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二十二話 ケイトの身分とマルウェア

「で?」


高速鉄道トラムに乗り移動したアレンは、宇宙港に停泊したケイトの輸送艦の格納庫にて、ケイトに視線を向ける。


お互いの護衛は、一足一刀の間合いに入らないように距離を取りつつ、お互いの様子をつぶさに観察していた。


「正直なことを言うと、私も詳しい事情は知らないんだ。けれど原因に思い当たる節はある」

「それって?」

「私の父はエグロンカンパニーの上級理事の一人なんだよ、名前はオーベル・エルフォード、宙域ネットワークで調べればすぐに分かるよ」


オーベル・エルフォード、星間企業エグロンカンパニーの理事会に所属する上級理事の一人で、エグロンカンパニーの製品開発部門を牛耳る大物。


妻は既に他界し、娘が一人いる。


検索エンジンで名前を検索すると、そんな情報が出てきた。


「ケイトがエグロンカンパニーのお偉いさんの娘?」

「そうだよ、何を隠そう私もエグロンカンパニーの社員だ」


ケイトが携帯端末を操作し、表示させて見せたのはエグロンカンパニーの社員証だった。


社員証にはケイト・エルフォード、エグロンプライムコロニー所属、主席研究員と書かれていた。


エグロンカンパニーほどの巨大企業の主席研究員なんぞをやっているのならお金持ちであることも大いに合点がいく。


「ケイトが、エグロンカンパニーのお偉いさんの一人娘なのは分かった」


それならば先程の誘拐未遂は、身代金目的の誘拐ということになるが、そう考えるには一つおかしい点がある。


「ケイトたちの自作自演じゃないのなら、食事に薬を盛ったのは誘拐犯ということになる、とてもじゃないけど偶発的な誘拐とは思えない」


それだ、食事に毒が盛られたということはあの店の店員も誘拐犯のグルだということになる。


「そうなると今回の誘拐は、身代金が目的ではなくケイト殿を人質にしようとしているのかもしれぬ」

「人質?」


誰に対しての人質なのかは考えるまでもない。


「父か」

「まず間違いないでござろう」


「父親に連絡を取る事はできないのか?」

「この輸送艦には星間通信設備がないから難しいね」


「そうか」

「済まないね、君たちを巻き込んでしまって」

「謝罪は受け取るよ、ただまるっきりケイトのせいというわけでもないから、それ以上は謝らないでくれ」

「そう言ってくれると助かるよ」


どうやら好奇心に支配されている時は暴走しがちだが、そうではない時はキチンと持ち合わせた常識を発揮できるみたいだ。


「リオン、これからどうする?」

「まずはこのコロニーから脱出することでござろう。先の店に薬が混入されたことを踏まえると、このコロニーで安全な場所は少ないでござる」


「あの店はどうやって貸切に?」

「それはもちろん、端末で連絡して」

「アレン、ケイトの端末を解析して、マルウェアが仕込まれてるかも」

「何?」


ネオンの指摘に驚いたアレンは、ケイトに目を向ける。


「俺は機械の専門家だ、端末を貸してくれないか?」

「いいよ、好きにしてくれ」

「ありがとう」


ケイトの端末を受け取ったアレンは、自分の端末からコードを伸ばして接続する。


「ネオンの読み通りだ、この端末はマルウェアに感染してる」

「やっぱり」


アレンは、ケイトの端末に自作のウイルス除去ソフトをインストールして、起動する。


「マルウェアは除去したぞ」

「ありがとう、アレン。いつの間に感染したんだろう」

「今の時代、スタンドアローン状態でもなければハッキングしてマルウェアを仕込むのはそう難しいことじゃない。セキリュティを強化するべきだな」


「アレン、そのマルウェアに追跡機能は?」

「それはない、あくまでこの端末の情報をリアルタイムで送信していだけだ。送信先の追跡は流石にここでは難しいな」


「いずれにせよ、ケイトを誘拐しようとしてる連中の中にそれなりに腕の経つハッカーがいる、それだけは間違いない」


「うむ、やはり一刻でも早くコロニーを脱するべきでござるな、ケイト殿、修理の手配は?」

「既に修理の手配はしたけど、連絡は来てないね」


「やっぱり父に連絡を取るべきだね、二人共星間通信設備を貸してくれないか?」


ジーベックのような中型輸送艦であれば、星間通信設備が常備されているのが普通で、実際にジーベックにはその設備がある。


「構わないけど、その後はどうするんだ?」

「リオンの言う通りコロニーを脱出するしかない。そういうわけで君たち"スターリング"を私の護衛として雇いたい」


傭兵管理機構マセナリーを通して依頼してくれ、指名依頼って仕組みがあったはずだから、それでブロンズランクの傭兵団スターリングを指名してくれ」

「護衛の依頼を受けてくれるって認識でいいのかな?」


「仲間と相談するが、受けると考えてくれ、その代わり報酬は要相談だ」

「分かった、依頼内容はリノレスIまでの護衛だ、リノレスIは元々私の目的地だし、エグロンカンパニーの本社があるから、誘拐犯たちもおいそれと手を出せない」


依頼内容を確認し、四人は通信を行うために、ジーベックに移動する。


道すがらアレンは、ゼナとエレンの二人に、護衛依頼の件を説明した。


『やっぱりそういう話になったか。護衛依頼は初めてだろ?、自信はあるのか?』

『シルヴァーナと私が居るから、どんな状況になってもケイトだけならリノレスIまで送り届けられる』


『それはそうだが、ネオンはジーベックを捨てられないだろ。護衛依頼は宙賊討伐のように単純じゃないし、半分関わってるとはいえリスクは高いぞ』


ケイトを狙うのはマルウェアを仕込むハッキング技術に、コロニーに人員を配置したり、毒を食事に盛ったりと、只者の誘拐犯グループではない。


ゼナの懸念は至極当然で、アレンも頷く。


『ですが星間企業であるエグロンカンパニーの上級理事と縁を結べる可能性を簡単に放棄するのはどうかと』


エレンの意見は、アレンとネオンが一級市民権と惑星居住権を目指していることに、起因していた。


『星間企業は国家にも影響力がありますし、リスクを犯す価値はあるのではないでしょうか』

『下手するとお抱えの傭兵団と戦う可能性があるんだ、よく考えて判断しろよ』


二人はアレンに最終決定を任せた。


『報酬次第で、受諾するかを決める』



「スターリングが報酬として要求するのは、通常の報酬金とジーベックの改修するための口利きだ」

「口利き?、それはエグロンカンパニーへのっての意味かな?」


「そうだ、ケイトの父親は製品開発部門のトップなんだろ?、ジーベックの改修には金を掛けるつもりだから良いパーツが欲しい」

「なるほど、分かった。それくらいは了承させてみせるよ」


「よし、それじゃあケイトの護衛依頼は受けた」

「よろしく頼むよ」


アレンとケイトは握手を交わした。

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