三十話 パートナーとの語らい
オマケがついてきそうではあるが、レヴィーヴァやソルレアを造れる可能性がでてきたこともあって、上機嫌のアレンは、整備の為に格納庫を訪れた。
シルヴァーナ、エルカノ共に大きな損傷がないことは確認済みだが、先程のような襲撃が次もないとは限らないので、早めに整備を終えた方がいい。
そんなことを考えながら、タブレット型端末を片手に作業ボットに指示を出して、シルヴァーナとエルカノ両機の整備を始める。
「あれ?」
作業を十分ほど経ったところで、違和感を覚える、そう、シルヴァーナのコックピットが開いていないのだ。
「シルヴィ、ネオンはいないのか?」
『はい、ネオンはコックピットに搭乗しておりません』
「マイルームか?、いや、でも…」
ネオンは活動時間のほとんどをシルヴァーナのコックピットで過ごす、コックピットにいないというのは、アレンとしては憂慮するべきことだ。
(機動鋼翼を久しぶりにそれなりの出力で使っていたから、その影響か?)
機動鋼翼は、ネオンの量子脳波により自在に形を変える兵器だが、ビーム砲への変形自体は金属の羽の中に粒子収束装置が組み込まれているので、それほど労力はいらないが、六機のビーム砲を同時に操作するというのは、強化された脳機能を持つネオンであっても、容易いことではない。
もちろんネオンの心身に負担がないように設計したし、もし危険が及びそうのは場合は、事前に発動するセーフティシステムもあるが。
「ダメだな、あれこれ考えるのは俺の悪い癖だ」
ネオンの顔を見れば、全てが分かる話だ。
◆◆◆◆
エルカノの整備だけは終わらせたアレンは、自室の隣の部屋を訪れる。
「ネオン、いるか?」
「いる」
扉の向こうから返事があったので、ハッチを開けて部屋の中に入る。
ネオンの部屋は私物らしい私物がほとんどない殺風景な部屋で、これといった特徴はない。
それはネオンの自身が寝る時くらいしかこの部屋を使っていないからである。
そして当の本人は、ベッドの上で横になっていた。
「コックピットにいないからびっくりしたよ」
「ん、ちょっと疲れた」
「お疲れ様」
ベッドの傍に寄り、腰掛けたアレンは、優しくネオンの髪を撫でた。
「心配かけた」
「心配した」
「ごめん、埋め合わせはするよ」
「なんでも?」
「俺にできる常識の範囲内でな」
「傍に居てくれるだけでいい、それだけで私は安らげる」
「急に謙虚だな」
「私は良い女だから、パートナーを困らせたりしない」
「つい数秒前の自分の発言を鑑みてくれ」
「覚えてない」
「どこが良い女なんだか」
「良い女、強くてARMS乗りとして優秀だし美人でおっぱいが大きくて足も長い」
「それってほぼ見た目の話だろ」
「事実」
「自己評価が高い分には結構だよ、良い女かどうかは別として」
「むぅ、強情」
「どっちがだ」
「ありがとう」
「どうした急に?」
「アレンと話してたら元気が出てきた」
「それは良かった、埋め合わせはできたみたいだな」
「ダメ、まだできてない」
「もっと一緒にいればいいか?」
「ん、私が満足するまで一緒」
「シルヴァーナの整備をしたいんだけど」
「私とシルヴァーナがどっちが大事なの?」
「この宇宙で一番答えにくい質問をしないでくれ」
「拒否は許さない、答えて」
「面倒臭いな」
「いいから、答えないなら私にも考えがある」
「考え?」
「ん、アレンの秘蔵のホロビデオを皆にバラす」
「存在しないけどな、その秘蔵のホロビデオとやらは」
「ないの?」
「ないよ」
「男なのに?」
「性別は関係ないだろ」
「確かに。でも男の小型端末の中にあると読んだ」
「どこで」
「娯楽小説」
「ーーー」
「呆れるのはよくない。娯楽小説は面白いだけじゃなくて役に立つ知識もくれる」
「今回の知識は役には立たなかったな。それとさっきの質問はケースバイケースってことにしてくれ」
「ふーん、それなら今はどのケース?」
「今は…ネオンが大事だな」
「ふふん、照れる」
「言わせた女が何を言ってるのやら」
「ありがとう、答えてくれて」
「答えないと答えるまで逃がさいつもりだったろ?」
「それはもちろん」
「そんなに元気なら俺はもう必要ないんじゃないか?」
「そんなことはない。私の精神はボロボロ」
「さっき元気がでてきたって言ってただろ」
「知らない、多分アレンの空耳」
「あんまり適当なことを言ってると、部屋から出てくぞ」
「ごめんなさい、もう適当なこと言わないから出ていかないで」
「よろしい」
ベッドに座り直したアレンは、笑顔のネオンの前髪を撫でる。
「ネオンに心配かけないように頑張るよ、少なくともパワースーツを着た傭兵ぐらいは脅威にならないようにしないとな」
「アレンも剣を持つ?」
「俺には無理だよ、今のところ強化手術も義体化もする予定はないから、ここで戦うよ」
アレンは己のこめかみを叩いて、頭脳で戦うことをアピールする。
「どうやって戦うの?」
「パワースーツも所詮は機械だからな、やりようはあると思う。まぁ、一番はそんな連中と戦わないようにすることだけど」
「もしもに備えておくのは大事。現に今回は白兵戦を仕掛けられた」
「その通りだ、話は戻るけど疲れたのは機動鋼翼をビーム砲塔として使った影響ってあるか?」
「ない、逆に中型艦と数機の小型戦闘艇を落とすのに疲れる理由を教えて欲しい」
「…ネオンが最後に全力で機動鋼翼を使ったのっていつだ?」
「んー、小惑星偽装型要塞を単騎で破壊した時、あの時は疲れたから覚えてる」
「確かに疲れる理由はないな」
「でしょ?」
ネオンの言い分に納得してしまうのと同時にそんなふざけたことを単騎で成し遂げたんだと改めて思い出すアレンであった。
「心配だった?」
「少しな」
「アレンの造るものは完璧、自信を持って」
「持ってはいるつもりだけど、機動鋼翼はいっとう特殊な武装だからな」
「大丈夫、もし何か問題があったらすぐに言うから」
「そこは信頼してる、とにかく俺の心配が杞憂でよかった」
「ん、お互い様」
「はは、お互いに相手を心配してたのか、やっぱり俺たちは相性が良いな」
「ん!、私とアレンはベストパートナー、今から言うまでもない」
「パートナー、パートナーか」
「他の呼び方がいい?、夫婦とか恋人とか」
「いや、パートナーが一番しっくりくるなと思ったんだ、って恋人はともかく夫婦って、俺たち結婚してないだろ」
「将来するかも」
「子供を産んで育てるなら必要か、結婚は」
「多分、私ちゃんと産めるよ」
「知ってる、まっ、先のことは先の楽しみにとって置こう。今は今しかできないことをしよう」
「ん、一時間仮眠する」
「俺はシルヴァーナを整備するよ。おやすみ、ネオン」
「ん、おやすみ、アレン」
アレンは真っ暗になった部屋を出ていき、格納庫に向かうのだった。




