二十五話 第九世代ARMS
ネオンの言う通り、案の定アレンは、二十四時間が経っても自室から出てこなかった。
「こういうことってよくあるのか?」
「うん」
ゼナの問いにネオンは、頷く。
「私も研究室に籠ることはあるけど、二十四時間も出てこないのは逆にすごいね」
「某としては健康の心配をするでござる」
《ネオン》
「大丈夫、皆は閃いた時のアレンを知らないだけ。こういう時のアレンは、終わるまで部屋から出てこないし、話しかけても生返事しかしないから」
「飯は食べさせたのか?」
「うん、それは万全、慣れてるから」
《生返事しかしないのに、どうやって食べさせるのですか?》
「ご飯を持って部屋に入って、適当なところに置けばアレンは勝手に食べる」
「生存本能はしっかりしてるのな」
心配してる面々を宥めていると、通知音がして、ネオンは、腕時計型の端末をタッチする。
『ネオン、ゼナとリオンを俺の部屋に呼んでくれないか?』
『アレン、私では不満?』
『ネオンの事は大好きだよ』
『嬉しいけど、文字じゃなくて言葉で伝えてくれると嬉しい』
『努力する、女性と話したいわけじゃなくて、設計図に関してゼナとリオンの意見を聞きたい』
『二人のARMSの設計図を描いてるの?』
『パイロットの想定は二人だ』
『分かった』
「ゼナ、リオン、アレンが二人を呼んでる」
「なんの用で?」
「今描いている設計図に二人の意見が欲しいって」
「そういう話なら助けてやるか」
「某が役に立つかは分からぬが」
「ネオン、私も行っていいかな?」
「アレンに聞いてみる」
『ケイトが行きたいって言ってる』
『別に構わないけど、信用してるからって言っておいてくれ』
『おーけー』
「アレンは信用してるから構わないって」
「絶対に口外しないと約束するよ」
「うん、そうして、もしアレンを裏切ったら斬るから」
サラリと言うことではないのだが、ケイトは深く頷いた。
《ネオン、私も行きたいです》
「エレンはいいよ」
アレンのことをご主人様と呼ぶエレンのことは信用しているネオンだった。
◆◆◆◆
アレンの部屋は、元艦長室ということもあり、他の部屋より一回り広く、その内装はジーベックを鹵獲した時とは、様変わりしている。
部屋が広いお陰で、大人数で押し掛けても手狭になることはない。
「皆来たのか、まぁ、いいか。ゼナとリオンに聞きたいことがあるんだ、先にリオン」
アレンは、全員が来たことに驚いたが、すぐに目的の一人のリオンに話しかける。
「うむ、聞きたいこととは?」
「これ、ARMSの設計図の原案なんだけど…」
アレンがホロキーボードを叩くと、3Dホログラムが立ち上がり、複数枚の設計図がアレンの部屋中に浮かび上がる。
「こ、これは…」
「ーーー」
《ーーー》
唖然という表現が似合うほど、リオン、ゼナ、エレンの三人は、言葉を失った。
三人は圧倒されていた、この設計図に描かれている部品一つ一つが、彼女たちの常識を超えていた。
自然と第九世代という単語が、三人の脳裏を過ぎる。
ゼナとリオンは経験で、エレンはネットワーク学習で、最新鋭機である第八世代ARMSを知っているが、この設計図に描かれているARMSは、第八世代ARMSとは比べることすらおこがましい差が存在している。
「驚きすぎじゃないか?」
「ちょっとでもARMSの知識があれば、驚くと思う」
「そうか?」
「アレン、全くARMSのことが分からない私でもこの設計図のARMSがとんでもないと分かるレベルだよ」
「まぁ、こいつらはエルトロンジェネレーターを搭載する前提の機体だからな」
アレンはさらにホロキーボードを操作し、もう一機のARMSの設計図を3Dホログラムで表示させる。
「おいおい、待てよ、アレン、この機体は…!」
「想定してるパイロットはお前だ、ゼナ」
遠距離射撃戦闘特化型ARMS、機体名"レヴィーヴァ"
「そんでこっちはリオンが乗る想定だな」
「某が…」
近距離格闘戦特化型ARMS、機体名"ソルレア"
"レヴィーヴァ"と"ソルレア"、この二機の設計図をアレンは、部屋に引きこもって引いていたのである。
「それで話の続きなんだがリオンは量子脳波を使えるだろ」
「量子脳波?」
「超人的な反応速度を生む思念波のことをそう呼んでる」
「ふむ、”心速”のことでござろうか、”心速”を使えばアレン殿の言うようなことはできる」
「多分それだ」
「良く気付いた、”心速”は傍目には使ったかどうか分らぬであろう」
「それは…」
アレンはネオンに目を向け、彼女が頷いたので、気づいた理由を話した。
「ネオンと同時に動いたから、なるほど、ネオン殿、貴殿は使えるのでござるな、”心速”を」
「うん、私たちは量子脳波って呼んでる。私はいわゆるデザインベイビーだから、それを先天的に使えるようにデザインされた」
「デザインベイビーだったのか」
「うん」
《少し納得した部分もあります、貴女の容姿は完璧過ぎます、機械知性の私が言うのもあれですが作り物ならば納得です》
ゼナやリオン、ケイトたちも美人と呼ばれる容姿の持ち主だが、ネオンの容姿は隔絶していると言っても過言ではないのだ。
「ネオン、君は今幸せかな?」
「勿論、あとは家があれば完璧」
「それなら私からは何も言わないよ」
ケイトは遺伝子工学や生物学の専門とする研究者なこともあり、デザインベイビーであるネオンに何か思うところがあったのかもしれない。
「話を戻すと、"ソルレア"は量子脳波を使うことにより、従来のARMSを越える運動性能を発揮することができる、リオンに聞きたいのはこの機体に乗れるかってことだ」
アレンが作るARMSに付きまとう問題、それはパイロットがいないこと、乗ることができるパイロットがいなければ、どれほど優れたARMSでも、何の価値もない。
「もしこのARMSが目の前にあり、乗れる機会があれば某は迷わず乗ると答える」
「本当か!、それならカルラの戦闘データを貰えないか?、より精度を上げたい」
「すぐに用意するでござる」
リオンは手早く、端末を操作して、戦闘データを送ってくれた。
「ありがとう」
「お安い御用」
「ゼナに聞きたいのは"レヴィーヴァ"の武装についてだ」
「武装、こいつは人型じゃないよな?」
「ああ、"レヴィーヴァ"は四脚のARMSだ、可変機構を搭載しているから基本形態は飛行形態で、火力を出したい時は人型の砲撃形態に形態を変える、この時の武装がビームショットガンか、ビームバズーカのどっちがいいのか、ゼナの意見を聞きたい」
「長距離射撃用レールガンは分かるけど、荷電粒子砲二門に八連垂直ミサイルポッドって基本形態でもとんでもない火力だな」
「一応フリゲート艦なら単騎で沈めれる火力は搭載したつもりだ」
「一応ってお前、一機のARMSが持っていい火力じゃないぞ。ビームショットガンとビームバズーカの二択ならビームバズーカだ」
「分かった、それで設計させてもらう」
アレンはモニターに向き直り、真剣な表情でホロキーボードを叩き、ホログラムの設計図に触れて、描き足し始める。
作業が始まったので、四人は部屋から出ていく。
「ケイト殿、あの二機のARMSは傑作でござる」
「ARMSの歴史に残るな、間違いなく」
「エレンも二人と同じ意見なのかな?」
《はい、エルトロンジェネレーターの運用を前提としたウルトラテクノロジーの産物ではありますが。ソルレア用にアレン様が発明した新しい機体フレームは、世の中に出せる代物ですね》
「なるほどね、第九世代のARMSを生み出す銀河で唯一の男か」
ケイトの頭の中で、アレンの持つ技術力をエグロンカンパニーにもたらす方法を考え始めるのだった。




