夜の対話、本音を明かす(下)
諸葛亮さえ死ねば、蜀軍は頭を失い、戦わずして自ら乱れる。北伐の大軍はたちまち瓦解し、蜀漢の北の門戸は大きく開かれ、曹魏を阻む力はもはやどこにもない。ゆえに司馬懿は、諸葛亮の死を早めるあらゆる機会を逃さなかった。
そして目の前のこの一碗の内服薬――それこそが、最も隠密で、最も気づかれにくい必殺の一手だった。
普通の間者が刃を手に刺し殺そうとすれば、成功率はきわめて低い。一度失敗すれば、かえって相手に警戒されるだけだ。だが医者の手を借り、長年薬に毒を混ぜれば話は別である。見かけは咳を鎮め喘ぎを抑える薬、実は少しずつ心臓を蝕んでいく。この種の慢性毒は日々積み重なり、付き添いの医官でさえ異常を見抜けぬ。
思えば思うほど、背筋が冷えていく。
史書に記された「諸葛亮、血を吐き止まず、日ごとに衰えた」という記述にも、もしやこの薬が陰で一役買っていたのではないか。薬の力で、もともと衰えきった心を死へ引きずり下ろしていたのではないか。
もしそうなら、先ほど諸葛亮に告げた「病状を抑え、命をつなぎ、北伐を続ける」という約束は、初手から致命的な壁にぶつかる。
私は動じぬ素振りで、わずかに首を傾け、薄暗い灯りを頼りに薬碗へ視線を落とした。手を上げて頭巾を正す。日々の張り詰めようは、頭の上にさえ少しの緩みも許さない。
薬の色は漆黒で濃く、湯気が立ち上り、匂いは重く、異常を覆い隠している。だが私は現代から来た者であり、かつて志願救護にも携わった。薬の性状と匂いには人並み外れて敏感である。身を屈めて薬液を眺めると、案の定、強い煎じ香の下に一抹の違和を嗅ぎ取った。色つやがいつもと違い、縁にあってはならぬ光る膜が浮いている。誰かが密かに何かを混ぜた証拠だ。
それに丞相の近頃の異状――脱力、嘔気、視界が黄色くかすむ――を合わせれば、私はほぼ断言できた。この薬は病を治すものではなく、慢性の毒であり、彼の心臓を少しずつ蝕んでいるのだと。
胸元を誰かに掴まれたように感じた。やはりおかしい。この薬は病を治すものではなく、命を急かすものだ。
諸葛亮が指先を上げ、今にも薬碗を受け取ろうとしていた。胸は焦るが、その場で暴くわけにはいかない。確証もなく、いきなり医者を間者だと叫べば、かえって警戒され、諸葛亮に「大げさに言って軍の士気を乱す」と疑われるのが落ちだ。
一瞬のうちに、私は思い切って咳を一つした。弱々しいが、帳内の死のような静けさを切り裂くには十分だった。
「ごほ……ごほっ……」
この一声は都合よく、長患いで体の弱い者の自然な反応にも見え、しかも二人の視線をこちらへ引き寄せた。
諸葛亮が動きを止め、振り向いて私を見る。眼差しがわずかに凝った。
その老医官もつられて目を上げ、視線を私に走らせたかと思うと、すぐに伏せた。だがその一瞬、彼の眼底に浮かんだわずかな驚きと警戒を、私は確かに捉えた。
心中で冷笑する。図星か。丞相の診療を任される医官が、丞相の帳に現れ、病床の名もなき小卒にこれほど敏感に反応するはずがない。陰で企みを抱き、自らの陰謀を見破られることを恐れる者だけが、見知らぬ異常な人間にこれほど敏感になる。ましてや、来歴の知れぬ者には。
私は弱々しく息を二つ吐き、嗄れた声で力なく諸葛亮へ言った。
「丞相……拙者……先ほど医官の方が、この薬は肺を潤し喘ぎを鎮めるものと申しておりましたが……」
諸葛亮ほどの知恵者なら、一瞬で私の言葉の裏を読む。
彼は表向き動じず、淡々と応じた。
「その通りじゃ。この頃咳が止まらぬゆえ、医官がこの処方を出し、日々服用しておる。」
私は軽くうなずき、眉をひそめて幾分の疑いを浮かべた。
「拙者……故郷にいた頃、長に従っていくばくか薬理を心得ておりました。この薬の匂いを聞くに、ありふれた処方とは似つかわしくない。むしろ心を害する成分が混ぜてあるようです。見かけは咳を鎮めるが、長く服めば心臓を衰えさせ、命を奪う。丞相はもとより虚弱、長服は恐らく……害のほうが勝るかと。」
この言葉に、老医官はほとんど察知できぬほど微かに身を震わせた。彼はぱっと顔を上げ、私を見つめ、目に初めて明らかな驚きを浮かべた。目の前のこの取るに足らぬ粗末な布衣の青年が、匂いだけで薬の性質を見抜いただと。あり得ぬ。
諸葛亮の目に鋭い光が一閃した。
彼は長年薬を服し、己の体の具合を誰より知っている。この頃、薬を飲めば咳は幾分収まるが、精神も気力も日を追うごとに衰え、食欲はますます落ち、夜は動悸で眠れぬ日々だった。その時はただ病が重く、薬も効かぬのだと思い、処方そのものを疑ったことはなかった。
今、私に指摘され、自らの感覚と照らし合わせれば、胸に一瞬にして寒気が走った。
「ほう。」諸葛亮は顔色を変えず、平淡に老医官を見やった。「この者の申すことは本当か。処方の中に、本当に毒性の成分が混じっておるのか。」
老医官は胸を締め付けられ、慌てて伏し拝み、地に額を着けた。
「丞、丞相、ご明察を! 老いぼれが医を業として数十年、どうして丞相の処方に手を加えられましょう。この方は老いぼれが古法に従い丹念に調えたもの。用いた薬は皆、咳を和らげ痰を切り息を鎮めるものばかり、毒性などございません。この若者はどこから湧いたか知りませぬが、ほんの端しか知らぬくせに、よくも軍医の処方に口を挟むとは。どうか丞相、ご未然のご判断を!」
彼は言葉巧みに、額を何度も地につけ、無実を訴える悲憤の体である。内情を知らぬ者なら、本当に欺かれるところだ。
心中で冷笑する。なんという逆手の一撃か。まず自らを被害者の立場に置き、次に私を医道に通じぬと貶め、軍情を妄りに論じたと咎め、最後にボールを諸葛亮へ蹴り返す。論理は綿密で隙がない。だが残念、相手は千年の彼方から来て全真相を知る私であり、まして人心を察するに敏い諸葛亮である。
私は慌てず、声は相変わらず弱々しいが、一言一句明瞭に言った。
「医官、お怒りになるな。私はあなたが故意に丞相を害そうとしていると申したのではない。ただ……薬を用いるは兵を用いるが如し。毫釐の違いが千里の誤りとなる。このジゴキシンは性質が烈しく、使い誤れば身を傷つけ、さらにカリウムを排出する薬と重ねれば、もとより虚弱な丞相の心には、鈍刀で肉を切るがごときもの。」
一息つき、老医官をまっすぐに見つめ、一字一句ゆっくりと言った。
「まして丞相は長年公務に身を削られておる。咳をただ押さえ込み、病根を覆い隠すようなことを最も忌むべきです。見かけは咳が減ったように見えて、実は身がますます削られ、日が経てば油が尽き、灯が枯れる。神仏も救い難い。」
老医官の顔色がわずかに青ざめ、唇を動かしたが、一瞬どう反論してよいか分からぬ様子。胸中の不安はますます深まる。この忽然と丞相の帳に現れた青年は、いったい何者なのか。
諸葛亮は静かに二人のやり取りを見つめ、眼底の色が移り変わった。彼は一生慎み深く、事あるごとに自ら行い、側にいる者は皆、幾重にも選び抜かれてきた。まして自らの飲食と医薬を預かる医官は、腹心中の腹心だった。だが私の言葉は、銀の針のように、彼がこれまで抱いてきた信頼をそっと刺し破った。彼は薬碗を見つめ、眼差しは深い。この頃、身が日ごとに衰えるのは、本当に天命ゆえか。それとも……側にはとっくに豹狼が潜み、日々彼の薬に密かに手を加えていたのか。もしそうなら、この五丈原の大営は、外に強敵、内に姦佞を抱える険地ではないか。最も親しい医官すら信じられぬとなれば、この軍の中に、いったい幾人の者が司馬懿の眼線なのか。




