医を査ね毒を見抜く(上)
そのことに思い至るや、諸葛亮の背にふっと一筋の涼気が走った。
彼が心を揺るがしたのを見て、機は熟したと知り、声を潜めて諸葛亮一人に聞こえるように言った。
「丞相、この場は騒ぎ立てるべきではありません。この者は久しく潜伏し、軍中に必ず共犯がおりましょう。追い詰めれば窮鼠猫を噛む、かえって面倒になります。」
「むしろ……まずこの薬を置いたまま、当分お飲みにならぬことです。私がこの薬の底意を細かく調べ、確かに怪しきところがなければ、その後でお飲みになれば遅くはありません。むやみに飲めば、藪をつついて蛇を出し、かえって黒幕の者に用心されます。」
諸葛亮ほどの人物、一言で悟る。彼は微かにうなずき、動じず、振り向いて老医官を見やり、平日の沈着を取り戻した口調で言った。
「そなた、起きよ。この者に悪意はない。いくばくか薬理に通じ、我が身を案じて口を滑らせただけじゃ。気にかけるでない。」
老医官は呆け、慌てて立ち上がり、伏し身を低くして言った。
「老いぼれ、恐れ入ります。」
「薬はここに置いていけ。」と諸葛亮は淡く言った。「わしは今、軍務に差し迫り、服する暇なし。後ほどいただくとしよう。さあ、下がれ。今日の脈診の件、他言無用じゃ。」
「は。」
老医官は心に疑いながらも逆らえず、ただ恭しく薬碗を傍らの低い机に置き、再度身を屈めて一礼し、ゆっくりと身を返し、後退りに帳の外へ出ていった。
だが身を返すその一瞬、彼の目尻の余光が、また陰冷に私を一瞥した。その一瞥には、満ちる殺意があった。
帳の戸がゆっくりと閉じた。老医官は丞相の帳を出ると、自らの陣幕へ急ぎ戻るでもなく、人目を避けた片隅へ折れ込み、月光を頼りに袖の中から小さな竹筒を取り出した。
「孔明、すでに薬を信じて服用。旬日の内に必ず命は風前の灯。」
数文字を慌ただしく認め、とっくに暗がりで待つ間者へ差し出した。彼が今何を考えているか、私はあまりによく分かる。彼の口元は抑えきれずに上がり、心中で冷笑する。この薬の毒は骨髄にまで入り、誰にも見抜けぬ。孔明は必ず死ぬ。司馬懿が約束した栄達、約束した家族の安泰、もはや指折り数えるばかり。彼は思った。この一局、勝ちは確実だと。
その医官の足音が完全に遠ざかり、秋風に呑み込まれるまで、帳内の二人はようやく同時に息をついた。諸葛亮の顔から平静が一瞬にして褪せ、代わって現れたのは重々しく冷たい色。彼は低い机の上にまだ湯気を立てる薬を見つめ、眼差しは氷のように冷たかった。
「この者……本当に、おかしいのか。」
私はゆっくりと身を起こし、なお全身がだるいながらも眼差しは鋭かった。
「十中八九、間違いありません。丞相、お考えを。この方の薬をお飲みになってから、どれほどになります。病状は日ごと良くなっているか、それとも日ごと重くなっているか。」
諸葛亮は沈黙。答えは言を俟たない。
「普通の医官であれば、たとえ腕が並でも、せいぜい対症療法が効かぬ程度。決して病人を一日ごと悪くするような真似はせぬ。」と声を沈めて言った。「彼の出す薬は、見かけは咳を鎮めるが、実は飲めば飲むほど虚しくし、身を少しずつ削る。日が経てば、油が尽き灯が枯れるというもの。」
「史書に記されました。丞相が病重き頃、司馬懿は幾度も人を遣わしてあなた様の食事起居、公私の繁簡を探らせました。その時あなた様は食少事煩の体。使者の報告を受けて、司馬懿は即座に『孔明は将に死せんとす』と断じました。もし軍中に誰かが絶えずあなた様の病状の詳細を外へ届けていなければ、魏営の遠くにいる司馬懿が、どうしてこれほど生々しく知り得たのでしょう。」
諸葛亮は全身でぴくりと震えた。この一件、彼の記憶に極めて深い。当時はただ魏軍の間者の普通の探りと思い、深くは考えなかった。今、私に点され、前後を繋げば、すべての疑いが一瞬にして鮮明になる。軍中、本当に司馬懿の者がいる。しかもこの者は彼の身近く、日々彼に薬を届けられ、彼の体調を的確に把握できるほど近いところに。
「わしが……油断した。」と諸葛亮は軽く嘆き、一寸の後怕を帯びて言った。「終日敵を算りながら、枕元の薬碗にまで殺機が潜んでいようとは、思いも寄らなんだ。」
「丞相、お責めになるな。」と私は言った。「この者は潜み極めて深く、まして医官の身分を盾に、名正しく言順にあなた様へ近づきました。どれほど慎重な人でも、防ぎようがありません。」
「目下肝要なのは、どうこの者を処し、および……その背後の眼線をどうするか。」諸葛亮は微かにうなずき、指先で寝台の縁を軽く叩き、深く考え込んだ。帳外は風の音が唸り、帳内は寂として声なし。彼は天秤にかけている。今この五丈原の対峙、蜀軍はもとより劣勢にあり、軍心は揺るぎやすい。むやみに医官が間者だと暴けば、必ず軍中の恐慌を招き、まさに司馬懿の思う壺だ。ましてこの者は多年潜伏し、軍中に必ず連絡する者がおる。一網打尽にできねば、ただ一人を討つだけ。それは藪をつついて蛇を出すようなもの、後の眼線はより深く隠れ、見つけ難くなる。
彼の懸念を見抜き、私はゆっくり口を開いた。
「丞相、私に一計があります。この者を安定させ動乱を起こさぬよう、かつ糸を循って追及し、彼の一味を皆抉り出し、なおかつ……これをもって司馬懿を惑わすことができます。」
諸葛亮は目を上げた。
「申してみよ。」
私は声を潜め、一字一句ゆっくり言った。
「将計就計。あの薬、我々は飲まぬ、砕きもせぬ、詰め寄りもせぬ。明日も相変わらず彼を召し、いつも通り薬を飲むふりをなさるがよい。ただ裏で薬を捨て、彼には依然として何も気づいていないと思わせ、警戒を緩めさせる。」
「第二歩、方を替えて命を保つ。私は後世のやり方に則り、あなた様に新たな療法を立てる。利尿による浮腫の軽減、強心剤による脈の守護、カリウム補給による内の養い、根底から心を押さえる。表向きは相変わらず彼に『薬を届けさせ』、彼には破綻が見えぬが、あなたが飲み込むのはすでに後世の処方。」
「第三歩、密かに監視する。丞相、直ちに命じて腹心の親衛に、この医官の一挙一動を密かに見張らせよ。誰と接触し、どこに足を留め、誰へ消息を渡すか、その一味すべてを洗い出し、記し留めて一網打尽になす。」
「第四歩、仮の芝居を本物にする。わざと風聞を漏らし、間者に『丞相の病勢いよいよ重く、薬は効かず、日ごと衰える』との偽報を司馬懿へ届けさせる。司馬懿、これを聞けば必ず大喜びし、警戒を緩め、ひいては敵を侮り深入りせんとする心さえ湧く。その折、我々は機に乗じて局を設け、逆に一太刀浴びせられよう。」
諸葛亮は聞けば聞くほど、目に輝きを増していった。彼が私を見る眼差しは、初めの審視と疑いから、本当の依頼へと変わっていた。
「王医官は薬が病を除けば孔明は必ず死ぬと思ったが、知るよしもない。彼が届けたあの毒入りの薬、わしが受け取って、魚を釣る餌にしたのだ。」と諸葛亮は低く笑い、眼底に一閃の鋭さを走らせた。「そなたたちの見ているもの、それこそわしが見せたかったもの。『日ごと衰える』丞相こそが、司馬懿の最も安心する丞相なのじゃ。奴め、笑うのは早過ぎた。」
彼の眼底のその神采を見る。それはもはや審視ではなく、ついに託すべき人に出会えた時、灯った光だった。
「よい! なんと将計就計、なんと仮の芝居を本物にしたか。」と諸葛亮は思わず軽く感嘆した。「弘正、そなたの才、謀略に劣らぬものよ。そなたの助けあらば、わしの胸中、ついに底が出来た。」
私は微かに身を屈めた。
「丞相、過分のお褒めにあずかり恐縮です。ただ力の及ぶ限り、丞相が天を逆にして命を改めさせんと助けるのみ。」
だが心中ではっきりしている。この一歩は、ただ危うくも第一の劫を避けただけ。薬碗の殺機は、ほんの始まりに過ぎぬ。軍中の楊儀と魏延の対立、朝中の荊州派と益州派のいびつな争い、後方の後主劉禅の日ごとに昏く弱る体、宦官黄皓の結託、これらが顔を出し始め、さらに東呉の孫権の揺れ動く姿勢、曹魏の司馬懿の虎視眈々……無数の危機が、一枚の大網のように五丈原の空に、蜀漢の空に覆い被さっている。そして私と諸葛亮は、その網の中で、無理やり一筋の活路を引き裂き出そうとしているのだ。
帳の外で、二人の随軍医官が寄り集まり小声で議論していた。
「王医官は徳高く望厚く、丞相に仕えて幾年にもなる。どうして毒など盛ろうか。」
「そうじゃ。あの外様の小僧、一介の素人がよくも軍の薬に口を挟むとは。丞相がよくも彼を信じられたものじゃ。」
「ふん、数日見ておれ。もし丞相の体が良くならねば、あの小僧がどう幕を閉じるかじゃ。」




