二十九話 相談と報酬
ケイトの身柄を狙って襲撃してきた傭兵団を退けたスターリングだったが、今までの戦闘で一番の損害を負う結果となった。
その損害というのは主にジーベックの後方甲板に強制ドッキングされた際に開けられた穴だ。
この穴を修繕しないことには、超光速ドライブシステムが使えないどころか、安全な航行すらもままならない。
武装解除し、降伏した傭兵共を突撃揚陸艦に押し込んで、強制パージさせた後は、応急処置だけは済ませて、戦闘宙域から離れたのちに改めて、本格的な修繕作業に取り掛かった。
たくさんの作業ボットを引き連れて修繕作業を担当するのはアレンだ。
『アレン様、作業所要時間は如何ほどになりますでしょうか?』
「この感じだと二時間ってところだな」
『承知しました、ネオンがいるのでリスクは低いでしょうがお気を付けください』
「ありがとう。エレン」
ジーベックの後部甲板に立つアレンは、タブレット端末を片手に、作業ボットたちに指示を出す。
「装甲材の加工にはそれほど時間はかからないか、順調に行けば二時間はかからないかもな」
今回の戦いが傭兵になって最も大きな損害を被った戦いだった、もしシルヴァーナとネオンがいなければ、ケイトの身柄は奪われていた可能性はかなり高いと言わざるを得ない。
「やっぱりシルヴァーナ以外の戦力が課題だよな」
ジーベックの自衛能力の低さは言わずもがな、そしてゼナが乗るエルカノの火力の低さも今回の戦いで露呈した。
正直に言うと、今すぐジーベックの改修をしたいぐらいだ、不可能だが。
エルカノに関してはやはり当初から問題だったマシンポテンシャルの不足により、追加武装は装備できないので、どうしようもないのだ。
「”レヴィーヴァ”をロールアウトできれば万事解決なんだけどな」
”レヴィーヴァ”の設計図は完成間近だが、一つ大きな問題がある、それはどうやって”レヴィーヴァ”のような超高性能ARMSを製造するのかということだ。
まずARMSを製造するには、専用の工場が必要だ、それを傭兵団単体で建設するのはコストや場所の確保など様々な面からかなり難しい。
そうなると既存の工場を借りる形で、製造するのが現実的だが、ただの工場では”レヴィーヴァ”や”ソルレア”は製造できない。
心臓部であるエルトロンジェネレーターの製造には粒子加速器などの高度な設備が必要だし、搭載するエルトロン装甲の製造にエルトロン粒子が必要なので、専門知識を持つアレン自身が製造に関わらなければいけない。
高度な設備を持つ工場を所有するような大企業が、部外者のアレンを入れてくれる可能性は低いだろう。
「エグロン社はどうなんだろうな、ケイトはエグロンプライムコロニー所属の主席研究員って言ってたけど」
もし巨大星間企業と交渉して、エルトロン粒子関連の技術を渡さずにこちらの要求を呑ませるのであれば巨大星間企業の目を引くような画期的な発明が必要だ。
◆◆◆◆
「可能だと思うよ、エグロン社との交渉は」
修繕作業が完了し、無事に超光速ドライブで航行中のジーベックのリラクゼーションルームで、先ほど考えていたことを、ケイトに相談してみると、返ってきたのが先ほどのケイトの言葉だ。
「…本当か?」
「うん、アレン、君の技術者としての実力は君の自認よりも高いんだ。たとえば此間見せてくれたARMSの設計図に値段をつけるとしたら、最低でも数十億レボルになると思うよ?」
「確かにそれくらいの価値はあるかも」
アレンだって自分の作ったものの価値くらいは分かっているつもりだ。
”レヴィーヴァ”や”ソルレア”が、そこらの航宙戦闘艦に劣るとは思っていない。
「ただ言うまでもなく、エルトロン粒子関連の技術は渡せない」
「それは知ってるよ、でも君が”ソルレア”だっけ?、に採用していたフレームだけでも高い価値があるとエレンが言っていたよ」
「フレーム?、ああ、エンバースフレームのことか、確かにあれなら多少グレードダウンさせれば、従来のARMSでも採用できるか」
「グレードダウンは必要なんだ」
「ハイエンド機ならともかく量産機に求められるのは高い性能じゃなくて少しでも安いパーツだからな」
「なるほど、コストカットは製品開発の基本だね」
「ああ。それでレストエンバースフレームは使えるとして、それだけで工場を借りて二機のARMSの生産ってのは難しいんじゃないか?」
「それだけってことはないと思うけどね、あまり大きな取引だと、かえって面倒くさいことになるよ」
「面倒臭いこと?」
「大型の取引となると上級理事会の審議が必要だから、もしそうなればアレンたちががめつい上級理事に追い回されることになるかもよ?」
「それは確かに面倒臭いな」
「うん、それに工場の一部スペースを貸すだけなら、大したリソースを割くわけじゃないしね」
「エグロン社としても悪くない取引ってことか」
「うん、それで交渉の仲介を私に頼みたいって話だよね?」
「そうだ、可能か?」
「任せてくれ、何せ私はエグロン社においては実績とコネの両方を持っている人間だからね、部署は違うけど、軍事開発部門にだって顔は利くよ」
「それで仲介の報酬だけどこの船に乗せてくれないかな?」
「えぇ?、ジーベックに乗るってことか?」
「そうだね」
「それはこっちが払う報酬として釣り合っていない気がするんだが」
「そんなことは無いよ、アレンが頼れる人物でエグロン社の重役と君を仲介できる人間は果たしてどれほどいるだろうね」
「ーーー」
ケイトはアレンが頼れる唯一の存在だ、そう言われると払う報酬が釣り合ってないとは言いきれない気がしてきた。
「そこまでエルトロン粒子に興味があるのか」
ケイトがジーベックに乗る理由など、それしか考えられない。
「とてもね、私はエルトロン粒子が医療に応用できる可能性を研究したいんだよ、切実にね。もちろん船医として働くつもりでもあるよ」
「それを報酬として望むのは分かった、ただしそれは交渉が無事に成功してレヴィーヴァとソルレアの二機がロールアウトした後の話だ」
「いいんだね!?、後でやっぱり無しって言っても今の発言は録音してあるからね!」
「用意周到なのは結構だけど、自分の言ったことには責任を持つぞ」
興奮した様子のケイトに呆れるアレンだった。




