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ウィーンの歌姫は来世の自分と共謀して邪教祖を断罪する ~魂の管理人 人生を書き直す1789年の復讐~  作者: チャイ猫


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ティーブレイク


「とりあえず、休憩しましょう。ティーブレイク♪」  


 ライセが指をパチンと弾(はじ)く。

 何もない白い空間が美しい庭園に代わり、晴れ渡った空に色とりどりの蝶と鳥が羽ばたいた。


「これはいったい……外に出たの?」

「いいえ。ずっとここにいましたよ」


 鳥たちの鳴き声が遠くに聞こえ、足元には白や黄の羽を持つ蝶がふわふわ舞っている。


 ライセに向きなおると、二人の間には猫足のテーブルと一人掛けの椅子(いす)二脚があった。

 テーブルにはティーセットと数種類の焼き菓子がのっている。


「一緒にヌン活しましょ♪」

「ぬんかつ?」


 お茶会という意味か。


(体の感覚がないのに?)


 再び指弾きの音が聞こえた瞬間、カテリーナは体の重みを感じてその場にしゃがみ込む。


「美味(おい)しくいただけるよう、体の感覚を付与(ふよ)しました」

「……私、生きているの?」

「いいえ。お亡くなりです」


 突然戻った肉体の感覚で、一気に現実感が増した。

 ツバを飲み込む感覚が懐かしいほどリアルで、肺に空気が入る感覚もある。


 カテリーナは椅子の背に手をかけて立ち上がると、そのまま倒れ込むように腰かけた。

 柔らかい感触が背中と尻に心地良い。


(なんだか気が抜けたわ……)


 ぼんやりとテーブルの上を眺(なが)めていると、金属で作られた四角い焜炉(こんろ)があらわれた。

 底に敷かれた炭が砂を熱している。


 ライセは小さな銅鍋を2つ、その砂に浅く埋めた。


「今、紅茶をお淹れしますね。茶葉をミルクで煮出すと、美味しいミルクティーができるのですよ♪」

「それはコーヒーを淹(い)れる道具よ。ヴェネツィアに住んでいたとき使っていたわ」

「紅茶を淹れるのにも便利ですよ。一杯分を手軽に作れますから。生前の私はもっぱらコレでした」


 ライセは紅茶をティーカップに注ぎ、毒見役(どくみやく)よろしく飲んでみせる。


 毒は入っていないようだ。


「ん~♪ おいし~ぃ」


(もし毒が入っていたら……? 本当に今の私が死んでいるなら、死なないはずよね? でも、体の感覚があるから、やっぱり死ぬのかしら???)


 カテリーナは、おずおずとティーカップに手を伸ばした。

 お茶の温もりがじわじわと指先に広がっていく。

 一口飲むと口内から胃袋の底まで温もり、気持ちまで温かく満たされた気がした。


「よかったらこちらもどうぞ。バナナのパウンドケーキとチャイチーズケーキでぇす。あ、スコーンもありますよぉ。口の中の水分を根こそぎ奪うやつ♪」

「……いただくわ」


 甘い菓子はさほど好まないカテリーナだが、修道女になってから一度も口にしていない。

 たとえ毒が入っていようが食べたい。

 そう望む目と舌と胃に逆らえず、おそるおそる口に運ぶ。


(……美味しい)


 滋味(じみ)あふれる味わいだ。

 のんびりとお茶を喫(きっ)するのは何年ぶりか。カテリーナが貴族令嬢として暮らしていた頃は日常だったのに。 


(味覚(みかく)も、お腹にたまる感覚もあるわ。いったいどういう理屈なの?!)


 納得いく説明がほしいが、これが死ぬ前に見る夢ならどうでもいいことだ。



「お口にあって良かったです。私、生前(せいぜん)もお茶を飲むのが大好きで、今も時々仲良しの存在たちとお茶会しています。ああ……自分の前世と茶ぁしばくの楽しいわ。めっちゃ嬉しい♪ ……失礼。つい、昔の口調が」


 陽気で軽やか、そして妙な抑揚(よくよう)のある訛(なま)り。

 ライセが生きた国の民はこんな話し方をするようだ。


 思い起こせば、丁寧な口調は最初だけだった。

 すぐに今のような言葉遣い……俗に言う “タメぐち” 混じりの言葉に変わった。

 修道女になる前なら不快に思っただろう。


 カテリーナも敬語をやめた。 

次回 「そもそも、魂とは何ぞや……?」

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