第9話:増台と並列演算、そしてスラムの『パチスロホール』
「よし……これで接続完了だ」
店内の改装を終え、俺は汗を拭いながら新しく並んだ筐体群を見渡した。
かつて数台のテーブルと閑古鳥が鳴いていた『スロット&サケ』のフロアは、今や壮観の一言に尽きる。
壁際にずらりと並ぶのは、1号機『ゴーゴー・スライム』が5台、そして2号機『爆走グリフォン』が5台。合計10台のパチスロ機が、整然と鈍い光を放っていた。
「マスター、接続テストの準備が整いました」
シエルが帳簿と魔法陣の起動符を手に報告してくる。
今回の10台増設にあたり、一番の問題だったのは「ゴーレムコアの演算処理」だった。
1号機・2号機ともに、開発時は『Aランク・ゴーレムの核』という超スペックなコアを贅沢に1台につき1個使用していた。だが、さすがにそんなコアが何個も転がっているはずもない。
そこで俺が目をつけたのが、冒険者時代に大量に持ち帰っていた『Bランク・ゴーレムの核』だ。
単体ではAランクほどの超高度な並列処理はできないが、複数の筐体を集中管理(クラスタ化)させる司令塔として組み込めば話は別だ。
1個のBランクコアに「5台分の完全確率抽選とリール制御」を並列処理させる魔法陣を構築。これにより、ゴーレムコアの数を抑えつつ、1号機島(5台)と2号機島(5台)の大量生産・安定稼働に成功したのである。
「よし、一斉起動だ」
俺が魔法陣に魔力を流し込むと、Bランクコアが静かに青く明滅を始めた。
——ブウン。
10台の筐体が同時に稼働音を立て、色鮮やかな魔導ランプが一斉に点灯する。
不具合なし。滑り制御も完璧、各台の独立した確率抽選も正常に分散されている。
「……マスター。これはもう、ただの酒場ではありませんね」
シエルが感嘆の息を吐いた。
「10台の同時稼働……。1日の想定総回転数は約60,000回転。未換金メダルの流入量と手数料収入は、これまでの5倍以上に膨れ上がります。……まさに壮観な『遊技場』です」
「ホールか……。前世を思い出して、ちょっとワクワクしてくるな」
俺が苦笑していると、開店を知らせるベルを鳴らす前に、待ちきれなくなった客たちが押し寄せてきた。
「おいマスター! 開けてくれ! 今日は増台だって聞いたぞ!」
「新台のグリフォン、増えたんだろ!? 今日こそ連チャンさせてやる!」
重厚なドアが開くと同時に、スラムのごろつきや下町の商人、果ては身なりの良い冒険者たちが雪崩のように入ってきた。
「順番にお並びくださいませ……! お席は十分にございますので、走らずにお進みください……!」
グリが190センチの巨体で入口を固め、圧倒的な威圧感で押し寄せる群衆を瞬時に一列へ整列させる。すっかり手慣れたものだ。
「うおっ! 1号機も2号機もめっちゃ増えてる!」
「こっちはマイルドなグリフォンだ! 俺はこっちに座るぞ!」
「メダルくれ! 預り証から引き出す!」
あっという間に10台のパチスロ機は満席となった。
カコォン! カコォン!
店内あちこちで魔導ランプが眩い光を放ち、リールがズドンと揃う重厚な音が響き渡る。
Bランクコアの集中管理システムは完璧に機能しており、10台が同時にボーナスを引いても処理落ちひとつ起こさない。
「マスター! 5号台がBIGだ! メダルの補給を!」
「はいはい、すぐ行く」
俺はホッパーへ追加のメダルを補充しながら、賑やかな店内を見渡した。
10台の筐体から放たれる熱気、客たちの歓声と悲鳴、そして整然とメダルと預り証を捌いていくシエルとグリ。
もはやここは、ただの閑古鳥が鳴いていたスラムのバーではない。スラム街の経済を動かす、熱狂の『パチスロホール第1号店』だった。
(……まあ、台が増えた分、俺の作業量も増えたんだがな)
酒を磨く暇すらなくなった自分の状況に苦笑しつつも、整然と回るリールを見つめながら、俺は久々にパチスロ屋の店主らしい満足感を噛み締めていた。




