三十六話 窃盗事件
会計を済ませたアレンは、エレンを連れてネオンを探し歩いていた。
「あ、居た。ネオン」
「アレン」
「どうしたんだ、そんな渋い顔をして」
たくさんの本を抱えたネオンは、その美貌が歪むほど渋面を浮かべていたので、アレンは驚いた。
「アレン、最終巻だけがない」
「最終巻?」
「ん、『転生したら竜騎士でした』の最終巻だけがない」
「それってネオンが好きな娯楽小説の一つだよな」
「大好き、だから全巻欲しかったのに、ない」
「残念だけどないものは仕方がないんじゃないか?」
「最終巻だけないなんておかしい」
「それはそうかもだけど…」
有り得なくはないが、ネオンの言い分も全否定はできないので、アレンはエレンに助けを求める。
「エレン、調べてくれないか?」
「承知しました……24時間前にこの店は窃盗にあったようです、その際に何冊かの本が盗まれたようで、おそらくネオンが求めていた本もその中に」
「えぇ?」
予想の斜め上の報告にアレンは驚きの声を上げる。
「窃盗事件?、品切れとかじゃなくて?」
「はい、防犯カメラをハッキングして確認したので間違いありません」
サラッと違法行為をしていることには触れないでおく。
「エレン、その窃盗犯はどこ?」
「ネオン、私人逮捕はおすすめしませんよ」
「私たちはあと二日と半日しかない、現地の治安局に私の本を任せてたら休暇が終わる」
「ネオンの本じゃないけどな」
「その本があったら私が買ってるから、私の本」
あまりの暴論にアレンは思わず笑ってしまったが、こういう時のネオンは譲らないので、アレンは真剣に私人逮捕を考える。
「エレン、その窃盗犯はネオンが欲しい本だけを盗んだのか?」
「いいえ、その本を含めて数十冊を盗んだそうです」
「この店は被害を治安局に通報したんだよな?」
「はい、ただ盗まれたものが本で怪我人などがいなかったこともあり、治安局はあまり力を注いでいないようです」
「まぁ、本泥棒だしな」
コロニーでは高価な代物だが、惑星ではそんなことはない。
治安局が捜査する事件の優先順位とは高くはないだろうことは容易に想像できる。
「付け加えると窃盗犯は複数犯です、防犯カメラに映っていたのは四人です」
「窃盗団か、とりあえず足取りは追ってみよう、それとネオン、怒って窃盗犯を斬るとかはナシだからな」
「ん、ありがとう」
ネオンと約束して、まずはネオンが抱えていた本たちを購入することにした。
◆◆◆◆
ネオンが購入した本たちを、運送サービスでホテルの部屋に送ったアレンたちは、本屋を出た。
「エレン、窃盗団の人相は分からないんだよな?」
「はい、防犯カメラを上手く避けていますね」
「まっ、人相が分からなくても探す方法はある、防犯カメラの映像を送ってくれ」
「承知しました」
アレンは、小型端末のホロディスプレイを起動し、送られてきた防犯カメラを、自作のアルゴリズムで分析する。
「何を分析してるの?」
「こいつらの歩き方をパターン化してる」
「歩き方」
「外的特徴から個人は特定する方法はいくつかある、人相、指紋、耳紋、骨格、歩き方はその一つだ。この世に100パーセント同じ歩き方をする人間は存在しない」
「流石アレン」
「褒めるのは窃盗団を見つけてからな、エレン、このデータで探してみてくれ」
先程ネオンに説明した歩き方に加え、背丈や足のサイズなどを盛り込んだデータは窃盗団の人間を特定するために、使えるはずだ。
「人間の歩き方には詳しいもんね」
「ARMSの開発者だからな」
人型兵器を開発する上で、歩行を成立させる為の知識も当然持っている、先程のはそれを学んだ際に副次的に学んだ知識だ。
「ハッキングできるカメラの限界で、詳細な現在地は特定できませんでしたが、窃盗団が潜む区画は特定できました、ここから四ブロック先の建物です」
「行くか」
「ん、私が本を取り返す」
「一応二人にも連絡しておくか」
アレンはゼナとリオンにメッセージを送る。
『色々あって殴り込みに行くから、一応伝えておく』
『アレン、たった一日で絶望的に物事を伝えるのが下手になったな』
『説明するのがめんどくせえんだよ』
『分かった、ネオンだろ』
『分かるか』
『分かるわ』
『アレンはネオンに甘いでござるからな』
『そんなつもりはないけどな、とりあえず伝えることはしておこうと思ってな』
『某たちの力添えは必要か?』
『いらないと思う、ネオンとエレンだけで十分戦力は揃ってる』
『大丈夫か?、情報はあまり多くないんだろ?、念には念を入れた方がいんじゃないか?』
『二人が来るのは過剰戦力だぞ、相手は本の泥棒の窃盗団だ』
アレンは、窃盗団の情報を二人に送る。
『本の窃盗?、大した金にならねえだろ、惑星下で本を盗んでも』
『本が目的ではないのかもしれぬ』
『それは俺も思ったけど、二人は見当がつくか?』
『分かんねえけど、少し匂うな、私は行くぞ』
『某も行こう』
『いいのか?、悪いが給料は出せないぞ』
『いらねよ』『いらぬ』
位置情報を送ると、数十分後オープンカータイプのビークルに乗ったゼナとリオンがやってきた。
「そのビークルは?」
「あー、これか、賭けの駄賃として手に入れたもんだ、盗んだわけじゃないからな」
「賭け?」
「ホテルの酒場で色々あったのでござるよ」
「あんまり危ない橋を渡るなよ」
「安心しろ、このビークルを乗り回せるのは休暇期間だけだ。欲に釣られた馬鹿には良い薬になっただろ」
「ふふ、確かにあの顔は傑作でござった」
どうやら歴戦の傭兵の二人にちょっかいを掛けた人間がいたようだ。
「こっちの話はいいだろ、さっさと乗れよ」
ゼナに促されて、三人はビークルに乗り込む。
エレンがナビに、窃盗団が潜む区画の座標を入力し、自動運転を起動させ、ビークルが勝手に動き出す。
「ありがとう、来てくれて」
「我儘な女だな、お前は、これは貸しだぞ」
「呼んでないのに」
「断りはしなかったではないか」
「戦力が増えるのは良いこと、貸しを作るのが嫌ってだけ」
「我儘女が」
「自分勝手でござる」
「うるさい、馬鹿飲兵衛共」
「「ああ?」」
「仲が良くていいな」
「本当にいいのですか?」
エレンが知識として知る仲が良い光景とはかけ離れていたので、首を傾げた。
「良いんだよ、気安い仲ってことだ」
「アレン、気色の悪い顔をしてねえで殴り込みの詳細を教えろよ」
「ネオンが欲しい本を回収するだけだ、私人逮捕をする予定はない、窃盗犯たちを見つけたら通報はするつもりだけどな」
「ならばアレンはエレンと外で待たれよ、某たちで早急に終わらせる」
「それが一番手っ取り早いか」
「ん、すぐに終わらせてくるから待ってて」
「大人しくお留守番してるよ」
どう動くかを話し終えたところで、ビークルが目的地の前で止まった。




