三十八話 悪運と隠された機密
アレンたちを助けてくれたイーディスが乗るビークルを追って、ビークルを走らせること、ニ十分ほど、前を走るビークルは倉庫のような建物に、入った。
「罠、ではござらんな」
「ん、アレン、顔見知りでも信用し過ぎないようにね」
「分かってるよ」
前を走るビークルが停車し、三人の人間が現れる。
フードを脱いだイーディス、そして残りの二人のうち、一人は知らない顔だが、もう一人は紙本屋で出会ったシスターだった。
(イーディスと容姿が似てたからもしかしらと思ったけど、こんな偶然もあるんだな)
向こうが降りたので、こちらもビークルから降り、三人のサイバーパンクシスターズと向き合う。
お互いに武器を手放さず、一定の緊張が張り詰める。
「ここはひとまず安全です、アレン、意外とお早い再会になりましたね」
「そうだな、まずは助けてくれてありがとう。どうして助けてくれたかは分からないが、お礼だけは言わせてもらう」
「お互いに聞きたいこと、知りたいことはあると思いますが、武器をお互いに下ろしましょう」
「分かった」
アレンとイーディスはお互いに、ハンドサインを出し、仲間に武器を下ろさせた。
「改めて、イーディス・テラメアと申します、こちらはシエラとアレリアです」
「アレン・リードだ、傭兵団スターリングの団長、こっちはクルーのネオン、ゼナ、リオン、エレンだ」
「イーディス、先に言っておくと俺たちは何かの仕事でここにいるわけじゃない、窃盗団のアジトに忍び込んだ程度で特殊部隊みたいなやつらに襲われるとは思っていなかったんだ」
「その言葉を信じますよ、私だってスターリングの情報はある程度は持っていますから、どこかの企業や組織のひも付きではないことは分かっています」
「何故あのビルに?」
「欲しい本が盗まれたと知ってな、俺たちはここに長居する予定はないし、取り返すことにしたんだ」
「それが本当なら不運だったな、アレン」
「シエラさん、嘘は言ってないぞ」
「シエラでいい、イーディスを呼び捨てにするならそうしろ。私たちはハナからお前たちを疑っていない、そうだろ、アレリア?」
「イーディスの顔見知りだから、助けただけ。それ以上でもそれ以上でもない」
アレリアと呼ばれたイーディスとシエラより、少し小柄なシスターは淡々と答える。
その答え方はこちらにあまり興味がないもので、イーディスの顔見知りだからという理由に説得力を持たせてくれた。
「俺たちを襲った連中は何者だ?」
「エグロン社の警備部に所属する特殊執行部隊、所謂暗部だと思えばいい」
「ーーー」
エグロン社の暗部に襲われる意味が分からず、アレンは頭を捻るが、とりあえず思考の横に置く。
「エグロン社の暗部を攻撃して、大丈夫なのか?」
「それはアレンが気にすることではないでしょう」
イーディスの言葉に、納得することしかできなかったので、アレンは頷くしかなかった。
「攻撃したのは其方も一緒ですよ」
「正当防衛なんて言い訳は通じないよな?」
「試してみては?」
「やめとくよ」
街でも平気に銃をぶっ放す暗部に常識が通じるとは思えない。
(マジでどうしょうもなくなったらケイトに泣きつこう、問題はどうしてエグロン社の暗部が襲ってきたかだな、ネオンたちを待ち伏せしたのか?)
「なぁ、ネオンたちを襲ってきた連中は待ち伏せしていたのか?」
「待ち伏せ、んー、待ち伏せ…」
アレンに待ち伏せされたのかと、聞かれたネオンは首を傾げる。
待ち伏せという言葉に違和感を覚えたからだ。
「待ち伏せ、そういえばあの時死体から流れてた血は乾いていなかった。連中が窃盗団の人間を殺したと仮定すると、本が散らばってた理由にも説明がつく」
「待ち伏せてたんじゃなくて、大量の本から何かを探してる最中に私たちが現れたのか」
「多分それが正解」
「それならば本を拾おうとした瞬間に銃撃された説明もつくでござるな」
「そうなると…」
ネオンはあの場で回収した『転生したら竜騎士でした』の最終巻を取り出して、ビニールを破り、本を開く。
ペラペラと本をめくるが、これといって怪しいものは見つからない。
「見当違いか?」
「んん、このページだけ他のページと厚さがほんの少しだけ違う」
アレンには分からないが、ネオンにはページの暑さの違いが分かるらしい。
「袋綴じですか、よく気付きましたね」
「企業スパイが盗んだデータを隠す時に使う手口だ、もっともあれだけ暗部が派手に動いたということはただのスパイ事件ではないだろうが」
「お主ら」
「こっちに来るなよ、どっか行け」
「二人共、そう邪険にするな、二人のお陰で俺たちは助かったんだぞ?」
「それはそうでござるが」
「それはそれ、これはこれだ」
「二人共」
「アレン、いいのですよ」
「むしろ二人の反応の方が正常だ、異端なのはどちらかと言うとお前の方だぞ、アレン」
「それは分かってるよ、俺が二人に、というかマキウス教会の義体技術に興味があるだけだ」
「なるほど、未知の技術への興味は尽きないというわけですか」
「悪いな、個人的興味で」
「いいんじゃないか、お前とは二度目ましてだが、気に入ったぞ、イーディス、囲うつもりなら協力するぞ」
「本当ですか、凄く助かります」
「そうなったらうちの傭兵団と戦争だから止めてくれよ」
二人はバイザーを着けているので、表情が分からないが、口元は見えるので、二人が冗談で笑っていることだけは分かった。
「アレン、開封できた」
「どれどれ」
ネオンに呼ばれたので、ネオンの方に行くと、彼女は開いたページを見せてきた。
「白紙?、いや、透明の電子コードか」
「ん」
「よくやった」
エグロン社の暗部が何を求めていたのか、それが分かっただけでも収穫だ。
ネオンが欲しがっていた本にちょうど隠されていたのは、ネオンの悪運が強いせいかもしれない。
「ネオンの運が終わっているのはこの際置いておくとして、星間企業の暗部が私たちを生かすとは思えないな」
「エレン、どう思う?」
「可能性は低いかと、手に入れた電子コードで交渉するのもリスクが高いと言えるでしょう」
取引する時に大部隊でも送られたら溜まったものではない。
「アレン、私が敵は全て倒す。スターリングに害する敵はたとえ星間企業の暗部だろうと許さない、全部、全部倒す」
「そうだな、こんなとこでくたばる気はない、悪いが皆一緒に戦う覚悟はあるか?」
「やるっきゃねぇだろ」
「無論」
「アレン様の仰せのままに」
「ありがとう皆」
やる気十分の仲間たちの顔を見たアレンは頷く。
「ネオン、全部任せる」
「ん」
ネオンは、イーディスたちの方へ歩み寄る。
「私はアレンみたいに優しくない、シエラが紙本屋に居たのは偶然じゃない、暗部を監視していた理由を教えろ」
剣を抜いたネオンに対し、シエラは一歩前に出て、両手の手の甲からブレードが展開される。
「脅しか」
「そうとも言える」
二人の間に緊張が走るが、アレリアが口を開く。
「シエラ、下がって」
「ーー」
アレリアに、諭されたシエラは、一歩後ろに下がる。
「ネオン、敵は我々ではない」
「質問に答えろ、アレリア、暗部を監視していた理由を教えろ」
「それを知ってどうする?」
「暗部の敵なら協力できる、お前たちは暗部と知っていて攻撃した、つまり私たちを助けたのは打算もあったはず、違う、アレリア?」
「…ただの傭兵ではないみたい、いいよ、教えてあげる」
「アレリア」
「シエラは反対?」
「ああ、部外者を巻き込むのは危険だ」
「イーディスは?」
「私は賛成です」
「イーディス」
「シエラ、確率が少しでも上がるなら試すべきです」
「…二人の意見に従う」
意見が纏まったところで、アレリアは、一歩前に出ると、カチャリと機械仕掛けの音が聞こえた瞬間、背中から二対の機械の翼が展開する。
アレンたちが驚く暇もなく、イーディスとシエラの背中からも、それぞれ一対の真っ白な機械翼と、三対の漆黒の機械翼が生える。
まるで空想の天使や悪魔もかくやといった姿をするシスターズの一人、アレリアが口を開く。
「私たちは、元マキウス教会の神怒隊、エグロン社の暗部を監視していたのは、星間企業と教会に奪われた聖女イリステラを取り戻すため」




