第13話:突然の出玉規制と、白すぎる監査結果
4号機『魔導騎士伝』の狂乱的な大ヒットから数週間。
グランドホール『スロット&サケ』は、連日連夜立ち見が出るほどの超満員が続いていた。
だが、急激すぎる市場の拡大と、狂乱的なメダルの出玉の波は、ついに王国の最高権力機関——王国財務省および国家法務院を本格的に突き動かすこととなった。
「……また来たのか」
開店前、店の前に立ち並んだのは、前回のベルナール監察官とは比べものにならない身なりの重臣たちと、背後に控える『魔導鑑識官』の集団だった。
先頭に立つのは、王国法務院の最高監察官・クロード。
彼は厳しい表情で一枚の分厚い王勅令(規制文書)をカウンターに叩きつけた。
「店主、およびシエル総支配人。事態は切迫している」
「ご苦労様でございます、最高監察官様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
シエルが涼しい顔で対応するが、クロード監察官の目は真剣そのものだった。
「4号機とやらをはじめとする、あまりにも激しい出玉の波……民が全財産を投じて狂喜乱舞する惨状を受け、王国議会にて緊急の『遊技機出玉規制法案』が可決された」
「出玉規制……ですか」
「そうだ。一部の悪質な裏賭博場や不正機を根絶し、民の生活破綻を防ぐための絶対法だ。主な規制内容は以下の通りである」
クロード監察官は羊皮紙を朗読し始めた。
『一日の総吐き出し(還元率)は、投入されたメダル(ベット)に対して最低でも8割(80%)を割り込んではならない』
『機械的に確率を操作し、客の資産を際限なく吸い上げる搾取装置であってはならない』
クロード監察官は冷徹な視線を俺たちに向けた。
「法務院は、この店が機械の内部確率を極限まで悪質に操作し、客から9割以上の資産を不当に吸い上げていると疑っている。本日これより、国家所属の魔導鑑識官らによる『ゴーレムコア内部の並列確率プログラム調査』を執り行う!」
「……えっ?」
俺は思わず首を傾げた。
「最低でも80%以上……? 搾取装置……?」
シエルも隣で一瞬だけポカンとした顔を見せた後、眼鏡の奥の瞳を呆れたように細めた。
「……最高監察官様。失礼ですが、当店の設定について、何か大きな勘違いをされておられませんか?」
「問答無用! 鑑識官たちよ、1号機から4号機までの魔導コアに解析陣を展開せよ! 悪質な回収設定を暴き出すのだ!」
ゾロゾロと台へ群がる魔導鑑識官たち。
彼らは筐体を開け、BランクおよびAランクのゴーレムコアに特殊な鑑定魔導陣を照射した。
「ふん、どうだ! 自慢のコアから搾取の証拠が——」
「……か、最高監察官様!!」
数分後、コアを解析していた鑑識官のリーダーが、青ざめた顔で駆け寄ってきた。手に持った魔導測定器が、見たこともない数値を弾き出している。
「どうした!? やはり設定1(最低設定)の還元率は50%以下だったか!?」
「い、いえ……! 違います! 逆です!」
「……なに?」
鑑識官リーダーは震える声で数値を読み上げた。
「1号機から4号機まで……全台の基本設定において、一日の想定還元率は『最低でも95%(設定1)』、最高設定(設定6)に至っては『108%〜112%』で厳密にプログラムされております……!」
「……は?????」
クロード監察官の思考がフリーズした。
「な、なんだと……!? 95%以上だと!? では、客がメダルを100枚入れたら、平均して95枚以上は客の元へ戻っているということか!?」
「は、はい! さらにゴーレムコアの完全確率抽選システムにより、店側が任意に確率を下げたり、イカサマで吸い上げたりする不正処理は『物理的に不可能な構造』になっております! どこからどう見ても、極めてクリーンで健全な優良営業です……!」
「バ、バカな……! ではなぜ、あのように破産するまで金を突っ込む者が後を絶たないのだ!?」
狼狽するクロード監察官に向かって、俺は申し訳なさそうに手拭いで手を拭きながら言った。
「いやぁ……あの、パチスロってそういうものなんですよ。確率が95%以上あっても、短期的な気まぐれ(波)で一時的にハマったり連チャンしたりするんです。客は勝った時の快感が忘れられなくて勝手に突っ込んでるだけで……うち、搾取なんて一切してないです」
「むしろ設定6なんて、打てば打つほど店側が赤字ですからね」
シエルが追撃するようにフッと微笑んだ。
「王国が提示された『最低でも8割を割ってはならない』という規制基準ですが……申し訳ございません。当店の基準(95%以上)があまりにもクリーンすぎて、王国の規制ラインなど遥か下を潜り抜けております」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!!」
クロード監察官は絶句した。
国家が総力を挙げて「悪質なギャンブル店」を叩き潰そうと乗り込んできたのに、蓋を開けてみれば「王国のどんな悪徳商人や金融業者よりも圧倒的に良心的な還元率で営業している超健全企業」だったのだ。
「……し、鑑識官! 他に不正はないのか!? 演出で客の正気を失わせているとか——」
「鑑識官様、コアのログをご覧ください。全ての演出は完全確率抽選の結果を正しく出力しているに過ぎません。イカサマの余地はゼロです」
鑑識官たちが揃って「完璧です……」「ぐうの音も出ません……」と首を横に振る。
クロード監察官はガタガタと肩を震わせ、ついに降参するように重い溜め息を吐いた。
「……負けだ。我が法務院の敗北だ……。まさか、これほどまでにクリーンな構造で運営されていたとは……」
「ご理解いただけて光栄です、最高監察官様」
シエルはすまし顔で頭を下げた。
「これで当店が『王国の厳しい出玉規制基準を余裕でクリアした、国家公認の超健全娯楽施設』であることが証明されましたね。……つきましては、こちらの『健全営業認定書』にサインと印章をいただけますでしょうか?」
「くっ……! 認めざるを得まい……!」
悔し涙を浮かべながら、認定書にサインをするクロード監察官。
国家のお墨付き(クリーン証明)まで手に入れてしまった『スロット&サケ』。
俺は遠い目をしながら、無駄に厳格なゴーレムコアの確率表を見つめた。
(……いや、前世のパチスロだって設定1で97%前後はあるのが普通なんだが……異世界の奴ら、どんだけガバガバなイカサマ賭博に慣れてたんだよ)
おじさんの困惑をよそに、国家公認となった『パチスロホール』は、さらに揺るぎない信用を得て、王国全土へとその影響力を拡大していくのだった。




