最も残酷な復讐方法とは、何ぞや?
「最大限苦しませる、残酷な復讐方法?!」
「その方法とは……」
カテリーナは、ごくりと喉をならした。
「今のあなたには、教えられません」
「どうして?!」
「自分への憐れみとマリアへの復讐心でいっぱいのあなたは、感情にまかせてその方法を選ぶでしょう?」
「当然よ。あの女が一番苦しむ方法で復讐しないと意味がないもの」
その気持ちもよくわかると前置きし、ライセは話し続ける。
「もし、あなたが書き直し人生を始めたら……様々な経験をし、多種多様な感情を知るでしょう。今までとは異なる世界線を生きるのです。
今まで見ることができなかったこと、見ようともしなかったことを目の当たりにし、肌で感じ、喜びと苦しみも……
そこから得られるものが何かも、身に染みて理解するでしょう」
「……だから?」
「今はまだピンとこないかもしれませんが、全ての感情は “愛” から生まれることにも気づくでしょう。書き直し人生には、想像以上の学びがある。そこから何を感じるか、見極めてほしいのですよ」
「それまで教えてくれないのね?」
「はい。いざ復讐のチャンスが来た時、何をどう思うか、マリアに何を求めるのか。そのためにどんな復讐をすべきか……。改めて考えていただきたいので」
「それでもきっと、私はその方法を選ぶでしょうね」
「私はあなたの選択を尊重します……。
人生を書き直すことで、マリアとの悪因縁や持って生まれた課題を学びきることができたら……
あなたの魂は素晴らしい成長を遂げるでしょう。
それは私とあなた、そしてこの魂CとDたちが最も喜び、祝福することです♪」
(私の魂の成長? そんなことより復讐を優先するわ)
今のカテリーナには、復讐しか考えられない。
「カテリーナさん。その時が来たら……その復讐方法をあなたに伝え、どうしたいか尋ねます」
「わかったわ。でも、人生を書き直すかどうかは……もう少し考えさせて。どちらにしろ、私はマリアを絶対に許さない。何らかのかたちで最大限効果的かつ残酷な復讐をするつもりよ」
「……それも良いでしょう」
ライセは意味深に微笑んだ。
「さて。どうされます? 人生の書き直しをされるならハッピーライフを得る可能性がありますよ? あなたが望むかどうかです。
望まなければバッドエンドのまま、ここで人生終了ですねぇ」
言っていることの重さに反比例する、底抜けに明るい声。
「もう一度確認するけど。あなたの提案を受け入れたら、私の未来が変わるのね?」
「はい。あなたの同意が必要ですが。でないと、私は何もできないので」
「私の未来が変わればマリアに復讐できるかもしれない。それに、魂世界と人間世界からマリアの悪影響を排除できるかもしれないのよね?」
「そうです。実を言うと、一番効率良く未来を変えられる位置にいるのが、カテリーナさんなのです。あなた抜きだと手間が何倍も増えるから、協力していただけると大変助かるのですが」
そう言われても、すぐに決められない。
「人生を書き直すなんて大変そう……。正直に言うわ。怖いの」
「ごもっとも。そんな方のために “お試しプラン” がございます♪ 実際にちょっとした修正を体験してから、お決めになっても大丈夫ですよ」
それが本当なら試す価値は大いにある。
だが、本当に、こんな都合良い話があるだろうか?
(もしかして、ライセは悪魔かも?)
だとしたら、代償に何を要求されるか分かったものではない。
「代わりに魂をよこせと?」
「いりません。もらってどうしろと?」
ライセは扇を振って否定する。
「だって……」
マリアは無償の愛の尊さを説いたが、強欲な悪人だった。
「私はあなたの来世ですよぉ? いわば姉妹みたいなもの。魂の根っこは同じ一つの存在なので、代償は不要です」
水臭いわねぇと、ライセは扇を振り振りしたが……
その数舜後、別人かと思うほど冷徹な声で言い切った。
「あなたがマリアに復讐するのは、私の本意でもあるので」
「それは、まさか……?」
ライセもマリアの被害者だとでも言うのか?
カテリーナがそう問う前に、ライセは左手の拳を振り上げ、息継ぎなく言い切った。
「ええ、そうなんですよ! 私の人生も、めっちゃ大変なことに!
正確には私の生きた時代に生まれ変わったマリアのせいですがねぇ。
今でも恨んでいますよ。いつか必ず復讐しますからぁっ!!!」
勢いあまって眼鏡がズレる。
恨み満載の気迫にカテリーナはおぞ気を感じ、何度目かの後ずさりをした。
「それはつまり……私は生まれ変わっても、マリアのせいで酷い目にあうということ?」
「そうですよ」
カテリーナの来世がライセなら、そうなる。
「失礼しました。つい感情的になって。とはいえ、私はこの魂Dたちを管理するお役目。その職掌のうちでしか復讐……いえ、協力できません。私怨での職権乱用はご法度ですので」
舌打ちが聞こえた。
「でも、あなたが復讐したいのはマリアではなく、マリアの来世の人物でしょうに」
よくぞ聞いてくれましたと、ライセは喜色満面に答える。
「前世と来世はとても密接に影響しあうのです。まずはマリアを何とかできれば、あなたの来世である私への悪影響を減らせるはず……?
いつか私が人生計画書を書き直す時、役に立つのですよ」
よくわからないが、そういう前提で理解を進めるしかなさそうだ。
「魂の世界にも法律があるのね」
独り言だったのに、ライセは眼鏡をかけ直しながら説明してくれた。
「人間世界の法律とは異なりますがね。魂の管理人は魂世界の法律に準拠して仕事します。違反すると即座に罰を受けるので、あなたに協力したくても出来ない時があるとご承知おきください」
その場合はごめんねと、ライセは愛嬌たっぷりでウインクし、口の端に舌をのぞかせた。
「あなたの話が嘘かもしれないのに、信じろと?」
「いえいえ。そこは遠慮せず、常に私の思考言動を疑い続けてください。今のあなたは誰も信頼できないでしょう? だから私を利用すればいい」
「そうは言っても……」
「利害が一致すれば共闘できます。罪悪感は一切ご無用♪」
「それで良いなら、前向きに話を聞くわ。でも、あなたのことをもう少し詳しく知りたいの。それを聞いた後で決めさせて」
「わかりました。もう少しだけ話が長くなりますが、ご容赦を。今、お話ししておいたほうが、後でお話しする他のことも理解しやすくなるので」
ライセは指をパチンと鳴らし、新しいお茶とお菓子をテーブルに出した。




