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ウィーンの歌姫は来世の自分と共謀して邪教祖を断罪する ~魂の管理人 人生を書き直す1789年の復讐~  作者: チャイ猫


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ライセ

(どうして私をここに連れて来たのかしら?)


 魂を奪うのが目的なら悪魔だが、謎の女は人間だと言う。


「自己紹介させていただきます」


 カテリーナの懸念(けねん)をよそに、謎の女性は小さな紙片(しへん)を両手で差し出した。


 “魂の管理人 ライセ” と書かれている。 



「はじめまして。ライセと申します。便宜上、あなたにはそう名乗らせていただきますね」

「ライセ……さん?」


「はい。それでですね……実は私、約200年後の未来に生まれ変わった、あなたなのです」


「……はぁ?」


 意味不明すぎて、カテリーナには知らない外国語に聞こえた。


「できればドイツ語かイタリア語で話してくださる? 得意ではないけれど、フランス語でもよくてよ?」

「ここは言語に関係なく意思疎通(そつう)できますが」

「私は今、ドイツ語で話しているわ」

「あなたの認識はそうですが、今こうしてお話しできているので問題ないです」



 先ほどから何を言っているのか。

 話が見えない。

 

 魂の管理人ライセと名乗った女性は、とまどうカテリーナをよそに何か考え込んでいる。


「そうだった。キリスト教徒には輪廻転生(りんねてんしょう)の概念(がいねん)がない。どう説明するかなぁ」



 数秒後、カテリーナの目の前に両手を左右に広げたほどの幅を持つ額縁が現れた。


 高さは大人の背丈ほどで、窓のように遠くの街並みを映している。

 景色はだんだん小さくなり、はるか高みから山河を見おろしているかのようだ。


(これはいったい何? 王宮が、シュテファン寺院が……ドナウ川も! 街並みがどんどん小さくなっていくわ。鳥になって空を飛んでいるみたい……)


 そして、その動きが止まった時、額縁の中に大きな大陸と海が見えた。


(これは地図? お父様の書斎にある地球儀に似ているわ)


 山河の形まで立体的で、作り物には見えない。

 しかも、各国の領土が一目でわかるよう線引きと色分けで示され、国名と主要都市も記載されている。



「説明しよう!」


 ライセは手にした細長い棒で地図を指し示した。


 景色が地面に近づき、カテリーナが良く知るウィーンの街並みを映す。


「あなたが暮らしたウィーンは、ここです」

「あれはシェーンブルン宮殿だわ。ライセさん。この額縁の向こうはウィーンなの?」

「はい。でも、街を映しただけなので行き来できません」

「魔法の鏡なの?! この場所と地続きに見えるわ」


 ライセは映像を元の全体図に戻し、右端の小さな島を示す。



「今から約200年後の未来に、あなたはこの島国……東の果てにある “日本” という国に生まれ変わります。今のあなたとは別の人格と人生を生きた人間に。それが、この私でぇっす♪」



 語尾に音符(おんぷ)が見えた気がする。

 

 ちょっと待って。何を言っているのかわからないわ。


 そう口をはさむ間もなく、ライセは説明を続ける。



「日本は、あなたが暮らした国々では “ヤーパン” とか “ジャッポーネ” という名で知られているのでご存じのはず。それに、ここはかつて “黄金の国ジパング” と呼ばれた国ですよ」


「ヴェネツィア商人の旅行記の? たしか、教皇(きょうこう)の手紙を遠い東の国の皇帝に届けたとか。もう五百年も前の話だわ」

「はい。マルコ・ポーロの『東方見聞録(とうほうけんぶんろく)』ですね」


 その話を耳にしたのは、カテリーナがヴェネツィア共和国(きょうわこく)に住んでいた時だ。

 

 それはともかく、生まれ変わり? 魂の管理人? そんな戯言をカテリーナは信じない。



「というわけで、未来の時代に生まれ変わったカテリーナさんが私なので、私のことは来世…… “ライセ” と呼んでくださいね♪ どうぞ、よろしくお願いいたします。私の前世、カテリーナさん」


 ライセは深々とお辞儀(じぎ)し、人(ひと)懐(なつ)こい笑顔を見せた。


「ライセ? 来世?!」



「はい。それで、もしよろしければ……あなたの復讐と、人生を書き直すお手伝いをいたします」



 ライセはそう言うと、カテリーナが生まれてから今この瞬間まで一度も想像したことすらない、不思議で信じがたい話を続けた。



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