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五丈原にて諸葛亮を救い、その義子となる  作者: ほしかわ さとる
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暁前、現れ出る(上)


この扶桑のラジオ体操は見た目簡単なれど、私が扶桑の故郷にありしとき、人人の日ごとに必ず為す軽く緩やかなる体操なり。筋骨を伸ばし、呼吸を調え、専ら心脈の虚虧、息短く喘ぐの症に効く。まさに諸葛亮のいま最も急を要する保命の根幹なり。歴史のうえのその致命なる突然の崩絶の危うきは、この一刻より、ひそかに第一の関を避けられておる。

私は身を屈め、指先で無意識に足元のそのアルミ製の薬箱を押さえた。箱面は冷たく、棱角が掌に当たるも、かえって私を安らかにさせた。これは私が成都近郊の廃墟より持ち出しし全ての持ち物なり、いまや、この目の前の人の命を続くるものともなっておる。

これは私が埋めた、最も隠され、また最も重要なる一つの伏筆なり。死の関を断ち、生の機を続く。ただ諸葛亮が突然に隕せざるを得ば、後のすべての配置に、支えあることとなる。

「ふう――」

諸葛亮、ゆるゆると濁気を吐き出し、眼を開け、その瞳のなかの久病の灰翳が幾分薄らぎ、再び幾分の清らかさを透した。指先を動かしてみれば、元より痠軟無力なりし腕に、なんと久しく忘れし力が一つ加わったり。

「この法……果たして神妙なり」

諸葛亮、低く感嘆し、口調のなかに幾分の信じ難き如き釈然を帯びて言った。

「ほんの片時調息せしのみで、胸の窒ぱくせしが軽くなり、長く習えば、どうして本当に心臓の機能を安固にし、性命を続くることは不可能とあらう」

私は調えし経口製剤を手に取り、ゆるゆると杯に注いだ。薬液は澄み温まり。

「丞相、この扶桑のラジオ体操に、この服薬方案を併せ、内と外と相協らうにあり。励し続くれば、十日と経ぬうちに榻より下り歩くことができむ。半月の後には、事を理するを回復しむ。一月のうちに、再び甲を披き軍を督するも、不可能にあらず」

私は前へ出で、両手をもって薬杯を捧げ、重く言った。

「ただ第一の剤こそ最も肝要にして、時を守って服用せねばならぬ。今夜よく安らかに眠り、明朝一番に、血を咳く症は幾分和らぎましょう」

諸葛亮、薬碗を受け取り、指先が碗壁の温みに触れ、心もまた一つ温まった。出山以来、事ごとに自ら行い、日夜憂労、側の者は或いはかれを敬し、或いはおそれ、或いは倚重すれど、かつて私のごとき、名利を計らず、権位を求めず、ただ「命を続く」の二字のために、かれの生死をこれほど重く見た者は無かった。この心遣い、すでに君臣を越え、何の素性身世を問うことも無かった。

彼はこれ以上言わず、仰ぎて一杯の薬液をゆるゆると飲み尽くした。薬が喉を下り、むかしのごとき苦渋と喉を刺すことなく、かえって一つ涼しき舒緩を帯び、咽喉を伝わりて流れ下り、直ちに胸腹へと入り、ゆるゆると拡がった。通りし処は、元より強く張り凝りたる胸さえ、優しく撫で平らげられたかの如くにて、舒やかさは人をして自ら弛めしめたくなるほどであった。

「よき薬じゃ」と諸葛亮は空の碗を置き、軽く嘆じた。

「丞相、安らかに休みなされよ」と私は空の碗を受け取り、低く言った。「幕外には諸葛雲がみずから白毦兵を率いて守り、内外三層、水も漏らさぬほど。魏軍の営中の動き、細作の異動は、皆第一時に伝わらむ。今夜、丞相を驚かすような事は何も起こりませぬ」

諸葛亮、頷いた。連日の緊張と損耗が、薬と扶桑のラジオ体操の二重の働きのもと、次第に深き眠りへと化した。彼はもはや強く支えず、ゆるゆと躺れ、双目を閉ざし、呼吸は早く均しく長くなった。

これは数日のうち、諸葛亮がはじめて真に安らかに眠りしときなり。

私は彼のために被角をそっと直し、動きは軽く緩やかにて、この得がたき安らぎを驚かさんことを恐れた。私は身を翻して幕門の傍へ歩み、立柱に寄り掛かり座り、幕の簾の隙間を透かして外の重き夜を望みやるも、心神は終始緊めておった。

丞相は安らかに休むことを得む、私は得ず。

五丈原の黑夜は、生きて安眠の場にあらず。

王医者らが捕らえられしは、見た目きれいに片づいたようで、ただ表の蟻を清めたに過ぎぬ。あの蜀軍の高層に潜み、核心の機密に触れ得、いやはては音もなく中軍の大幕に近づき盗聴し得たる内鬼は、なお暗に潜伏し、草のなかに潜める毒蛇の如く、いつでも暴れ出て人を噬み得る。この者一日除かれざれば、大営は一日も安からず。

私は魏軍の大営のなかで、この刻司馬懿がいかなることを思うかを、余りに良く知っていた。彼はその偽りの書を捏じ捏り、指先が力に白くなるほど締め、口元には抑えきれぬ笑みを浮かべている。彼はこれを天より降りし蜀を滅ぼうの良機とただ信じ、見るほどに喜び、思わず鬚を撫でて長く笑う。幕のなかの親随ら、主将のこの有様を見て、みな身を屈めて付き従い笑い、一つ冠を弾いて慶ぶが如き有様なり。

彼は低く独り言を言った。

「孔明……本当に持ちこたえられぬな」

眼に精光が迸り、半生の宿願がこの一挙に在りと覚ゆ。

「軍心大いに乱れ、内は傾かむとす、天の与えし良機じゃ!」

彼は直ちに将を点じて言った。

「夏侯威、令を承れ――そなた、軽騎三百を率い、直ちに蜀軍東側の草料営めがけて突き進み、偽りて探索を為し、その虚実を探れ。もし蜀軍果たして緩み乱れているならば、速やかに報せ、本督みずから大軍を提げて、一挙に五丈原を踏み平らげむ!」

夏侯威、命を承り去り、顔じゅうに功を立てむとする狂喜に満ち、あの侯となる錦袍がすでに身に纏わされたかのようであった。司馬懿は手を背に負いて幕前に立ち、躊躇満志、勝を握ったと確かに信じ、すでに蜀軍が土崩瓦解し、諸葛亮が束手就縛の日を目の前に見ているかのようであった。彼は確かに笑った。されど知らず、かれの遣わせしは探子ではなく、自ら罠へ踏み入るる右足なりしことを。

なお遠く、司馬懿がその意図的に改竄せし「丞相重篤、軍心大乱」の偽書を受け取りしとき、この刻きっと幕のなかで狂喜して算計しておるであろう。そう長からず、魏軍の試しの部隊が蜀軍の予め設けし罠に踏み入るであろう。一つ小さな伏撃、見た目は取るに足らぬようで、その後司馬懿みずから主力を率いて局に入らしむる能わず、北伐の大軍が士気を挽回する一勝を打てるか否かにかかわるものなり。

幕外の風声が嗚咽し、夜露は次第に重くなり。

いつしか、遠くよりふと極めて軽き蹄の音が聞こえ、速くして急なり、明らかに斥候の軽騎なり。私の眼が凝り、直ちに神を凝らして細かに聴いた。

足音は幕外数十歩の外に止まり、次いで白毦兵に遮られた。ほどなくして、諸葛雲の低く抑えられた声がふと響き、極めて低く絞られたり。

「先生、魏軍の動きが参りました」

私は諸葛亮を驚かさんことを恐れ、足音も無く幕の側の片隅へ歩み、声を潜めて返した。

「入って申せ」

諸葛雲、一すじの隙間を掀じ開け、身を横たえて入り、片膝をつき、声は微かに聞こえぬほど。

「啓上いたす、先生。魏軍の先鋒一隊、およそ三百余騎、すでに東側の山谷の方より近づきつつあり、草料営を探るを名とし、一歩ずつ迫りつつあり、明らかにわが軍の虚実を探りに来たるなり」

「先頭の者は誰じゃ」と私は問う。

「旗印を見れば、司馬懿の配下の偏将、夏侯威にございます」と諸葛雲は低く言った。「この者、曹魏の宗室の親族にして、つねに心高う傲り、功を立てむと切に望む」

私の口元に微かな笑みが浮かんだ。

まことに天の助けなり。司馬懿が誰を遣わそうとも、まさかこの功に焦る者を遣わすとは。この種の者こそ、最も容易く偽りの像に惑わされ、最も容易く「弱きを示す」を「真の弱き」とし、「罠」を「功」と思う。

「文長のほうは、すでに就位せるか」と私は重めて問う。

「魏将軍は精騎五百を率い、すでに東側の山谷の両翼に伏し、ただ信号を待つのみ」と諸葛雲は言った。「すべて丞相の指図のごとく、勝つことを許さず、敗れるのみを許し、わざと混乱の破綻を露わにし、夏侯威にわが軍の防備の空虚と、軍心の乱れを深く信じさせむ」

「よくやった」と私は頷いた。「令を伝えよ。元の計画のごとくにせよ。ただ、魏軍を真に傷つけ過ぎてはならぬ、なおさらわが軍の真の戦力を露わすことなかれ。戦えば戦ぶほど、乱れ、弱く、慌てふためくほど、よい」

「部下、承知いたしました!」

諸葛雲、低く応じ、再び音もなく幕外へ退き、夜色に溶け込んだ。

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