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五丈原にて諸葛亮を救い、その義子となる  作者: ほしかわ さとる
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医者、網に落ちる(上)

「俺は前から言っていただろう、あの外から来た小僧は頼りにならんと」若い兵が火の中へ唾を吐き捨てた。「来歴も知れぬ流れ医者ごときに、丞相がよくも任せたものだ。だが、これで好都合だ。丞相が倒れれば、軍権は楊長史と魏将軍に移る。あの二人はもともと折り合いが悪い。後方まで乱れれば、俺たち小卒は北伐の道連れだ」


「もう終わりだ、もう終わりだ」火のそばで誰かが長く嘆息した。「泥にまみれて戦ってきたのに、最後は兜を捨てて逃げるのか。こんなことなら、五丈原まで来て寒さと飢えに耐えるんじゃなかった」


数人は語るほどに沈み、火の光が不安な顔を照らした。初めは無理に信じまいとしていた什長らも、この恐慌に流され、溜息をつき始めた。冷えた餅を地に投げ捨て、「何たる仕儀だ」と罵る者さえいる。


彼らは将計就計も引蛇出洞も知らぬ。耳に入るは風の音、目に入るは目の前の慌てばかり。火の爆ぜる中、暗がりにいた白毦兵が黙って数人の顔を覚えた。後日、真相が明らかになれば、この者らは今宵の動揺を恥じ、危うく味方の士気を漏らしかけた己を憎むだろう。


帳内。私は諸葛亮へ向き直った。


「丞相、それから、もう一つ、ぜひ事前にお伝えせねばならぬことがございます。これは北伐全軍の安危、ひいては丞相亡き後の数十年の蜀漢の命運にかかわることです」


諸葛亮は私の真剣な神色を見て、思わず身を正した。「申せ。いかなることでも、わしが受け止めよう」


私は深く息を吸い、声を極限まで低くして、二人の耳にしか届かぬようにした。


「丞相はご存じでしょうか。百年の後、蜀漢の軍中で、誰に兵権を託すべきか。誰を重んじてはならぬか」


諸葛亮はしばし黙した。「伯約は文武双全、時務に忠勤、思慮精密。わが軍事の志を継ぐに足る。蒋琬、費禕は朝政を執り行い得る」


「蒋公琰、費文偉、姜伯約の三人は、確かに丞相の選ばれた後継者。忠誠も才能も申し分ございません。ですが問題はこの三人にはなく、楊儀と魏延にございます」私は一字ずつ区切った。「丞相、ご心中お分かりの通り、魏延は得がたい猛将。漢中を十年鎮守し、魏軍は正面から見据えることさえできぬ。蜀漢への忠心も疑いない。ですが彼と楊儀は水火の如く、二人とも私心があり、ともに重権を握っております」


諸葛亮は軽く嘆いた。「知っておる。文長は勇猛だが矜高で、朝中の多くは彼を避ける。ただ楊儀だけは譲らぬ。二人は水火じゃ。わしも何度か調和を図ったが、功は甚だ微かであった」


「丞相の調和は、ただ標を治めるに過ぎませぬ」私は言った。「史に、丞相が五丈原で病に逝かれた後、密令で撤兵を命じ、魏延に殿を護らせたとあります。魏延は楊儀の統領に服さず、軍を率いて道を遮り、結局楊儀に謀反と誣げられ、馬岱に殺され、三族ことごとく誅されました」


私は続けた。


「そして楊儀は魏延を誅した後、自ら功勲至大とし、丞相に代わって政を執るべきと考えたが、結局は一つの虚職に落ち、心中に怨みを抱き、怨言を口にし、陛下に賜死されました」


「二大重臣、一人は死に、一人は亡び、蜀軍は自ら両腕を断った。これこそ、姜維の後、独木支え難き根本の一因でございます」


諸葛亮の顔色はすっかり沈み、指先が羽扇を強く握った。指節は白く、血の気を失っている。彼が一生最も恐れたのは、身の果てに乱れが生ずることだった。だが私の口から出た結末は、彼の想像よりもなお惨烈であった。


「文長……本当に冤に殺されたのか」諸葛亮の声は、いくらか嗄れていた。


「疑いなく真にございます」私は言った。「史冊には明々白々と記されております。『延の意、北へ向かい魏に降らず、南へ還りただ儀らを除かんとするのみ。もとより背反の意なし』と。彼が望んだのは楊儀を殺すことのみで、蜀漢に叛こうとしたのではありませぬ」


諸葛亮は目を閉じ、久しくして、ようやくゆっくりと息を吐き出した。「わしの……手配が至らなかった」


「丞相の手配が至らなかったのではありませぬ。あまりに皆を全うせんとし、すべての人を保とうとして、かえって矛盾を爆発させたのです」私は言った。「この一世、我らは再び悲劇を起こしてはなりませぬ。楊儀と魏延、必ず事前に処置せねばなりませぬ」


「いかに処すべきか」諸葛亮は目を開き、眼光鋭く問うた。


私は声を沈めた。


「一つ、魏延を安定させること。丞相自ら慰撫し、北伐の大業は彼を措いてならぬと明らかに告げ、軍中の兵権には必ず彼の分があると示し、決して心安からざらしめぬこと」


「二つ、楊儀を抑えること。楊儀は心胸狭隘で人を容れず。決して彼に軍権を執らせ、撤兵の大局を執らせてはなりませぬ。丞相、事前に軍令を定め、身の果ての事は蒋琬、費禕、姜維の三者が共に執り行い、楊儀は政務のみを理き、兵権に介入するを得ざらしめよ」


「三つ、事前に規矩を立てること。今日より軍中に鉄律を定めよ。誰ぞ丞相の病重き際、権を争い利を奪い、内乱を造らば、身分の高低を問わず、一に斬って即決す」


三策が一斉に出ると、楊儀と魏延の内訌の可能性はほぼ塞がれた。諸葛亮は聞くほどに目の色を明るくした。私の方策は偏激ならず、極端ならず、しかし精確に矛盾の要点を掴んでいる。


「よい」と諸葛亮は断固として言った。「そなたの申す通りにしよう。明朝より、わしは将を分けて召見し、先ず魏延を安定させ、次いで楊儀を戒め、隐患を萌芽のうちに摘み取ろう」


私は軽く頷いた。軍中の内闘を解くことは、蜀軍を安定させる第一歩だ。魏延が死なぬ限り、蜀漢の北の防線には大将が坐鎮し、姜維の北伐にも強力な支えがある。


ちょうど二人がさらに一歩深い布石を議している時、帳の外から忽然として極めて軽い異音が聞こえた。衣の裾が帳の簾を擦るようであり、あるいは人の息を潜めて盗み聞きするようでもあった。


私は耳を動かし、即座に手を挙げ、諸葛亮に声を禁ずるよう示した。諸葛亮も機警、瞬きのうちに口を閉ざし、冷たい眼差しを帳門へ向けた。


帳外の音は、ただ一瞬で、速やかに消え失せた。その速さは秋風が一掃したかのようだった。だが私と諸葛亮は共に知っていた。それは決して風ではない。盗み聞きする者がいる。


胸中はいよいよ重く沈む。これほど用心してなお、人の目についた。見るに、この五丈原の大営は四方に風が漏れ、あらゆる所に眼線がある。諸葛亮はゆっくりと手を挙げ、帳門を指し、また自らの胸元を指した。私に安心せよ、自ずから手配があると示している。


次いで、諸葛亮はわざと声を高くし、口調に疲弊と虚弱を帯びて言った。


「ああ、わしのこの身よ。日ごとに悪くなる。製剤をいくら飲んでも好転の兆しが見えぬ。恐らくは……本当に天命には逆らえぬのか」


私も即座に意を得て、声を高くし、憂いを装った。


「丞相、何とぞお身体をお大切に。今の北伐は膠着し、全軍上下、丞相お一人を頼りとしております。もし丞相にいかなる不測あらば、蜀軍はいずこへ向かい、漢室はいずこへ向かうのでしょう……」


二人は一唱一和し、その口調は真に迫り、絶望と無力に満ちていた。帳外は寂として声もない。明らかに、盗み聞きの者はなおもいる。


しばらくして、諸葛亮はまた数声咳き、声を弱々しくした。


「もうよい。そなたも早く休め。わしは心力尽き果てた。静養せねばならぬ。軍中の事は、ひとまず楊儀、魏延の二人に共に任せ、願わくば……何の乱れも起こらぬよう」


この一言で、わざと楊儀、魏延を挙げ、盗み聞きの者へ誤った情報を渡した。丞相はもはや政を執る力なく、軍権はまさに他所へ落ち、軍中まさに大乱せんとしている、と。


私もそれに合わせて溜息をついた。


「丞相、安らかに休ませますれば。私どもはただ丞相の一日も早いご回復を願うばかり。さもなくば、胸中実に安からず」


さらにしばらくして、帳外に極めて軽く、極めて速い足音が聞こえ、速やかに遠ざかった。その足音がすっかり消えるまで、帳内の二人はようやく同時に安堵の息をついた。


「危ないところでした」私は低い声で言った。「もし先ほどの言葉、半句なりとも聞かれていたら、即、殺身の禍です」


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