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第6話:新台『爆走グリフォン』と、迫り来る王国の影

「ついに完成したぞ……! 2号機『爆走グリフォン』だ!」


店内の奥に新たに増設されたコーナーで、俺は誇らしげに新台を披露した。


1号機『ゴーゴー・スライム』は王道のAタイプ(ボーナスのみで増やすタイプ)だったが、今回の2号機は「ライトタイプ」。

ボーナス確率は1号機より少し軽めで遊びやすく、かつボーナス終了後に必ず入る「チャンスゾーン」でフラグを引き直せば、連続でメダルが払い出されるライトな連チャンシステムを搭載している。


当然、演出面も超進化を遂げた。

ゴーレムコアの圧倒的演算能力を活かし、リールの上部に搭載した小型魔導水晶が、チャンス発生時にビカビカと色鮮やかに眩い光を放つ。


「おいマスター、なんだそのド派手な台は……!?」

「1号機より当たりやすいのか!?」


常連のごろつきたちが、目を血走らせて押し寄せてくる。


「落ち着け、順番だ。今回の台はメダルの吸い込みは穏やかだが、当たりの波を楽しめる仕様だ。マイルドに遊びたい奴にはうってつけだぞ」


ヴォルクが真っ先に席につき、メダルを投入してレバーを叩く。


カコォン!


数回転で魔導水晶が赤くフラッシュ!


「うおっ!? 光った! 揃うぞ!」

ズドン! と揃うグリフォン図柄。


「連チャンゾーン突入だ! レバーに気合いを入れろよ!」

「うおおお! 行くぜえええ!」


店内は一気に熱狂の渦に包まれた。軽めの当たりとド派手な演出に、スラムの男だけでなく、噂を聞きつけてやってきた下町の商人たちまでが夢中でレバーを叩いている。


メダルは、もはやスラム街だけでなく下町の露店でも当たり前に買い物の決済に使われていた。

一応、オーバーペイはほとんど起こしていないため、発行数に対応できるだけの現金は用意できているがセキュリティ面で不安になってきた。


その熱狂の真っただ中。

店の重厚な木製扉が、重々しい音を立てて静かに開いた。


入ってきたのは、上質なシルクの服に身を包んだ、いかにも「役人」といった風貌の男と、その背後に控える厳めしい甲冑に身を包んだ武装騎士たちだった。


店内の男たちが一瞬で静まり返る。


「……ここが噂の『例の遊技場』か」


役人の男は、蛇のように細い目で店内を見回し、じゃらじゃらと音を立てるメダルの山と、ド派手に光る2号機を凝視した。そして、カウンターにいる俺のもとへゆっくりと歩み寄ってくる。


「私が当王国の徴税官兼・法務監察官のベルナールだ。……店主、少々顔をお貸し願おうか」


「……へい、何の御用で?」


俺が首をかしげると、ベルナールは胸ポケットから羊皮紙の文書を取り出し、カウンターへ突きつけた。


「単刀直入に言おう。この店で行われている行為……そして、この『銀色の金属片』を市中に流通させている行為は、王国法令第47条『不法賭博および私鋳通貨製造罪』に抵触する可能性がある」


「……えっ、これ違法の可能性があるの!?」


俺は思わず間抜けた声を上げた。


「ちょっと待ってください。不法賭博? 私鋳通貨? 違法って……俺、ただのバーの店主ですよ!?」


「とぼけるな。国家の許可なく賭博場を開帳し、さらに『独自のメダル』を鋳造して通貨気取りで流通させている。これは王国の貨幣発行権に対する明らかな反逆行為だ。最悪の場合、即座に店を閉鎖し、関係者は全員…地下牢か、処刑場行きを覚悟せよ」


ベルナールの冷徹な言葉に、店内の客が一斉にざわついた。

地下牢。反逆罪。冗談じゃない。俺はただ、前世の趣味を楽しんで、暇つぶしと酒の肴にスロットを置いただけだ。国家に反旗を翻すつもりなんて毛頭ない。


「い、いやいや待ってください! 賭博って言っても、これはただの遊技機で……メダルだってうちの店の中で使う景品みたいなもので……!」


俺が必死に弁明しようと冷や汗を流していると、カウンターの奥からトツトツと静かな足音が響いた。


「——少々お待ちいただけますか、監察官様」


帳簿を小脇に抱えたシエルが、すっと俺の前に立ちふさがった。

その表情には一切の動揺がなく、むしろ獲物を前にした肉食獣のような鋭い光が宿っている。


「なんだね君は。引っ込んでいなさい、今は店主と話して——」


「当店の総支配人を務めております、シエルと申します。法務監察官様……今『違法の可能性がある』とおっしゃいましたね?」


シエルは眼鏡のブリッジを人差し指でクイッと押し上げ、冷ややかな笑みを浮かべた。


「つまり、現時点では明確な法令違反として確定していない……違法か適法かのグレーゾーンであるとお認めになられた、ということでよろしいですね?」


「なっ……! 言葉尻を捕らえるな! 国家が発行していない金属片を流布し、金品を賭けて遊技させているのだぞ! これのどこがグレーだ!」


「いいえ、全くの白……あるいは、極めてクリーンな営業です」


シエルは羊皮紙の帳簿をパタンと閉じ、理路整然と指を折り曲げ始めた。


「まず第一に、当店は『賭博場』ではありません。お客様はお金を払って『メダルという遊技用の道具』を借り、機械で遊ぶという『娯楽体験』を購入されているだけです。遊技結果によって得られたメダルは、あくまで店内の遊技を継続するための『専用媒体』に過ぎません」


「ふん! だが、そのメダルを現金に換えているだろう! 現金とメダルの交換が行われている以上、賭博以外の何物でもない!」


「いいえ、当店はメダルの『買い取り』など一切行っておりません」


シエルはすまし顔でと言い放った。


「当店が行っているのは、遊戯のためにお客様からお預かりした現金を保管し、枚数に基づいて『お返し』しているにすぎません。そして何より——お客様がメダルを店外へ持ち出し、市場で物品と交換されている件についてですが」


シエルはベルナールを射抜くような視線で見つめた。


「それは『お客様が勝手に所有物を他者と物物交換している』だけに過ぎません。個人間の物物交換を禁止する法律が、この王国のどこに存在するというのですか? 自家製のパンと、自家製の野菜を交換するのと何が違うのでしょうか?」


「くっ……! それは……!」


「さらに『私鋳通貨』というご指摘ですが、当店はこのメダルを『王国の公式通貨である』と主張したことは一度たりともございません。刻印されているのは王室の紋様ではなく、当店のロゴマーク。原材料も王国金貨に使われる貴金属ではなく、市場価値のない加工屑です。これが通貨に見えるのであれば、それは粗悪な王国金貨よりも当店のメダルの方が『信用されている』ということになってしまいかねません」


「〜〜〜〜っ!!」


ベルナールの顔が激怒と屈辱で真っ赤に染まる。

論理の刃で完璧に退路を塞がれ、ぐうの音も出ない様子だ。


俺は横で青ざめながら、心の中で絶叫していた。


(シエル!? お前、屁理屈が凄まじすぎるだろ!?賭博じゃないなんてのは苦しすぎるんじゃない!?)


「……ええい、口の減らない娘だ!」


ベルナールは苛立ちを隠そうともせず、拳をカウンターに叩きつけた。


「屁理屈を並べようと、このスラム街から始まった怪しげなメダルが下町の経済を侵食し、王国の税収と貨幣価値を揺るがしているのは事実なのだ! 来週、改めて財務省の調査団を引き連れて監査に入る! それまでにまともな弁明を用意しておくことだな!」


ベルナールは捨て台詞を残すと、騎士たちを引き連れて逃げるように店を立ち去っていった。


嵐のような役人が去り、店内に静けさが戻る。


「……はぁぁぁあ……助かった……」


俺はその場にへたり込みそうになった。生きた心地がしなかった。地下牢行きだけは勘弁してほしい。


「マスター、大丈夫ですか?」


グリが心配そうに、大きな手で俺の背中を優しく(ああ、手が大きい)さすってくれる。


「ああ……なんとか生きてるよ。……なぁシエル、本当に大丈夫なのか? 来週調査団が来るんだろ? 下手に突っ張って店を潰されたら……規模を縮小することを考えるか?メダルも回収して……」


「問題ありません、マスター」


シエルは興奮を隠しきれない様子で、瞳を輝かせていた。


「国家権力が直々に動き出した……これこそ、当店のメダルが王国の貨幣制度を完全に脅かすレベルに達したという証左です! 『違法』と言われるなら、法を超える仕組みを作ればよいのです」


「いや法を超えちゃダメだろ!?」


「フフフ……マスター。来週までに、例の『預り証』システムをさらに拡張し、王国の監査官すら手出しできない『完全なる金融法人の枠組み』を完成させましょう。新台『爆走グリフォン』の利益があれば、準備資金は十分です!」


「俺はただスロットで遊びたいだけなんですけどーーーっ!?」


おじさんの悲痛な叫びは、2号機から流れる賑やかな連チャン効果音と、シエルの不敵な高笑いにかき消されていくのだった。

10話くらいを目指してます

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