悪役令嬢みたい
「もしかして、今私が何を考えているか……わかるの?」
「おおよそのことは。明確な言葉ではなく、あなたのとまどい、不安、期待など、感情がダイレクトに伝わってきます」
「今まで私が何をどう感じて生きていたか、すべて知っているのね?」
「そうです。このことも後でお話しするつもりでしたが……。すみません。心の中を知られるのは嫌だし、怖いでしょう?」
ライセは申し訳なさそうに黙りこむ。
業務上知り得る秘密とはいえ、これが一番の負い目だろう。
心の中は聖域だ。誰にも言えない秘密を隠す。
時には自分にさえ知られぬよう鍵をかける場所。
その秘め事を誰かに知られた時、死を選ぶ者さえいるのだ。心を読む者が自分の側にいるなど、普通なら耐え難い。
だが、カテリーナは怯まなかった。
「私は平気よ」
カテリーナは貴族令嬢だった頃を再び思い浮かべた。魂だけの世界だから一瞬で衣装を変えられる。
閉じた扇の先をライセに向け、断言した。
「復讐のためなら私の何を見られても恥ずかしくないし、あなたにどう思われても構わない。どんな私だって、全部隠さず見せてあげるわ!」
今さらですものと、開き直った。
「私たちの利害は一致している。私は、書き直し人生でマリアを断罪するわ。このまま泣き寝入りなんて、絶対にあり得ない!」
マリアたちのせいで失われた幸せを取りもどす。
何がなんでも幸せな人生をおくってやるのだと、カテリーナは決意した。
「ライセさん。お互いの目的を果たすために協力しあいましょう」
「ふあぁ……なんか、悪役令嬢みたいでカッコいい」
ライセは勇者を讃えるような眼差しでカテリーナを見つめた。
「そうこなくっちゃ♪ あなたの魂は本来とてもパワフルですからねぇ」
そう言って、愉快げに口元をほころばせる。
「安心してください。お風呂とかのぞきませんから。もし何か見聞きしても、魂だけの存在の私にとって人間のいとなみは、肉体があるなら当然よね~って感覚ですし」
「魂の管理人だからそう思うの?」
「それもありますがね。自分が生きていた頃を思えば、人間って良くも悪くもこんなもんよね~って感じですぅ」
納得しかけたが、カテリーナは自分の感覚や物事の捉え方が少しずつ麻痺していくのに気付いた。
自分の心を守るため、無理やりこの状況に適応しようとしている。
ライセはそれもお見通しだろう。
「感情が筒抜けなら嘘をつけないわね。つくつもりもないけれど」
「あなたは他人に嘘をつけない人ですよ。罪悪感で苦しむから。でもぉ、自分にはたくさん嘘ついてきましたねぇ」
その言葉が妙に腑に落ちる。
「そのとおりね。マリアに騙されていた時がそうだったわ。彼女の言動に違和感や不信感が芽生えていたのに、気のせいだと自分に無理やり思い込ませたの」
そして、何事もマリアの言う通りにした。
(あの頃の私は、マリアの言うことがこの世で一番正しいと信じていたから……)




