ティーブレイク
「とりあえず、休憩しましょう。ティーブレイク♪」
ライセが指をパチンと弾く。
何もない白い空間が美しい庭園に代わり、晴れ渡った空に色とりどりの蝶と鳥が羽ばたいた。
「これはいったい……外に出たの?」
「いいえ。ずっとここにいましたよ」
鳥たちの鳴き声が遠くに聞こえ、足元には白や黄の羽を持つ蝶がふわふわ舞っている。
ライセに向きなおると、二人の間には猫足のテーブルと一人掛けの椅子二脚があった。
テーブルにはティーセットと数種類の焼き菓子がのっている。
「一緒にヌン活しましょ♪」
「ぬんかつ?」
お茶会という意味か。
(体の感覚がないのに?)
再び指弾きの音が聞こえた瞬間、カテリーナは体の重みを感じてその場にしゃがみ込む。
「美味しくいただけるよう、体の感覚を付与しました」
「……私、生きているの?」
「いいえ。お亡くなりです」
突然戻った肉体の感覚で、一気に現実感が増した。
ツバを飲み込む感覚が懐かしいほどリアルで、肺に空気が入る感覚もある。
カテリーナは椅子の背に手をかけて立ち上がると、そのまま倒れ込むように腰かけた。
柔らかい感触が背中と尻に心地良い。
(なんだか気が抜けたわ……)
ぼんやりとテーブルの上を眺めていると、金属で作られた四角い焜炉があらわれた。
底に敷かれた炭が砂を熱している。
ライセは小さな銅鍋を2つ、その砂に浅く埋めた。
「今、紅茶をお淹れしますね。茶葉をミルクで煮出すと、美味しいミルクティーができるのですよ♪」
「それはコーヒーを淹れる道具よ。ヴェネツィアに住んでいたとき使っていたわ」
「紅茶を淹れるのにも便利ですよ。一杯分を手軽に作れますから。生前の私はもっぱらコレでした」
ライセは紅茶をティーカップに注ぎ、毒見役よろしく飲んでみせる。
毒は入っていないようだ。
「ん~♪ おいし~ぃ」
(もし毒が入っていたら……? 本当に今の私が死んでいるなら、死なないはずよね? でも、体の感覚があるから、やっぱり死ぬのかしら???)
カテリーナは、おずおずとティーカップに手を伸ばした。
お茶の温もりがじわじわと指先に広がっていく。
一口飲むと口内から胃袋の底まで温もり、気持ちまで温かく満たされた気がした。
「よかったらこちらもどうぞ。バナナのパウンドケーキとチャイチーズケーキでぇす。あ、スコーンもありますよぉ。口の中の水分を根こそぎ奪うやつ♪」
「……いただくわ」
甘い菓子はさほど好まないカテリーナだが、修道女になってから一度も口にしていない。
たとえ毒が入っていようが食べたい。
そう望む目と舌と胃に逆らえず、おそるおそる口に運ぶ。
(……美味しい)
滋味あふれる味わいだ。
のんびりとお茶を喫するのは何年ぶりか。カテリーナが貴族令嬢として暮らしていた頃は日常だったのに。
(味覚も、お腹にたまる感覚もあるわ。いったいどういう理屈なの?!)
納得いく説明がほしいが、これが死ぬ前に見る夢ならどうでもいいことだ。
「お口にあって良かったです。私、生前もお茶を飲むのが大好きで、今も時々仲良しの存在たちとお茶会しています。ああ……自分の前世と茶ぁしばくの楽しいわ。めっちゃ嬉しい♪ ……失礼。つい、昔の口調が」
陽気で軽やか、そして妙な抑揚のある訛り。
ライセが生きた国の民はこんな話し方をするようだ。
思い起こせば、丁寧な口調は最初だけだった。
すぐに今のような言葉遣い……俗に言う “タメぐち” 混じりの言葉に変わった。
修道女になる前なら不快に思っただろう。
カテリーナも敬語をやめた。
次回 「そもそも、魂とは何ぞや……?」




