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ウィーンの歌姫は来世の自分と共謀して邪教祖を断罪する ~魂の管理人 人生を書き直す1789年の復讐~  作者: チャイ猫


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3つの提案


 意識を取り戻したカテリーナは元の白い空間にいた。

 寝間着姿でベッドに横たわっている。

 

 ライセは初めて会った時と同じ黒い衣装で傍らに座り、心配そうにカテリーナをのぞきこんでいた。


「大丈夫ですか?」


「また同じ人生になるかも……。私を苦しめた人たちと出会って、つらい思いをするの? また火あぶりに? ……怖い」


 カテリーナは何をするにも要領が悪い。気の利いた会話や気遣いも苦手だ。

 だから他人に侮られ、損な役まわりになる。


 そんな経験が積み重なり、自分で自分を否定する癖がついたせいで、なにひとつ自分に自信が持てないのだ。


「しばらく魂を眠らせ、気持ちが落ち着いてからにしましょうか?」


「そうすれば、炎が怖くなくなる?」


「多少はね。でも、火は生活に身近なもの。いずれ克服しないと」


「……それなら、今すぐ始めるわ。苦しみが長引くほうが嫌よ」


 恐怖心より復讐心にせかされた。


「そうは言っても心の傷を癒す時間は必要ですねぇ……。こうしては?」



 ライセの提案は3つ。


 いずれも無理なく出来る範囲でおこなう前提だ。


 ① お試しの日の翌日から書き直し人生をはじめる

 ② ウィーンに帰る6年後までに心の傷を可能な限り癒す

 ③ ②と同時進行で人生を書き直す対策(主にマリアへの対処方法)を練る


 

 カテリーナは同意したが、先行きが見えない状況に気が滅入る。


「とりあえず、お茶飲も? お菓子もあるよぉ」


 リラックスさせようと、ライセがヌン活セットを出す。


 ここに来てから飲み食いしたお茶とお菓子だけでなく、好物のシュニッツェル(カツレツ)とオレンジジュースもあった。


(何から何まで不思議だわ。この白い空間ではどんな願いも叶いそうね)


 だが、肉体を持つ現実世界では思い通りにならないことだらけだ。



「ライセさん。マリアが心底反省して謝罪しても、やむを得ない事情があったとしても、私は絶対にマリアを許さないわ。許すという選択肢じたい初めから存在しないの」 


「それで良いと思います。誰かが許してやれよって言っても、あなたが許せないなら許さなくていいですよ。私があなたなら、許す機会を永遠に与えません」


「私がこの手でマリアに復讐したいのよ!」


 ライセは困り顔を見せた。


「それやっちゃうと、魂世界では喧嘩両成敗になります。被害者も加害者側になるのですよぅ。カテリーナさん。これ以上マリアのせいで不幸になるのは嫌でしょう? だから、正攻法で復讐を」


「そんな方法、思いつかないわ」


「一緒にみつけていきましょう」


(でも、マリアに出会ったら恐怖で何もできないかもしれない。想像するだけで逃げ出したいもの)


「怖い気持ちも理解できます。マリアと出会わない可能性はゼロじゃないけど、きっと出会うでしょうねぇ。人生を邪魔されぬよう、知識と味方になる人を増やして備えるしか……」


 まるでカテリーナの心を読んだかのようにライセは言った。

 そんなことが何度もあった気がする。


「でも、人の生き死には変えられないでしょうに」


「基本的に、マリアのせいで生じた予定外の出会いや死、悪影響は修正可能です。最初の婚約者フェリクスさんとかね。

 でも、初めて出会う人も含め、マリアに関わった誰かに害を与えられる可能性もあって……。

 なにせ今回は多数の魂が参加しているので、相互作用で何が起こるか……」 


「マリアの悪影響を取り除けば、フェリクス様は死なずにすむのね?」


「よほどのことがなければ……きっと、おそらく、たぶん、そうかなぁと」


 ライセは推量の言葉を並べ、自信なげに言った。



「フェリクス様はね、エリーザベト叔母様が息子同然に思っていた方なの」


 叔母の亡夫の親戚がフェリクスだ。

 彼はオスマン帝国との戦争に従軍したが、戦地でマラリヤに罹患して19歳で亡くなった。


 婚約が決まったのは従軍中だったから、カテリーナは一度も会っていない。


 だが、彼を描いた細密画(細かい線と色で緻密に描かれた小さな絵画)を見せられた時、若い娘らしく心ときめかせた。


 ヘイゼル色の瞳と陽光に煌めく麦穂のような金髪を持つ、優しそうな青年。

 きっと幸せになれると夢想し、毎日眺めては無事を祈ったものだ。


 その細密画はもうない。

 彼の死を知らされた日、叔母に返した。



「フェリクス様が戦争に行かなければ、あの恥知らずの二人目の婚約者と出会わずにすむわね。ああ、名前も思いだしたくないわ!」


 二人目の婚約者は常にカテリーナを見下し、暴言を浴びせた。

 憂さ晴らしに使用人を鞭打ち、飼い犬を撃ち殺す、幼稚で性根の歪んだ男。


(ミリヤムの持参金に目が眩んだ彼に婚約を破棄された時、どれほど嬉しかったか!)


「その二人目もマリアの悪影響。んで、ミリヤムは、あなたのモノを奪いたかっただけ」


「ミリヤムのことまで知っているのね」


「はい。私は魂の管理人ですから」


 にっこり笑い、ライセはお茶をすすった。

次回 「違和感」

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