二十三話 作戦会議
ジーベックの星間通信設備を使って、父親であるオーベル・エルフォードと通信したケイトが部屋から出てきた。
「結論から言うと、父は政敵のレビック・ノーベライと次の上級理事長の席を巡って争ってるのだそうだよ」
レビック・ノーベライ、エグロンカンパニーの上級理事の一人にして、営業販売部門のトップを務める人物。
さらっと検索エンジンで調べると、そんな情報が出てきた。
「父曰く私を狙ってる誘拐犯グループは、レビック子飼いの私兵団"蜘蛛の巣"だそうだよ」
「エレン」
『お調べします、"蜘蛛の巣"は中規模傭兵団で、直近の活動実績は不明ですが団長のタロンはゴールドランクです』
「ありがとう、エレン。ひとまず敵が誰かは分かったな、それで父親はなんて?」
「もし捕まったら助けないといけないから絶対に捕まるなとさ」
「相変わらず言葉選びが下手くそな御仁でござる」
「ケイトの父親がドライなのは置いておくとして、目的地がリノレスIなのは変わりないのか?」
「うん、父のせいで私個人の予定を変更したくない」
「一応聞いておくけどそれは拉致される危険性と釣り合うものなのか?」
「そうだね、申し訳ないけど本社に用事があるんだよね」
「分かった、リオン、話し合おうか」
アレンは、リオンとケイトを、リラクゼーションルームに案内する。
リラクゼーションルームにて、全員が集まった。
「始める前に、一つ言わないといけないことがある。俺たちスターリングは、エレンのボディを搬入するために七日待たないといけないんだ。それをケイトには承知してもらいたい」
「それは構わないけど、ジーベックの船内は安全なのかな?」
「セキュリティは万全だ、ネズミ一匹通す余地はない。そこは安心してくれ。というかジーベックに滞在するつもりなのか?」
「うん、私の輸送艦は"蜘蛛の巣"に知られているだろうし、ジーベックにいる方が安全だと思う、リオンはどう思う?」
「団長のアレン殿が了承してくれるならお願いしたいでござるが、七日というのは正直に言うと長い、多少でも短縮する事はできぬのでござるか?」
「聞いてみるよ」
アレンは、先方に連絡を取る。
その間に、ネオンが話を進める。
「ジーベックに乗るなら、ブリッジと格納庫に入らないことは了承してもらう。部屋は用意するよ、個室は無理かもだけど」
「感謝する、ネオン殿、ほら、ケイト殿も」
「うん、ありがとう、ネオン」
「別に私は何もしないから、気にしないでいい」
「リオン、先方と話したら追加料金を払ったら三日に短縮してくれるそうだ」
「その料金は私が払おう」
ケイトが声をあげる、アレンは目を丸くする。
「いいのか?」
「こちらの都合で発生した料金だからね、それに私はあまりお金を使わないから、今回は良い機会だ、請求額を送ってくれ」
「おう、分かった」
アレンとしては異存はないので、ケイトとお金のやり取りを済ませて、先方に振り込む。
「アレン、二人の部屋を用意する」
「分かった、それは俺がやるから、ネオンはリオンと話し合ってリノレスIまでの航路計画を立ててくれ」
「ん、分かった」
ネオンは、リラクゼーションテーブルを操作して立体の星間地図を表示する。
星間地図には、三つの航路が投影される。
「最短の航路でもジーベックのハイパードライブだとリノレスIまで二週間は掛かる、リオンが安全に護衛対象を送り届けるならどうする?」
「迷わず最短の航路を選ぶと言いたいところでござるが、おそらく"蜘蛛の巣"の戦闘艦が待ち構えておろう。某であれば多少のリスクを承知で、この航路を選ぶ」
リオンが選んだのは、三つの航路のうち最も時間がかかる航路であった。
「この航路を選んだ理由は?」
「一番選ぶ確率が低いからでござる」
確かに早く送り届けたいのであれば、時間がかかる航路を選ぶのは、理にかなっていない。
そういう意味で、この航路が一番敵艦が待ち伏せている可能性が低いのだ。
「分かった、それじゃあこの航路に決めた。ゼナは何かある?」
「護衛対象はシルヴァーナに乗せた方がいいと思うんだが」
「えぇ」
「そこまで露骨に嫌そうな顔をするなよ、それにこの提案はネオン自身が最初にしたんだぞ」
「それはやむにやまれずの話」
「うちの傭兵団でシルヴァーナのコックピットが一番安全だろ、補助座席もあるし」
「あれはアレン専用」
「我儘を言うなよ、依頼のためならアレンだって許してくれるだろ」
「ダメ、絶対に嫌」
「やけに頑なだな」
理性ではなく感情で話す人間を説得するのは至難の業だ、そういう時はちょうどよく戻ってきた親しい人に任せればいい。
「二人の部屋の準備ができたぞ」
「ありがとう、アレン」
「忝ない」
「女性の身の回りのことは、ネオンとゼナに聞いてくれ」
「アレン、もし敵艦に襲われた時、護衛対象のケイト女史はシルヴァーナのコックピットに乗せた方がいいと思うんだがどうだ?」
「案としては一考の価値ありだけど、ネオンが嫌がることはしたくないな」
「アレン!、大好き!」
「はいはい、ありがとう。真面目な話をすると仮にもシルヴァーナはネオン専用機だから、ケイトのように何の訓練も受けていない一般人を乗せるのはリスクがある」
アレンも技術者上がりだが、前線に送られるとなった際に軍事訓練を受けている。
その記憶は思い出したくもないが、シルヴァーナは仮にも戦闘用のARMSなので、戦闘状態では無茶苦茶な航行をすることがあり、シルヴァーナの慣性制御システムといえど一般人のケイトにかかるG《重力》や衝撃の影響は無視できない。
「だから戦闘するシルヴァーナに乗せるのは無しだな」
「確かに、意味不明な動きするもんな」
アレンの理にかなった説明に、ゼナは納得する。
「流石にジーベックが航行不能になったら、乗せるんだよな?」
「依頼主を守るのが仕事だからな、リスクには目を瞑るしかない。ネオンもそれだけは我慢して欲しい」
「私はそこまで狭量じゃない、アレンが良いなら我慢する」
「ありがとう、ネオン」
「うん、エレンは何かある?」
《ケイトとリオンが乗っていた輸送艦はどうするのですか?》
「そこが問題だね、まさか港に放置するわけにもいかないし、かと言ってジーベックに曳航してもらうわけにはいかない」
「選択肢としては二つある、格安でジャンク屋に売り払うか、航行速度を犠牲にして曳航するかだな」
「前者はともかく後者は無しだね。うん、命には変えられないし、修理をキャンセルして格安で売り払うことにするよ」
あらかたの方針が決まったところで、リラクゼーションルームの作戦会議は終了となった。




