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三十二話 奇妙な依頼

自分の父親から迷惑料という名目で、賠償金をふんだくったケイトとオーベルの不思議な親子関係に瞠目しつつも、ジーベックはリノレスセカンダスコロニーに寄港した。


「エレン、リノレスⅠへの降下申請とか乗組員名簿の提出とかを任せてもいいか?」

「もちろんです、船に関わることは全て私にお任せ下さい、この程度造作もないことですから」

「助かる、もし何か判断に困ることがあれば俺に連絡してくれ、荒事だったらネオンとゼナの二人に頼む」


「承知しました」


ぺこりと綺麗な所作で、エレンは頭を下げる。


「俺は宙賊の討伐報告にマセナリーへ行こうと思うんだけど、皆はどうする?」


「行く」

「私も行く」


「某はケイト殿次第でござるが…」

「ずっと船に籠っていたからね、やっとなんの気兼ねもなく外を歩けるし、外に出ようかな」

「ならば某もそれについて行くでござる」


「傭兵管理機構の建物に行くだけだぞ?」

「ずっと同じ空間に引きこもるのは精神衛生上良くないという話だよ、安心してくれ、君たちの邪魔はしないから、ケイトも前ほど神経質にならなくて大丈夫だからね」


「護衛依頼はまだ終わっておらぬが、肩肘張らないと約束するでござる」

「うん、そうしてくれ」


アレンは、皆がついてくるというので、エレンだけを船に残して、下船した。


◆◆◆◆


リノレスセカンダスコロニーは、リノレスⅠの玄関口のコロニーということもあり、連邦で訪れたコロニーの中で、最も発展しているコロニーだった。


入港する際も多くの船舶が出入りしていたのが見えたので、ある程度予想はしていたが、やはり大勢の人間が活動しているのを見ると、その経済規模の大きさを実感できる。


傭兵管理機構マセナリーの建物ですら、大きくて広かったので、傭兵の活動も活発であることが伺えた。


「宙賊の被害が頻繫しているなら、傭兵の出番だ、護衛依頼だけじゃなくて宙賊討伐の需要も高まっているんだろ」

「前みたいに航宙軍が動くことはあると思うか?」


「それは宙賊の被害規模次第じゃないか?」

「それもそうか」

「それと航宙軍って本来はそんなに腰の軽い連中じゃないんだよ、軍隊っていう意味ではほとんど同じだが、基本的に合同依頼を出すのは星系軍が基本だぞ」


航宙軍は連邦政府直属の軍隊、それに対して星系軍はその星系を治める星系府直属の軍隊だ。


「トラビッシュでは星系軍が貧弱過ぎて、宙域政府が航宙軍に依頼したんだ」

「どうして星系軍が貧弱なんだ?」

「辺境だからだよ」

「なるほどな」


宙賊の討伐が傭兵で事足りるのなら、星系軍が強くなる必要はなく、連邦にとってそれほど重要ではない辺境ならば、宙域政府に降りる連邦政府からの補助金の額もたかが知れているという話だ。


ゼナとそんな雑談を済ませながら、受付で宙賊の討伐報告を済ませて、報奨金を受け取る。


「アレン、面白い依頼を見つけたよ」

「面白い依頼?」


ライセンスを同期させることで、閲覧できるようになったリノレス星系の依頼を物色していたネオンが、ホロディスプレイを反転させて、見せてきた。


「タクティカルバイザーの修理依頼?、依頼を出す場所を間違えてないか?」

「だから面白いと言った」


何かを修理したいとして、暴力が取り柄の傭兵たちが集まるマセナリーに依頼するなど、アレンには依頼主が間違えたとしか思えなかった。


「ゼナ、どう思う?」

「失せもの探しの依頼とかは聞いたことがあるけど、装備品の修理依頼は初めて見たな」


「おーい、三人揃って何を見てるんだい?」


マセナリーの建物内を見学していたケイトが戻ってきて、ネオンの小型端末のホロディスプレイを覗き込む。


「タクティカルバイザーの修理依頼、傭兵はメカニックのような依頼も受けるのかい?」

「某はそのような依頼は見たことがないでござるな、何かの手違いではござらんか?」


「リオンもそう思うような」

「うむ、何かを治すなど傭兵から最も縁遠いことでござる」


「分からないことは職員に聞いてみればいい」


ネオンは、この依頼が気になったらしく、受付まで聞きに行った。


アレンも疑問がありつつも、依頼自体には興味があるので、ネオンについていく。


「質問、この依頼は正式なもの?」

「はい、そちらの依頼は正式な手続きを経て、マセナリーに依頼されたものです」

「私たちでも受けられる?」


「そちらの依頼にライセンスランク制限はございませんので、お受けすること自体は可能ですが…」

「腕の良いメカニックならいる」


ネオンは、アレンの肩に手を乗せて、受付嬢の前に押し出した。


「依頼を受ける前にテストを受ける必要があります」

「テスト?」

「はい、こちらです」


受付嬢が手渡してきたタブレットを受け取ると、アレンはタブレットが故障していることに気付いた。


「直せってことか?」

「はい、それがテストです」

「ーーー」


アレンはタブレットの液晶に触れ、裏表を翻し、裏面に触れる。


タブレットの裏面には、機械の翼を広げたようなマークが描かれていた。


「このタブレットは壊れてるわけじゃない、意図的にパーツが取り外されている、だから持ち主に取り外したパーツを戻せば使えるようになるって言ってくれ」

「ーー」


「不合格か?」

「い、いえ、合格です、どうして少し触れただけで本来あるはずのパーツがないと分かったのですか?」


「こういうタブレットはいくつもバラしてきたから、触れれば大体のことは分かるんだ」

「な、なるほど」


「大丈夫、理解する必要はない、すごいすごいって言っとけば大丈夫」

「おい。聞かれたから答えたのに」


「失礼しました」

「いや、気にしてないから。それで俺たちはこの依頼を受けられるのか?」

「はい、詳しくは依頼人とお話し下さい。数時間以内にライセンスを通じて、連絡があるはずです」


なんか成り行きで、依頼を受けることになってしまったが、とりあえず皆の元に戻る。


「さっきの依頼、成り行きで受けることになった」

「だいぶ怪しい依頼だぞ、大丈夫か?」


「依頼の見た目ほど怪しくはないと思う」

「根拠は?」

「それは…」


ゼナの問いに答えようとしたところで、小型端末が通信音を鳴らした。


アレンが端末を操作すると、傭兵ライセンスを通じて、通信が入っていた。


アレンは皆に目配せを送って、通信に出る。


『初めまして、貴方が私の依頼を受けてくれた人ですか?』

「ああ、シルバーランクのアレンだ、貴方が依頼人か?」


『そうです、イーディス・テラメアと申します、貴方と同じ傭兵です』

「よろしく、イーディス。傭兵の依頼人は初めてだ」

『おや?』

「ん?」

『いえ、こっちの話です、私も初めてですよ、マセナリーを通して傭兵に依頼するのは」


「どうしてマセナリーに依頼したんだ?」

『私のテストに合格したアレンならば、私の事情に多少の察しはついているのではありませんか?』


「…憶測でものを話すのは好きじゃないんだ」

『ふふ、私はマキウス教会のシスターです、彼らが信仰する神を信じてはいませんけどね』


「ーーー」


マキウス教会、アレンが知っているぐらいには有名な宗教組織で、教義には詳しくはないが確か機械を神として信仰し、信者には義体化を推奨する銀河でもトップクラスの義体サイボーグ技術を持つ。


マキウス教会がカルトのような危険な宗教組織ではないことは、アレンも知っている。


先ほどテストとやらで使われたタブレット端末には、マキウス教会の象徴である機械の翼の紋章が書かれていた。


「神を信じていないということは教会と仲が悪いのか?」

『まぁ、そんなところですね』

「煮え切らない答えだな」

『貴方の疑問には答えているので十分です、雑談はこの辺にして仕事の話をしましょうか』

「ああ」


『私の船に来てください、道具は揃えてあるので』

分解構成機レプリケーターはあるか?」

『小型のならありますよ』

「分解用のガラクタはあるか?」


『宙賊討伐で手に入れた戦利品なら』

「よし、それなら十分だ、すぐに修理に取り掛れる」

『本当ですか?』

「ああ」


『港の番号を教えますので、一時間後にそこへ来てください』

「分かった、それじゃあ一時間後に」

『はい、それでは』


話が纏まり、アレンは通信を終えた。

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