二十四話 閃きとウィザード級ハッカー
エレンの新しいボディが届くのを待つ間、誘拐犯たちに見つからないために港の外に出ることはできなかったが、リオンのARMSをジーベックの格納庫に積み込むという作業があった。
「ムラクモカンパニーの第七世代ARMS"カルラ"のリオン専用カスタマイズ機か」
ジーベックの格納庫に運び込まれる巨大な機械人形を、アレンはキラキラした目で、眺める。
ムラクモカンパニーは、オレリア帝国の企業であり、その機体に触れた機会は驚くほど少ない。
何せ共和国と帝国はずっと長い間戦争を繰り広げていたのだ、破壊された帝国のARMSに触れたことはあれど、五体満足な状態の帝国のARMSを見るのは初めてとも言っていい。
「装備は対艦刀が二本とビームサーベル二本、そして近距離バルカン砲、それと小型実体シールドか」
完全に近接特化の装備、あまりにもイカれてるとしか言えない装備だ、近距離戦に重きを置いているにしても、ビームライフルの一丁も装備していないのははっきり言って異常だ。
パイロットのリオンには何か秘密があるに違いない。
そうでなければこの装備で、宙賊たちと戦えるわけがない。
(そういえば誘拐犯にネオンが応戦した時、リオンも同じ速度で反応していたな)
ネオンは人造強化人間、その超人的な反応速度は、量子脳波と呼ぶ特殊な脳波により、本来であれば思考から伝達、動作の仕組みで行なわれる一連の身体操作の、伝達の部分を省き、動作部位に直接思考を届けることにより、生まれている。
ネオンと同速に動けたということは、リオンはネオンと同じような反応速度を持っているということだ。
それは本来であればありえない、ネオンと同じというのは有り得ないのだ。
(いや、リオンが量子脳波を使うのだとしたらありえなくはないか)
量子脳波による操縦を前提に造られたのがシルヴァーナの機動鋼翼だったりするのだが、アレンはネオンが使う量子脳波について、特殊な思念脳波という程度の知識しか持っていないのだ。
ネオンを作ったクソ野郎共は、優秀な研究者たちだったが、量子脳波を一から作ったとは考えにくい。
(元々量子脳波を使う人種がいたのだと仮定するのなら、納得できる話だ)
量子脳波と同一かどうかは不明だが、それに似た思念波をリオンが使うのは間違いない。
「もしリオンが、ネオンと同じ量子脳波を使えるパイロットだったら…っ!!」
アレンの脳裏に電流のような閃きが駆け抜ける。
「閃いだぞ!」
大声をあげたアレンは、頭の中で溢れてくる創作意欲を、いち早く図面に書き起こすべく、格納庫を立ち去るのだった。
ハイテンションで、格納庫を出ていくアレンはシルヴァーナのコックピットに乗るネオンからも、見えていた。
『アレンが大声を上げていましたね』
「何か閃いた、暫くは部屋に籠るだろうから、ご飯は届けてあげないといけない」
『嬉しそうですね』
「そう?」
『はい』
「んー、アレンが生き生きしてる時の顔が好きだからかも。何かを作ってる時のアレンは銀河一かっこいいから」
『相変わらずネオンは、アレンにベタ惚れなのですね』
「うん、それはシルヴィが一番よく知ってるでしょ?」
『ええ、そうですね』
シルヴァーナの戦闘支援AIであるシルヴィと、寝食以外の時間をほとんど、シルヴァーナのコックピットで過ごすネオンが共に過ごした時間は、とても長い。
付き合いの長さだけで言えば、アレンよりも長い。
だからシルヴィはネオンのことをなんでも知っている。
『話は変わりますが"蜘蛛の巣"について詳しく調べました』
「聞かせて」
『中型戦闘艦、七機の小型戦闘艇が主な戦力です』
戦力自体は大したことはない、シルヴァーナであれば五分で殲滅できる。
しかしシルヴィが持ってきた情報には問題がある。
「それは古い情報だよね?」
『その通りです、星間企業の幹部の私兵であればゴールドランクの傭兵団とは思えない強力な武装や船を持っていたとしても不思議ではありません』
「そうだね、逃げる船を追う想定しているのなら船の足を止める兵器を用意しているかもしれない」
『EMP兵器や重力場生成装置などでしょうか?』
どちらも船の航行を阻害する強力な兵器だ。
「戦術兵器を持ってるとは考えにくいけど、想定はしておくべき」
『どちらがあってもシルヴァーナなら問題ありませんが、エルカノやカルラ、ジーベックには対抗手段がありません』
「その時はこっちがやられる前に敵を殲滅するしかない、他の可能性はある?」
『"蜘蛛の巣"にはケイトの端末にマルウェアを仕込んだハッカーがいるので、ハッキング魚雷を使った破壊工作を行ってくる可能性があります』
「ハッキングか、アレンがいるし問題ないと思う」
『ウィザード級ハッカーが相手でも大丈夫なのですか?』
「アレン自身がウィザード級ハッカーだから大丈夫」
『そうなのですか?』
「あれ、シルヴィは知らない?、アレンが降格処分の上に前線送りになった理由」
『兵器開発技術局に大損害を与えた疑いで処分を受けたと聞きました』
「アレンから詳細は聞いた?」
『いいえ』
「アレンは兵器開発技術局のデータサーバーを攻撃して、破壊したの」
『破壊、ですか』
「うん、破壊、物理的に、ハッキングで」
『それはウィザード級ハッカーですね』
シルヴィにはどうやってもハッキングで、データサーバーを物理的に破壊する方法が思いつかない。
まるで御伽噺の魔法使いのようなことを起こせるから、畏怖と尊敬を込めてウィザード級ハッカーと呼ばれるのだ。
「おまけにシルヴァーナの開発データを完全消去して、軍部の偉い人達の機密情報を流出させたりした」
汚濁にまみれた者たちの機密情報は、見るに堪えなかったとアレンが言っていたのを思い出す。
『…何故アレンは五体満足で生きているのですか?』
それほどまでの事を起こしたのにもかかわらず、アレンが生きていることがシルヴィには驚きだった。
「それはアレンがハッキングしたって証拠がなかったのと、アレンが自分が死んだらもっと多くの機密情報を流出させるって脅したから」
『証拠がなかったのにバレたのですか?』
「アレン自身が犯行予告をしたからね」
『ーーー』
呆れてものも言えないとはこの事かとシルヴィは思った。
『どうしてそのような真似を?』
「馬鹿で能無しのクズ共は想像力に欠けるから、誰がそんなことをしたのか、教えてあげないといけなかったってアレンは言ってた」
全ては自分のためだと、前線で再会して強引に聞き出した時にアレンは語ってくれたが、それが、シルヴァーナと自分のためであったことに、後から気付いたのだ。
「話が脱線したけど、ハッキングについてはどんなハッカーが相手でも大丈夫」
『承知しました』
「私たちがやることはジーベックを絶対に守ること、そしてジーベックを害する敵を殲滅すること、そのためにできることは全てやる」
『はい』
一人と一機の戦闘支援AIは、詳細な戦闘計画を話し合うのだった。




