罪の清算とは、何ぞや?
答えを聞くまでのわずかな時間が、カテリーナにはとても長く感じられた。
「まずは、魂世界の裁判を受けるのです」
「それは、キリスト教徒の “最後の審判”(世界の終焉後に生前の行いを審判され、天国か地獄のどちらかへ魂の行先を決められるという信仰) なの?」
「ああ、なるほど。そう言えるかも???
……で、ほとんどの人は、その裁判で己の悪行を後悔します。
あんな酷いことやらかしちまって申し訳ねぇ。恥ずかしいよぅ。絶対に償わなきゃ! と、
罪悪感でいてもたってもいられないほど反省するという」
役者のように臨場感あふれるライセの説明を、カテリーナは食い入るように聞いている。
「なので、生まれ変わって罪を清算しようって話になるわけです。でもねぇ、犯した罪が大きすぎるから、それを払拭できるレベルの善行をつまなきゃいけない」
「どんなふうに?」
「絶対に善人になって、たくさんたくさん善行するぞ! するったらするぞぉ!! って、確固たる信念と物凄~い使命感を持って転生します。
そのために、自分の身を顧みず他者に尽くす……いわゆる “自己犠牲の人生” を選ぶことが多いですねぇ」
本当にそれが罪滅ぼしになるのだろうか?
カテリーナは納得できない。
「同等以上の苦しみとは思えないわ。被害者たちに直接償えないの?」
「諸事情あって難しいようで……。でも、罪を償うことが強迫観念のように加害者の潜在意識に埋め込まれているので、ただただ自分を蔑ろにする人生になる……。
自分で自分を責める状態をあえて作り、一生かけて償うのですよ」
加害者は償いの人生を生きるのだ。
「それって……誰よりも、自分自身が自分を許していないように思えるわ」
カテリーナの言葉に、ライセは「我が意を得たり!」とばかり膝を打った。
「だから、その一生で多くの善行を積んで積んで積みまくり、最終的に自分で自分を許せる境地に着地するのが目標になります」
それを “カルマ(善悪を問わず、自分の行いが自分に返るという因果法則)” の解消と呼ぶようです。
ライセはそう言い添え、説明を締めくくった。
被害者と同等の苦しみが加害者に返るわけではないが、両極端な人生をおくる苦しみはありそうだ。
(だからって、被害者は泣き寝入りも同然だわ!)
マリアが自己犠牲の人生をおくろうが、カテリーナには関係ない。
(どんな方法で復讐すれば、同等以上の苦しみを与えられるのかしら? それに……)
「ライセさん。私がどうやって復讐するかはともかく……人生を書き直すというのは、本来計画した人生を生きられるよう、マリアの悪影響を排除するという意味よね?
そうなれば私の魂の歪みや傷がすべて治って、魂世界と人間世界への悪影響も消えるの?」
「絶対そうなるとは断言できません。たくさんの魂が関わっていますから。その魂たちをサポートする存在たちもね。だから、相互作用でどんな未来になるか……現時点では不明なのです」
「復讐が成功するかどうかも、やってみないとわからないのね?」
「はい。他の管理人たちも、こんな大がかりな修正は初めてでして。
上の存在たちは、多少の越権行為は目をつぶってやるから、とにかく元凶のマリアを何とかしろと管理人たちに……
おっと、あぶない、あぶない。これ以上言っちゃダメだよね? セーフ?!」
誰かの反応を窺うようにライセは天を見上げ、数舜後に安堵のため息をついた。
「こんな話、信じられない……。夢なら早く覚めて」
カテリーナは思いっきり頬をつねる。
「もう少し気楽に考えては? 単純な話ですよ」
ライセは親指を立て、どや顔で言いきった。
「要は、私たちの利害は一致するのです!」
「つまり……利用しあうということ?」
「そうとも言う♪ 元々の人生計画書とまったく同じになりませんが、上手くいけばより良く、ダメな場合もそれなりに修正できるかと」
無責任な言いぐさである。
何にせよ、情報が足りない。
説明されていない言葉もある。
「“人生計画書” とは、どういうものなの?」
「それについては、後ほど説明させていただきます」
ライセは茶で喉を潤すと、さきほどの話の続きを語り始めた。
「蛇足ですが、罪を清算する方法は他にもありますよ。被害者が加害者を許した場合、あるいは加害者が被害者に償った場合は、加害者の罪が消えます。カルマにならないので生まれ変わって償う必要がありません。ご参考までに」
「それが何よ。たとえすべて償っても、私はマリアを絶対に許さないわ」
「そうですかぁ。だったら……これも言っちゃおうかなぁ」
ライセは声をひそめた。
「実はですねぇ……相手を最大限苦しませる、とても残酷な復讐方法があるのですよぉ」




