二十一話 誘拐未遂
ケイトが送ってきた位置情報を元に、移動したスターリングの面々が通りを渡ると、テラス席にケイトとリオンの二人が座っていた。
「どうして他の客が一人もいないのですか?」
「私が貸し切りにさせてもらったからだよ。アレンと話をするのに邪魔だと思ってね」
お金持ちはいちいちやることが豪快だなと、思いながら、アレンは席に座り、ネオンとゼナも席に座る。
クモ形ロボットのエレンはテーブルの上に置かせてもらう。
「改めて、私はケイト・エルフォードだ、友好を深める意味でも是非呼び捨てで頼む、敬語もいらないよ」
「リオン・リベラート、先刻も申した通りケイト殿の護衛にて候」
二人が再び名乗り、こちらも名乗り返すが、アレンには一つ気になったことがあった。
ケイトではなくリオン・リベラートの容姿についてだ。
彼女の頭には獣の耳のような三角の耳が二つ生えていた。
これは連邦でも、共和国でも滅多に見かけない、帝国の支配する星域に住まう獣族の特徴だ。
耳の形から察するに彼女は、狐人か、狸人のどちらかだろう、色合い的に狐人だろうか。
「アレン?」
「いや、リオンさんの容姿が気になって、申し訳ない」
「おお、連邦では某のような種族の人間は少ないのでござろう?、お気に召されるな」
「ありがとう」
テーブルには既にいくつかの料理が並んでおり、アレンたちは各々手を伸ばす。
「アレン、早速話そうじゃないか。まずはあの青い粒子についてだ」
「その前に貴女は俺たちに何をしてくれるんだ?」
「ああ、それを忘れたね。私は研究者で医者だ、この身分でできることなら何でもするよ」
「何でも?」
「何でもだ、私には価値がある。君の知識と比肩する価値がね、アレンもそう思ったから、こうして私と話をしてくれるのだろう?」
「否定はしない、狭い船内で専門的な知識と技術を持つ医者は貴重だ。それに…」
「それに?」
「あんたの研究者としての知見が欲しい」
「…なるほどね、やはり私は君にとって価値のある存在のようだ」
嬉しそうに笑うケイトに、アレンは目を逸らす。
彼女の思惑が成功したことを疎ましく思ったわけではない、自分の弱みを他人に見せてしまった後ろめたさからだ。
「私はアレンから見聞きした情報の全てを他言しないと誓おう」
「ただの口約束だろ」
「もちろんだ、ただし君からの信用という担保を取っているから、全くの無意味というわけではないよ」
「そういう考え方もあるか」
ケイトはお金持ちの医者だけあって、物事の見方がアレンとは違う。
「それより教えてくれるかな」
爛々と輝く好奇心の瞳に感化されたわけではないが、知見を得るには話す他ない。
「君が見た青色の粒子の名称は、エルトロン粒子だ」
「エルトロン粒子、初めて聞く固有名詞だ」
「どこにも発表されてないから初めて聞くのは当然だ」
「エルトロン粒子の特性は色々だが、推進剤に変換できたり、耐熱や耐衝撃用のバリアを作れたりと、ARMSのエネルギー源としては最適だ」
「それだけを聞くと確かに最適だね」
「シルヴァーナはエルトロン粒子を半永久的に生成するエルトロンジェネレーターを搭載した第九世代ARMSだ」
「ええ?」
「信じられないって顔だな」
「そんなことはないけど、驚いているだけさ。半永久的に稼働するARMSか、まさに夢のような兵器だ、君が話すのを厭うわけだ」
半永久的に動く兵器、それによって何が齎されるのか、ケイトには容易に想像できる。
「当然応用方法も頭の中にあるのだろう?」
「さてな、俺はエルトロンジェネレーターを搭載したARMSをもっと造りたいだけだ」
「それは何故?」
「俺の夢だからだ。俺はそのために生きてる」
理想のARMSを造ることがアレン・リードが生きる理由の一つだ。
「至極単純明快だね、私は嫌いじゃないよ。君の悩みは新しいARMSを造れないことかな?」
「正確にはそのイメージが湧いてこない。理想《頭の中》と現実《図面》のすり合わせができない」
「ARMSの知識が皆無な生物学者のアドバイスがどれだけ役に立つかは知らないけど、君は人型に拘りすぎてるんじゃないかな」
「人型」
「うん、生物の形というのは多種多様だ、あらゆる生命が環境に適応するべく最適な進化を遂げる。発想を飛躍させてみるべきだね」
「発想の飛躍か」
考え込むアレンの肩をちょんちょんと、ネオンが叩く。
「考え事の邪魔をしてごめん、アレンはこの食べ物、食べない方がいいよ」
「どうしてだ?」
「薬が混ざってるから」
驚いたアレンは、思わずケイトに目線を向けるが、リオンからの耳打ちを受けて彼女も驚いていた。
「ケイト殿、ここは危険でござる、今すぐに…」
リオンが声を上げた時、通りに三台のビークルが停車し、男たちが飛び出してくる。
驚くアレンとケイト、そして男たちが持つテーザー銃に反応したネオンとリオンは、レーザー銃を抜こうとしたゼナよりも、速く椅子を倒して立ち上がる。
ネオンは人造強化人間としての異次元の瞬発力、そしてリオンは生来の優れた反射神経により為せたことだ。
二人はほぼ同時にテーブルに置かれた料理の皿を男たちに投げつける。
男たちは驚き、しゃがんで避ける。
「奥の女を狙え!、護衛は無力化しろ!」
ビークルの中から指示の声が響き、男たちはネオンとリオンに向かって、テーザー銃を放つ。
結果は同じ、二人の手元から剣刃が閃き、飛んできた電磁針を斬り落とす。
「「「!?」」」
「ぐぎゃあ」
あまりにも人間離れした二人の行為に、男たちは動揺し、その一人をレーザー銃が撃ち抜く。
「お主ら、ケイト殿の身柄を狙うというのなら容赦はせぬぞ!」
裂帛の声を上げたリオンに、目が集まった瞬間ネオンはアレンを守るように移動する。
「うぉ!?」
アレンは慌ててエレンが入るクモ形ロボットを掴み、テーブルの下に入る。
男たちの視線が二人に集まった瞬間、リオンの姿が掻き消える。
否、正確には跳躍して、柵を飛び越えただけだが、その一連の行動が速すぎて、彼らの脳は処理しきれなかっただけだ。
二人の男のテーザー銃を持つ手がリオンの剣により、切り飛ばされる。
掌底を連続で打ち込み、二人を無力化する。
リオンは、バックジャンプで、ケイトの元に戻る。
「ケイト殿、ご無事か?」
「大丈夫だよ」
「アレン?」
「大丈夫だ」
アレンはテーブルの下から顔を出す。
「私の心配は?」
「ゼナは必要ない」
「そうかよ!」
「ぐわぁ!?」
ビークルの中にいた男をゼナは無力化した。
「こいつらは何者だ?、一応殺さないでおいたけど」
「ケイト殿を誘拐しようとする下手人共と思ってくれれば」
「誘拐?」
穏やかではない単語に、ゼナは唇を曲げる。
「ひとまず移動せねば、皆はどうする?」
「どうするって、ここで二人と別れて逃げれば無関係を貫き通せるのか?」
「それは無理だと思う、私とゼナは戦ってしまった。思いっきりケイトの護衛に見えた」
「ーー」
ネオンはアレンを守るため、ゼナは自衛の為に行動しただけなので、アレンは何も言わない。
「もう巻き込まれたのなら仕方ない、船に戻るのか?」
「うむ、このコロニーで確実に安全と言える場所はそこだけでござる」
「分かった、一緒に行こう」
「待て、アレン。私とエレンはジーベックに戻った方がいい。その方が臨機応変に動ける」
ゼナの提案にネオンに目を向けたアレンは、彼女が頷いたので了承した。
気絶した男たちとビークルを残して、アレンたちはその場から、逃亡した。




