第21話:王都旗艦店の開幕と、巨大なる『交換所』
「……すげえな、シエル。本当に王都の真ん中にこれを建てちまったのか」
俺は目の前にそびえ立つ、白亜の石造り三層建ての巨大な建造物を見上げて呆然とつぶやいた。
王都の中心街、かつて大貴族の邸宅があった広大な跡地に建設された『S&S 王都旗艦店』。
特別最高顧問である第2皇子ルーシャスの政治的プロテクトと印章のおかげで、王都のうるさい法務院も都市警察も一切手を出せない、完璧な「聖域」として完成していた。
「ええ、マスター。スラムの1号店、下町の2号店で培ったノウハウのすべてを注ぎ込んだ、我がグループの集大成でございます」
隣に立つシエルが、満足そうにメガネのブリッジをクイッと押し上げる。
「総設置台数は150台。全台にミラベル特製の立体液晶を搭載し、最新の4号機から名機『ゴーゴー・スライム』まで幅広く揃えております。そして……ハイレートのVIPサロンとは異なり、ここは民衆が誰でも遊べる『通常レート』で運用いたします」
「通常レートか。それなら王都の一般庶民や職人たちも安心して遊べるな」
俺が胸を撫で下ろしたのも束の間、シエルは不敵な笑みを浮かべて旗艦店の敷地東側を指差した。
そこには、ホール本館と同じくらい巨大な、重厚な鉄格子と魔法結界に守られた別館が建っていた。
「……なぁシエル。あっちの建物は何だ? ホールの半分くらいの敷地を使ってるみたいだが」
「フフフ……あちらは『S&S 総合特産品・資産寄託交換所』でございます」
「交換所……? 預り証を発行するだけの場所に、なんであんなバカでかい敷地が要るんだ?」
「マスター、王都の市場規模を舐めてはいけません」
シエルはすまし顔で帳簿を開いた。
「通常レートとはいえ、150台が稼働すれば毎日天文学的な数のメダルと預り証が巡ります。そして、勝ち得た預り証を単なる日用品と交換するだけでは、王都の豪商や貴族層は満足いたしません。そのため、あの別館の半分には『特別な商品』を常時展示・保管しております」
「特別な商品……?」
「ええ。高級魔導具、王室御用達の熟成ワイン、遠方から取り寄せた希少な魔法鉱石、さらには『王都一等地の不動産権利書』や『王国国債の手形』にいたるまで、あらゆる高級資産を『景品』としてラインナップいたしました」
「景品に不動産と国債を置くな!!」
俺のツッコミを置き去りにして、正面の重厚な観音開きの扉が放たれた。
「『S&S 王都旗艦店』、グランドオープンです!!」
シエルの開店宣言と同時に、待ちわびていた王都の群衆が雪崩のように店内へと押し寄せてきた。
「おい見ろ! これが噂のパチスロか!」
「 今日は朝から回し尽くしてやるぜ!」
あっという間に150台のパチスロ機が満席となり、爆音のようなファンファーレと、レバーを叩く熱気、そして吐き出される大量のメダルの重厚な金属音がホール全体に響き渡る。
「ヒャッハー! 『神王』で3000枚出たぞ! 預り証に換えてくれ!」
「おい、あっちの交換所見ろよ!最高級の魔導剣と交換できるぞ!」
「マジかよ!? 武器屋で買うより安く済むじゃねえか! 次は俺が打つ!」
大量のメダルが吐き出され、それが預り証に変わり、巨大な交換所で高級資産や手形へと姿を変えていく。
ただの娯楽施設としてオープンしたはずの『S&S 王都旗艦店』は、開店初日にして「王都最大の民間資産取引センター」として機能し始めていた。
カウンターの奥で、大量の預り証をテキパキと処理するシエルを横目に、俺は冷や汗を拭った。
(ダメだ……規模がデカくなりすぎて、もう俺の手に負えねぇ……)
1熱狂と、巨大な交換所に群がる人々を見つめながら、俺は静かに決意を固めていた。
(王都のオープンも無事に終わった。シエルたちの仕組みも完璧だ……。よし、近いうちに……俺は絶対に引退するぞ)
自分の「引き際」を確信した俺の耳に、今日もホールから鳴り響く『神王の降臨』の大当たりファンファーレが寂しく響くのだった。




