与太話にも、ほどがある
ライセは球Dのひとつを手に取った。
「魂Dたち一人一人は、肉体を持って生まれる前に “人生計画書” を書きます。
その計画内容は本人の自由意思のもと、生まれてからも随時変更可能ですが……。
魂の管理人の業務の一つに……
もし、魂Dたちの人生計画が外部の悪影響で予定外に物凄~く大きくはずれ、
なおかつ他者や時代に多大な悪影響を及ぼす可能性がある場合に限り、
必要に応じて軌道修正と、それに係る悪影響を予防及び排除するというのがありまして……
とはいえ、それも完全にはできませんがねぇ。
なにしろ、肉体を持つ人間の自由意思を最大限尊重するという決まりがあるので」
「それって……私の人生が予定より大きくはずれたから、あなたが修正しに来たということ?」
「ズバリそうです」
与太話にもほどがある。
「私が世界に悪影響を与えているの?」
「いいえ。あなたではなく、マリアです」
そこで一呼吸おき、ライセは話を続けた。
「なんと! マリアをこのまま放置すれば、過去、現在、未来……特に未来の世界に多大な悪影響を及ぼす可能性があるのですよ」
まるで役者や道化師のような身振りと口ぶり。
自分が発した言葉なのに、ライセは驚いた表情をしている。
「それほどの人物なの? あのマリアが?」
そうは見えない。
「マリアは小者ですがねぇ。このままマリアを野放しにした場合、その思想言動の悪影響を受けた者たち……その中に、未来の世界に強い影響力を持つ人物たちがいて、ヤバいことやらかす可能性があるのです。
それに、多くの魂がマリアの悪影響を受けたことも大問題なのですよぅ」
「どういうこと?」
「マリアの魂による悪影響が原因で……かなり多くの魂Dたちが直接的あるいは間接的に前世、現世、来世にわたり、魂に歪みや深い傷が生じました。
このままだとその悪影響で人間世界と魂世界の、ある種の均衡が崩れかねないのです」
「ある種の均衡って?」
「ごめんなさい。あなたと私が知っている言葉では表現できない内容が含まれるので、正しく説明する自信がありません。私も理解できていないので、割愛させていただきます」
ライセは先ほど、嘘とカテリーナに教えてはいけないことは声に出せないと言った。
そして、今の話だと、教えて良い話でも適切な言葉がなくて説明できない場合もあるということだ。
「でも、前世にまで悪影響があるなんておかしいわ。時間は過去から未来へ流れるものでしょう?」
「ごもっともな疑問ですねぇ」
ライセはお茶を一口すすった。
「魂だけの世界に時間の流れは関係なく、すべてのことは同時に起きているとも言えるのです。例えば、ローズカットなど多面体にカットされた宝石、一冊にまとめた歴史書や人名辞典みたいにね。この話も、折を見て詳しくお教えしますね。」
「同時に存在しているというの? そんなこと不可能よ」
「魂の世界ではそれが可能です。とりあえず、そういうものだと割り切っていただければと」
話が脱線すると本筋に戻りにくくなりますからと言い添え、ライセはお茶をもう一口すすった。
わかったような、わからないような例えだ。
「今はあなたの理解度にそって、この世界の仕組みや決まり事を少しずつお教えします。気長にいきましょう」
「私には理解できないかも。愚図で物覚えが悪いから」
「それは、あなたがそう思い込んでいるだけですよ。そう思い込まされる環境にいたからで」
「いいえ、私は……。ねえ。お茶のお代わりをいただける?」
カテリーナはわざと話をそらした。
時々、誰彼かまわず心のうちを聞いてもらいたい、いたわってほしいと望んでしまう。
その衝動にかられたが、グッとこらえた。
敵か味方かはっきりしないライセに個人情報を与えるのは危険だから。
(話してはだめよ。マリアのように優しいのは最初だけで、後からすべてを奪うつもりかもしれないわ)
付け入るすきを与えず、ライセの言動すべてを疑い続ける。
それがカテリーナの新たな処世術だ。
次回 「人生を書き直す、一大プロジェクト」




