第一幕 第二場 魂の管理人
“魂の管理人 ライセ”
ライセから手渡された紙片……草花の文様で縁どられた名刺にそう書かれている。
こんな物を渡す必要があったのか、甚だ疑問だ。
(魂の管理人? 日本? 未来に生まれ変わった私があなた?!)
復讐と人生を書き直す手伝いをすると言ったが、何か裏があるに違いない。
カテリーナはライセの言動すべてをアラさがしすると決めた。
「そんな話は信じません。本当は別の目的があって、私を騙すつもりでしょう?」
「いいえ。そんなこといたしません」
「詐欺師もそう言うでしょうね。私を利用して何をするつもり?」
「……実は、あなたには信じ難い話でしょうが……この魂だけの世界と肉体を持つ人間世界の調和を図るために、あなたの人生を書き直したいのです」
話のスケールが大きくなった。
これが妄想なら、なかなかどうして、カテリーナは劇作家になれるのではないか?
「ライセさん。時間を巻き戻すなんて、不可能よ」
「巻き戻すのではなく、上演し終えた劇の途中……物語の分岐点となる場面から演じ直すようなもので……。
いくつも枝わかれした人生の道を選びなおし、魂の記憶を上書きするのですが……
言葉で表現するのは難しいですねぇ。
あなたが持つ言葉のイメージは私のそれと全く同じではないので、異なる解釈をなさるかもしれませんし」
「小難しいことを言わず、私にわかるよう一つずつ説明してくだされば良いの」
「承知しました。順を追って説明させていただきます」
「何と言って騙すつもりか、とくと聞かせていただくわ」
(どんなホラ話をされても、私は絶対に騙されないわよ!)
“来世”
東方の国々の死生観で、人は死んでも別の人間に生まれ変わるという。
それは、さまざまな立場の人生をすべて経験しつくすまで続くらしい。
(異教徒の考えることは面白いけれど、自虐が過ぎるのではなくて?)
途方もない与太話だ。
ただでさえ人生は苦難に満ちている。何度も生まれ変わって苦しめと言うのか?
カテリーナはライセを睨んだ。
「どうせ騙すなら、もっとマシな嘘になさい」
「嘘じゃありませんよぅ。私、魂の管理人になってからは一度も嘘をついていませんから」
「それこそ嘘でしょう」
「嘘じゃないもん。方便だもん! ……方便っていうのも違うか。失礼しました。私は嘘と、話してはいけないことは声に出せないのです」
「そんな都合良い話、あるわけがない」
「あるんですぅ」
真偽はどうあれ、他人の思想や言動を疑問も持たず信じこむのは、愚の極み。
だからマリアに騙された。
まずは、すべてを疑え!
もはやそれは、カテリーナの信念だ。
気持ちを落ち着かせようと深呼吸したが、やはり空気が喉を通って肺に入る感覚がない。
今の状態が妄想や幻覚でないなら、ライセの言うとおり魂だけがここにいるのだろうか?
「ここは魂だけが来られる場所……つまり、神が作ったのですか?」
「あなた方の神と無関係ではないですが……。すみません。さきほど申し上げたとおり、話してはならないことに抵触するため、お教えできません」
「ああ、そう。でも、神のような存在や組織があるということですね?」
「そう位置づければ、あなたは理解しやすいかと」
なんとも歯切れが悪い。
(疲れたわ。夢なら早く覚めてほしい)
魂も疲労するのだろうか?
(私、今どういう状況なの? 私、これからどうなるの?)




