第14話:出現したライバル店と、資本による呑み込み
国家公認の「健全営業認定書」まで手に入れ、名実ともに異世界唯一のパチスロホールとなった『スロット&サケ』。
だが、莫大な利益と連日押し寄せる客の波を見て、指をくわえて指を指を指を咥えて見ているだけの連中ばかりではなかった。
「マスター……街の反対側の区画に、怪しげな店がオープンいたしました」
ある日の開店前、シエルが苦々しい表情で羊皮紙を叩いた。
「ライバル店か?」
「ええ。貴族の資金援助を受けた下町の商人グループが立ち上げた『魔導遊技場・ゴールデンパレス』という店です。あからさまに当店のシステムを模倣しております」
「へぇ、どんな台を置いてるんだ?」
「『ゴーゴー・スライム』を模したと思われる、魔法仕掛けのリール機です。さらに……彼らは客を引き奪うため、メダル1枚の交換レートを当店の1.5倍に設定し、『うちの店の方が稼げる』と宣伝しております」
「ほう……」
俺は少し感心した。やはりどの世界でも、成功したビジネスモデルには即座にパクり店(類似店)が現れるものだ。
「それで、客は流れてるのか?」
「初日は物珍しさから一部の客が向かったようです。ですが……」
シエルは眼鏡の奥の瞳を冷ややかに光らせ、フッと口角を上げた。
「結果は惨椠たるものでした。本日未明、早くも暴動寸前の騒動が起きている模様です」
話を聞いてみれば、原因は極めて単純だった。
ライバル店『ゴールデンパレス』が作った筐体には、当店の『ゴーレムコア』のような超高度な確率演算能力も、滑らかに回るリール制御技術も搭載されていなかったのだ。
粗悪な魔法陣で動かしていたため、目押しをすれば意図通りに止まり、イカサマの制御で唐突に滑るという、今どきスラムの露店でもやらないようなお粗末な機械だった。
さらに、レートを高く設定しすぎたせいで、店側の「回収設定」が露骨になり、客がいくら突っ込んでも全く当たらない惨状と化していたのである。
「金返せ! イカサマ店が!」
「『スロット&サケ』の台と全然違うじゃねえか! リールが急にピタッと止まりやがる!」
『ゴールデンパレス』の店前は、騙されたと気づいた怒れる客たちに取り囲まれ、怒号と悲鳴が飛び交っていた。
そこへ、馬車に乗った俺とシエル、そして警備部隊として同行した「黒蛇会(現:スラム不動産開発)」のダグたちが到着した。
「ひぃっ!? 『スロット&サケ』の連中……! 邪魔しに来たのか!?」
店の奥から青ざめた顔で飛び出してきたオーナー商人が、ガタガタと震え上がる。
シエルは馬車から優雅に降り立つと、怒り狂う群衆の前に進み出た。
「皆様、ご安心ください。当店『スロット&サケ』は、王国の厳しい監査をクリアした唯一の健全公認店です。このような粗悪なイカサマ機に惑わされた皆様の損失、当店が解決いたしましょう」
「お、おい小娘! 何勝手なことを——」
「黙りなさい、敗北者」
シエルはオーナー商人を一瞥で黙らせると、胸ポケットから一枚の契約書を取り出した。
「オーナー殿。貴店はすでに粗悪な機械の製造コストと、怒れるお客様への返金で破産寸前ですね? 本日これより、我が『スロット&サケ 相互金融寄託組合』が、貴店の店舗、設備、および負債を丸ごと買収(M&A)いたします」
「ば、買収だと……!?」
「ええ。提示額は、貴方の残った負債の肩代わりと、手切れ金としての金貨10枚。拒否されるのであれば……あちらで拳を握りしめているお客様方と、我がグループの警備部隊に、これからの対応をお任せするだけですが?」
ダグがニヤリと笑い、強面のごろつきたちが圧をかける。後ろの客たちも「そうだ! 買い取ってもらって『スロット&サケ』の2号店にしてくれ!」と叫び始めた。
「わ、分かった! 署名する! 署名するから助けてくれぇぇ!」
オーナー商人は半狂乱で契約書にサインした。
こうして、出現してわずか三日でライバル店『ゴールデンパレス』は消滅し、その店舗はそのまま『スロット&サケ 2号店(下町支店)』へと生まれ変わることになった。
数日後。
改修工事を終えた旧ライバル店舗には、俺が急ピッチで量産した『ゴーゴー・スライム』と『爆走グリフォン』の純正機がずらりと並べられていた。
「いらっしゃいませ! 本日より『スロット&サケ 2号店』オープンです! 当店は本家と同じく、完全確率・公認のクリーン営業でお届けいたします!」
シエルの指揮のもと、2号店も初日から大盛況。
粗悪な偽物に騙されていた下町の客たちは、「やっぱり本物のパチスロは最高だ!」「イカサマがないから安心して突っ込める!」と涙を流してレバーを叩いていた。
2号店のカウンターで、売上帳簿を確認していたシエルが満足そうに頷く。
「完璧です、マスター。ライバル店の愚行によって、結果的に当店の『絶対的なブランド価値』と『クリーンさ』が街中に証明されました。さらに、居抜きで下町の超一等地(2号店)を手に入れることができました」
「……ライバル店が発生した瞬間に、資本力と暴力で即座に飲み込んで傘下にするって、お前本当に手慣れてるな」
「何を言っているのですか、マスター。これは『適切な市場の健全化』です」
シエルはすまし顔で眼鏡をクイッと押し上げた。
「さあ、マスター。1号店と2号店の2店舗体制となったことで、メダルの流通量はさらに加速します。次は他都市への進出と、遠隔地を結ぶ『ネットワーク貯メダルシステム』の構築に取り掛かりましょう!」
「だから規模がでかすぎるんだよ!!」
ライバル店すらも成長の糧として呑み込んだ異世界パチスロ帝国は、いよいよ一都市の枠を飛び越え、王国全土へとその支配力を広げていくのだった。




