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ウィーンの歌姫は来世の自分と共謀して邪教祖を断罪する ~魂の管理人 人生を書き直す1789年の復讐~  作者: チャイ猫


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第一幕  第二場  魂の管理人

 “魂の管理人 ライセ”


 ライセから手渡された紙片……草花の文様(もんよう)で縁(ふち)どられた名刺(めいし)にそう書かれている。

 こんな物を渡す必要があったのか、甚(はなは)だ疑問だ。



(魂の管理人? 日本? 未来に生まれ変わった私があなた?!)



 復讐と人生を書き直す手伝いをすると言ったが、何か裏があるに違いない。

 カテリーナはライセの言動すべてをアラさがしすると決めた。


「そんな話は信じません。本当は別の目的があって、私を騙すつもりでしょう?」

「いいえ。そんなこといたしません」

「詐欺師もそう言うでしょうね。私を利用して何をするつもり?」  



「……実は、あなたには信じ難(がた)い話でしょうが……この魂だけの世界と肉体を持つ人間世界の調和を図(はか)るために、あなたの人生を書き直したいのです」  


 

 話のスケールが大きくなった。


 これが妄想なら、なかなかどうして、カテリーナは劇作家になれるのではないか?



「ライセさん。時間を巻き戻すなんて、不可能よ」


「巻き戻すのではなく、上演し終えた劇の途中……物語の分岐点(ぶんきてん)となる場面から演じ直すようなもので……。

 いくつも枝わかれした人生の道を選びなおし、魂の記憶を上書きするのですが……

 言葉で表現するのは難しいですねぇ。

 あなたが持つ言葉のイメージは私のそれと全く同じではないので、異なる解釈をなさるかもしれませんし」 


「小難(こむずか)しいことを言わず、私にわかるよう一つずつ説明してくだされば良いの」


「承知しました。順を追って説明させていただきます」


「何と言って騙すつもりか、とくと聞かせていただくわ」


(どんなホラ話をされても、私は絶対に騙されないわよ!)



 “来世(らいせ)”

 

 東方の国々の死生観(しせいかん)で、人は死んでも別の人間に生まれ変わるという。

 それは、さまざまな立場の人生をすべて経験しつくすまで続くらしい。


(異教徒(いきょうと)の考えることは面白いけれど、自虐(じぎゃく)が過ぎるのではなくて?) 


 途方もない与太話(よたばなし)だ。

 ただでさえ人生は苦難に満ちている。何度も生まれ変わって苦しめと言うのか? 


 カテリーナはライセを睨んだ。


「どうせ騙すなら、もっとマシな嘘になさい」


「嘘じゃありませんよぅ。私、魂の管理人になってからは一度も嘘をついていませんから」


「それこそ嘘でしょう」


「嘘じゃないもん。方便(ほうべん)だもん! ……方便っていうのも違うか。失礼しました。私は嘘と、話してはいけないことは声に出せないのです」


「そんな都合(つごう)良い話、あるわけがない」


「あるんですぅ」


 真偽はどうあれ、他人の思想や言動を疑問も持たず信じこむのは、愚(ぐ)の極(きわ)み。


 だからマリアに騙された。


 まずは、すべてを疑え! 

 もはやそれは、カテリーナの信念だ。


 気持ちを落ち着かせようと深呼吸したが、やはり空気が喉を通って肺に入る感覚がない。

 今の状態が妄想や幻覚でないなら、ライセの言うとおり魂だけがここにいるのだろうか?



「ここは魂だけが来られる場所……つまり、神が作ったのですか?」 


「あなた方の神と無関係ではないですが……。すみません。さきほど申し上げたとおり、話してはならないことに抵触(ていしょく)するため、お教えできません」


「ああ、そう。でも、神のような存在や組織があるということですね?」


「そう位置づければ、あなたは理解しやすいかと」

 

 なんとも歯切れが悪い。


(疲れたわ。夢なら早く覚めてほしい)


 魂も疲労するのだろうか?


(私、今どういう状況なの? 私、これからどうなるの?)


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