密報を截獲(上)
密報を截獲(上)
魏延告退し、帳内再び精簡に帰す。
諸葛雲が更に一歩進み、声を低く幾分子。「丞相、軍師、なお一事あり。属下、楊儀の旧部、駅吏の往来を清查し、一樁甚だ蹊蹺なる事を査得せり――近三月内、軍前より発し成都へ発せし『加急密函』七封、正常なる駅館の逓伝を経ず、楊儀の心腹の私帯により、収件人ただ二字のみ:
『内侍』」
「内侍?」
諸葛亮の眉峰微かに蹙む。
内侍の二字、成都宮中に在りては、指向極めて明白――あの小黄門、黄皓なり。黄皓は深宮に位し、拳なく勇なし、されど専ら外臣の為に探聴し、宮中の消息を伝え、暗に軍前と通り、重臣を構陷せしは、既に通敵の明証なり。
伏筆正式に炸響の一線。
楊儀のこの線、果たして成都深宮に直通し、果たして黄皓と勾連せり。
史上、黄皓乱政し、専ら宮禁を擅にし、外臣と勾結し、暗に款曲を通じ、少しずつ蜀漢の根基を蛀み空にせしむ。今日のこの七封の密函、便是れ彼の通敵の鉄証なり。
「内容は知り得るか?」と諸葛亮の声は微かに沈む。
「全て焚毁せられ、一字も留存せず」と諸葛雲が言った。「されど送信の駅卒の私の交代によれば、楊儀毎度交代の時、ただ『事は丞相の安危、蜀中の大局に関わる、誤りあるべからず』とのみ言い、賞賜極めて厚く、封口極めて厳なり」
私はゆっくりと言った。「丞相、内容を見ずとも、七八分は推し量れましょう。要は三つ:
一、丞相の病情を偽報し、成都朝堂の不安を煽る。
二、軍中の大将を誣陷し、猜忌内乱を造る。
三、関中の虚実を伝え、日后黄皓が朝中にて北伐を掣肘する為の鋪路と為す」
かくの如き推断、諸将なお信服し得べし。されど軍中、成都には、別に一股の風声が暗暗と流動せり。
黄皓は遠く成都にあり、党羽は既に蜀軍と朝中に耳目を埋めたり。この数日、営中に竟に悄悄と一陣の閑話が伝出せり。暗溝の臭水の如く、縫あれば即ち鑽る:
「楊長史はただ瀆職舞弊のみ、何ぞ立斬に至らん。或いは人あり、機に乗じて異己を除かんとするに非ずや?」
「丞相病中、軍師一言九鼎、長史の死、冤情ありしや恐る」
「一人の来歴の知れぬ軍師、言の重きこと過ぎたり。丞相を救いしを恃みて、便ち諸将の上に凌駕せんとす?」
数名の不明の低層軍吏、成都よりの夫、本と最も風に倒れ易き者、この風を聞き、竟に亦として将信将疑と為り、私下に交頭接耳せり。一人の文書を管る掾吏は甚至撇嘴して言った。「我の言にては、長史のあの事、打ちて一頓すれば便ち可なり、何ぞ首を落すに至らん。軍師はこれ立威過ぎたり」傍らの数名の火頭軍も附和した。「然り、前方にて命を拼じ、後方にて却って自ら自家人を砍る」
簡単なる頭脳、最も人に牽引され易し。彼らは知らざりき、あの「瀆職舞弊」の四字は、正に我が故意に放出せし煙霧なるを。あの数句の閑話は、正に黄皓の党羽が精心に撒きし迷障なるを。
されど我は、既にこの一切を掌中に捏ねていた。五丈原に穿来せしより、我便ち暗に诸葛雲に授意し、駅路、成都往来の信使の中に眼線を安んじ、凡そ「内侍」の二字に涉る者は、一律に截留盤問せり。黄皓と楊儀の勾連せし七封の密函、尽く掌握の内にあり――我が布きしこの網、待ちしは、黄皓自ら按捺し得ず、爪牙を露わすの日なり。
諸葛亮は眼を閉じ、再び開けた時、一片の寒澈。「黄皓……」
彼は二遍念じ、その語気には既に圧し得ざる失望あり。
後主なお青年、この閹竖便ち既に結党営私し、暗に軍前と通り、重臣を構陷せんとし始めたり。早く除かざれば、必ず亡国の禍と成らん。
「丞相、此刻は動くべからず」と私は直ちに諫めた。「我ら遠く関中にあり、成都深宮の内、一挙一動皆黄皓の耳目の中にあり。我ら若し此刻発難し、内侍を問罪せば、ただ草を打ち蛇を驚かすのみ。彼を狗急跳墙せしめ――朝臣と勾結し、後主を惑わし、我が後勤を断ち、我が軍功を汚さんと、何事も為し得ん」
私は一歩進み、語気を郑重にした。
「我らが今為すべきは、毫も知らざる如く装うこと。
照常に成都へ伝令し、五丈原の大捷を報じ、丞相の康復を報じ、楊儀は『瀆職舞弊、後勤を擾乱』により斬られしと報ず――通魏の半句をも提せず、内侍の一字にも涉れず。
黄皓をして、楊儀の死はただ軍中の内訌にして、己と関わりなしと思わしむ。
彼をして、成都にての小動作を、我ら毫も知らざると思わしむ」
諸葛亮ほどの明悟、瞬時に通透。「そなたの意は――長線を放ち、大魚を釣る。先ず彼を稳め、彼をして続けて頭を露わさしめ、北伐の勢い一度成り、我が軍関中を稳めば、再び師を回して成都に帰り、君側を清め、奸党を除き、一了百了たらんと」
「正是」と私は頷いた。「眼下最も要紧なるは、北伐なり、軍心なり、天下の大勢なり。成都のあの陰私、大浪を翻す能わず。我らが雄兵を手にし、関中を底定せば、黄皓ごとき閹竖、弾指にて滅ぼすべし」
諸葛雲は傍らにて聞き、心服口服。「軍師の高見。属下これにて令を下さん。凡そ『内侍』『密函』の線索、全て封存し、絶対に半分も外泄せず。駅路の伝書、ただ大捷のみを報じ、内奸を提せず」
「よし」と諸葛亮は沈声道。「この如く致せ」
三人は更に数処の営防の細節、斥候の輪値、後勤の核查の事宜を議定し、諸葛雲はようやく身を屈めて告退し、大帳再び宁静に帰す。
灯花噼啪と一響、夜色更深。
諸葛亮は忽然として起身し、帳口へ歩み寄り、漫天の星河を望み、軽く言った。「弘正、そなた、千年の後、世人五丈原を提ぐる時、最先に想起するは何ぞと説くや?」
私は彼の身側に歩み寄り、共に星空を仰ぎ、ゆっくりと言った。「原本は秋風蕭瑟、巨星隕落、出師未捷、千古同悲」
「今は?」
「今は」と私は側頭して彼を見やり、目光明亮、語気堅定。「臥龍再び起き、軍師定策し、三軍重振し、天下側目。遺憾補われ、宿命破られ、漢室重光し、伝奇開篇」
諸葛亮は軽く笑い、その笑声清朗、夜風に散入す。「よきかな伝奇開篇」
彼は言葉を切り、語気忽然として軽緩に。「そなた我が身辺に来たり、ただ短短数日、却って一生の如し。我がこの一生、博望に火を焼き、赤壁に呉を聯ね、荊襄を智取し、川に入り蜀を定め、孟獲を七擒し、祁山に六出せり……自ら風浪を歴、生死を見慣れしと謂えど。されどそなたに遇うまで、知らざりき――天命、元来真に改め得るを」
「我が改めしにあらず」と私は言った。「丞相自ら撑り来りしなり。三軍将士の拼り来りしなり。漢室人心の聚り来りしなり。我はただ、あの不当に歩むべき絶路を、堵ぎしのみ」
二人は相視て一笑、尽く不言の中に在り。
私は余りに良く知っていた。此刻千里の外の建業に、如何なる一幕が上演されつつあるかを――
東呉皇宮、灯火通明、徹夜熄えず。
呉主孫権は正殿に端坐し、案頭に展開せしは、正に諸葛亮の親筆の聯呉伐魏の書なり。
鄧芝は殿下に立ち、身姿挺拔、神色従容、不卑不亢。
孫権は書簡を放下し、指は軽く案几を敲き、目光深邃。「鄧芝、そなたの丞相、当真に司馬懿を大破せしか? 当真に身体康復せしか? 虚張声勢にて、我が東呉を誘い兵を出さしめ、そなたら蜀漢の為に刀を挡らんとするにあらずや?」
鄧芝は従容として拱手した。「大王、蜀軍は五丈原にて魏軍数千を斬り、軍械糧草を繳獲すること無数、司馬懿は門を閉ざして出でず、これ関中の百姓の親ら見し所、断じて虚言にあらず。我が丞相昔日ただ長年透支、毒性薬物誤投のみ、今良医側に在り、既に康復して初の如し。日に軍を督し、三軍振奮」
彼は一歩進み、声清朗、大殿に伝わる。
「大王、赤壁の戦を記さるるや?
当年曹操百万の兵を擁し、江東を呑まんと欲し、蜀呉聯手し、曹軍を大破し、三分の天下を奠定せり。
今曹魏勢大、一心に蜀を呑み呉を滅ぼさんとす。蜀漢亡びなば、次は便ち江東なり。唇亡びて歯寒し、大王一世の英雄、何ぞこの理を知らざらん。
我が丞相に言あり:
大王淮南に兵を出し、徐州、揚州を攻め、曹魏東線の主力を牽制せば、他日中原を平定せし時、豫、青、徐、幽は呉に帰し、兗、冀、并、涼は蜀に帰し、司州の地、中分して天下と為さん!」




