
「エグロン社の重役の弱みリストだな、主に下関連の」
「何人分だ?」
「五十二人だ」
「よくもまあそれだけ集めたもんだな」
「そんなデータがあるのであれば、暗部が地元の窃盗団を使った理由が分かったでござるな」
正確には暗部の指揮官、もしくは暗部に直接命令できる立場の人間がこのリストに載っているのであれば、辻褄が合う。
「エレン、このリストに載っている名前と社内の役職を照らし合わしたリストを作ってくれ」
「承知しました」
「財務記録は後にして、この無人兵器の開発データだな、ファイル名は"ニューエンジェル計画"か」
アレンは、開発データを複数のホロウィンドウで表示して眺める。
データに表示される無人兵器、それはまるでアンドロイドのような見た目をしていた。
「独特な無人兵器だな、見たことがないから、まだ未発表の代物だな」
「マグラート?、アレン、この無人兵器の動力源はマグラートリアクターですよね?」
「確かにそうだな、でもマグラートの関連技術はマキウス教会が独占してる代物じゃなかったか?」
マキウス教会が方針転換したのかと、アレンはイーディスたちを見る。
「その通りです、私たちの心臓にもマグラートリアクターが組み込まれています、それはイリステラも同じですから、エグロン社が再現できていること自体は不思議ではありません、問題は…」
「この無人兵器は量産型だ、つまりエグロン社は継続的にマグラートを入手できるってことだ、マキウス教会が独占してるマグラートを」
この事実は、シスターズに少なくない衝撃を与えた。
「教義に反して企業に赤石を売るだと?、そんな背信行為が許させるはずがない、この設計図を書くように命じた人間は背信者だ」
「神怒隊が解体されてから現れた背信者、偶然とは思えない」
シエラとアレリアはそれぞれの見解を口にする。
「二つのことが分かったな、教会とエグロン社を繋げているのはマグラート、そのマグラートを利用した無人兵器の軍隊を作ろうとする何者かがいることだ」
アレンは明らかになった多くの事柄から二つの事実を抽出した。




