↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五丈原にて諸葛亮を救い、その義子となる  作者: ほしかわ さとる
21/45

帳外(ちょうがい)窺探(きこう)(上)

第21 帳外(ちょうがい)窺探(きこう)(上)

帳の外では軍営が次第に目覚め、遠くから兵士たちの起き上がる音、武器を整える音、火を起こして飯を炊く音が聞こえ、すべては平穏にして秩序正しく、平日と何ら変わりはない。だがこの静けさの下で、暗い流れはとっくに渦を巻いていたことを、誰も知らなかった。

誰も知らない。丞相の製剤はすでに取り替えられ、命はすでに繋がれたことを。

誰も知らない。魏軍の探りはすでに軽々と退けられ、司馬懿は一歩一歩奈落へと向かっていることを。

誰も知らない。あの高層に潜む内通者が、さっき帳の外で決定的な窺探を成し遂げ、同時に決定的な隙も残したことを。

私は帳の中に立ち、間もなく明けようとする東の光を迎えて、胸の中で情勢を一条ずつ整理した。

一、丞相は薬を服み安らかに眠り、病状は初歩的に踏み止まり、死の関は断たれ、生機が甦ったこと。

二、魏軍の探りは誘われ、偽の敗北が真となり、司馬懿の驕れる兵の心はいよいよ盛んとなり、伏撃の大局はすでに半ば成ったこと。

三、内通者は姿を現し跡を留め、範囲は絞られ、時を静かに待つだけで網を収めることができること。

四、魏延、姜維ら将領はすでに安定し、楊儀は暗に抑えられ、軍中の内乱の兆しはひとまず押さえられたこと。

五、後方の朝堂は遠きにありといえど、すでに伏線を埋め、日を待って徐々に図り、黄皓の禍を除くのみ。

環が環を繋ぎ、一歩が一歩に続く。穿って帳に入り、薬毒を見破り、さらに細作を掃除し、敵を誘い込み深く入れ、内通者を絞るに至るまで、わずか一夜一日に過ぎず、情勢はすでに必死の絶境から、無理矢理に一線の生機へと引き戻されていた。

私の口角に、ゆっくりと淡くも確かな笑みが浮かんだ。

諸葛亮、私は救い定めた。蜀漢、私は保ち定めた。千古の遺憾、私は補い定めた。

ちょうどこの時、榻の上の諸葛亮の睫毛が軽く震え、ゆっくりと両眼を開いた。一夜安らかに眠り、薬効が巡り、彼の血色は明らかに好転し、瞳の輝きはいよいよ盛んとなり、あの命が一線に懸かったような衰えの気は、大半が消え去っていた。

諸葛亮はわずかに腕に力を入れて身を起こし、帳の中に立ち微光を迎える私を見て、目に温かな笑みを浮かべた。

「弘正、昨夜……苦労をかけたな。」

私は身を翻し、再び生気を放つ諸葛亮を見つめ、身を屈めて一揖し、声は清らかに、黎明の大帳の中でゆっくりと響いた。

「丞相、お目覚めに。」

「天、もうすぐ明ける。」

「今日こそが、我らが正式に天に逆らい命を改むる日なり。」

まさにこの時、帳の外から諸葛雲の低い声の報告が届いた。「丞相、先生、魏軍より使者を遣わし参り、『丞相が御不例と聞き、特に人參の薬を送り安否を問う』と申し、中軍への面会を請うております。」

諸葛亮と私は見交わして笑った。この使者は、紛れもなく司馬懿が「孔明が本当に死んだか」を自ら確かめに遣わした間者であった。

諸葛亮は青衫を正し、瞳に神彩漲り、朗らかに言った。「入れ。」

帳の簾が掀けられ、魏軍の使者が大股に入ってきた。もとより満面の矜傲だったが、目を榻の上に走らせた時、たちまち凍りついた——目の前のこの蜀漢の丞相は、面色紅潤、眼差し清らか、身姿挺拔であろうか、病危の相など一片もあるか。彼は昨夜、夏侯威から蜀軍が一触即退、丞相が命を一線に懸けていると聞いたばかりだというのに、此刻に見る諸葛亮は泰山の如く穏やか、気定神閑であった。

使者の喉が一つ緊り、無理に鎮まりを装い、乾いた笑いを二つ。「丞、丞相の御色……甚だよろしい。」

「仲達には心配をかけたな。」諸葛亮は羽扇を軽く搖し、声は清らかなり。「余はただ昨夜の小恙に過ぎず、一宿休めば、すでに支障なし。仲達に伝えよ、余を案ずるな、安心して堅く守れ、と。」

使者は唯々として退き、帳の外に出た時、背中にはすでに一層の冷汗が滲んでいた。彼はもとより死体を拾いに来たのに、目の前で目を覚めた臥龍に出くわしたのだ。

諸葛亮は使者の遑しく去っていく後ろ姿を見つめ、唇の端を微かに勾った。「弘正、この間者が一たび帰れば、司馬懿はもう坐してはおられまい。」

私は笑って言った。「坐していられぬからこそ、局に入る好し。」

私は此刻の魏軍の大営の中で、司馬懿が案の上の朱批の「五丈原」を前に咆哮し、諸葛亮の死期はすでに定まり、間もなく蜀営を踏み潰せると算段していることを、余すところなく知っている。彼は、自ら遣わした使者が目覚めた臥龍に出くわしたことを知らぬ。なおさら、彼が大望を寄せた「病危」の捷報が、実は諸葛亮が自ら彼に与えた餌に過ぎぬことを知らぬ。彼が笑えば笑うほど狂おしく、真実が叩きつけられる時、墜ちるもまた激しく惨い。

帳の外では、昨夜あの土塀の下で天を怨み人を恨んだ数名の低級将校が、ちょうど遠くから使者の帳に入るのを目撃し、また諸葛亮が神彩煥発して帳の前に立つのを見た。数人は顔を見合わせ、先の慌てと怨嗟は、此刻ですべて羞愧と嘆服とに化していた。あの若い屯長は冷気を吸い込み、顔を赤らめて、中軍大帳に向かい深く一揖し、低く言った。「孔先生……私めが、お心当たりを誤り申した。」傍らの者も相次いで身を屈めた。彼らはようやく、昨夜の己が動揺がいかに可笑しかったかを悟った——丞相は無事、大局は掌の中にあり、而るに彼らはもう少しで、自らの志気を洩すところであった。

朝光が帳の簾を穿ち、わずかな微光を差し込ませ、二人の身に落ちて、長夜の寒意と陰霾を追い払った。帳の外では、秋風は相変わらずなれど、すでに黎明の暖かさを帯びていた。遠方、魏軍の大営はなお眠り続け、一戦功成るの美夢を見ていた。軍中では、内通者が魂を失い定めず、己が天衣無縫に隠れたりと自負していた。

彼らは皆、まだ知らぬ。

この黎明を以て始まる。五丈原の歴史は、徹底的に書き改められる。この黎明を以て始まる。諸葛亮は死せず、蜀漢は亡びず、北伐は敗れず。この黎明を以て始まる。成都近くの廃墟から持ち込まれた一つの薬箱が、千古の名相と共に、傾きかけた蜀漢の江山を支え、天に逆らい命を改むる伝奇を続き書きすることになる。

銅灯の灯花が最後の一跳ね、最後の灯油を燃やし尽くした。長夜は過ぎ、曙光は降り来たる。

黎明が霧を破り、最初の一縷の晨光が斜めに五丈原の連なる営盤を掠め、灰黒の帳頂に浅き金を鍍した。夜風は次第に息を潜め、戈壁の寒気は昇り初めた日の頭に一寸ずつ逼り退けられ、遠く渭水は波光鱗鱗、人間の兵戈を知らぬかの如く、兀として東へ流る。

中軍大帐の内、暖かさはすでに生まれていた。

諸葛亮は一夜安らかに眠り、薬力が身の周りを巡り、此刻榻に端坐すれば、面色はもはや往日の枯槁にあらず、眉宇の間に去りがたい鬱気は大半消え、眼差し清らか、話す息づかいさえ穏健重厚になり多くなった。彼は軽く手を挙げ、久しく伸ばさなかった肩臂を動かせば、かつてのような痠軟無力の感覚は一片もなかった。

「弘正、」と諸葛亮は軽く呼び、口調に隠せぬ釈然と驚嘆とを帯びて、「そなたの方案、この日本のラジオ体操と相まって、誠に神異なり。余は一夜安らかに眠り、今朝に至るまで胸の奥が塞がず咳もせず、四肢にさえ次第に温もりが戻り、気力が再生したかのようじゃ。」

私はさりげなく手にした薬瓶を一つずつあのアルミ製薬箱に収めていた——私は一襲の青衫、頭に方巾を結い、眉目疏朗、帳の中に自有の清雅なる従容の気度あり——言葉に顔を上げ、安堵の笑みを浮かべて、「丞相はもとより長年透支し、さらに含毒の製剤を誤って投ぜられただけで、天命に不可救ならず。あの碗の毒薬を断ち、再び内を養う法を以て心脈を固く護れば、心臓の機能が一たび安定すれば、自ずと日ごとに好転いたします。これは始まりに過ぎず、あと数日もあれば、丞相は正常に起き上がり政務に当たり、軍営を巡視なさるられましょう。」

私は前に進み、習慣的に手を伸ばして諸葛亮の手首に掛け、指先で脈を軽く押さえた。脈拍と心拍はなお細めながらも、すでに沈穏にして力強く、前数日のような虚浮散乱、いつでも止まりかねぬ相ではなくなっていた。私は細かに診てしばし、ゆっくり手を収め、胸の中の大石はすっかり地に着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。