第12話:新店舗グランドオープンと、狂乱の魔界ラッシュ
「黒蛇会」改めスラム不動産開発の手により、隣接するブロックの買収と改修工事は瞬く間に完了した。
旧店舗の数倍の広さを誇る巨大な石造りの建物。
正面にはド派手な魔法光の看板が掲げられ、重厚な扉の向こうには、かつてない規模の熱狂が広がっている。
『スロット&サケ 1号店』の誕生である。
店内にずらりと並ぶのは、1号機『ゴーゴー・スライム』、2号機『爆走グリフォン』、そして大司教のお墨付きを得た3号機『神王の降臨』。
だが、本日最大の目玉は、中央のメイン島に君臨する新開発の「4号機」だった。
「マスター……この新台、今までと次元が違いすぎませんか……?」
シエルすらも、新台のスペックシートを前に珍しく冷や汗を流していた。
今回導入した4号機の機種名は『魔導騎士伝』。
最大の特徴は、これまでのボーナス主体のゲーム性とは一線を画す新システム——「ART」の実装である。
これまでの台は、ボーナスを引くか、自力で目押しして小役を揃える必要があった。
だがこのART機は違う。一度「魔界ラッシュ(ART)」に突入すれば、ゴーレムコアがナビボイスと光演出で「次は右を押せ」「次は左だ」と完全に押し順を指示してくれるのだ。
指示通りに押すだけで、目押しができない素人でも怒涛の勢いでメダルが増え続ける。
さらに、ART中にボーナスを引き当てればゲーム数が上乗せされ、メダルの波がどこまでも続いていく……。
「よし、開店だ! グリ、ドアを開けてくれ!」
「畏まりました……! お客様、整列してご入場くださいませ……(ギロリ)」
グランドオープンを告げるベルが鳴り響くと、押し寄せた数百人の客が雪崩のように店内へとなだれ込んだ。
スラムの住人、下町の商人、貴族の使者、そして噂を聞きつけた他国の冒険者まで。
狙いは当然、最優先で確保された4号機『魔導騎士伝』の島だ。
真っ先に席を勝ち取ったのは、常連のヴォルクだった。
「へへっ、この日のために『預り証』をメダル500枚分に換えてきたんだ! 行くぜ新台!」
ヴォルクがメダルを投入し、レバーを叩く。
ガコン!
液晶(魔導水晶)にド派手な剣士のカットインが入り、重厚な効果音が響く。
数千回転のハマリと引き換えに、ついに画面が漆黒に染まり——【魔界ラッシュ突入】の文字が血のように赤く光り輝いた。
『右だ!』
「うおっ!? 機械が喋った!?」
『左! 中!』
指示通りにボタンを叩くだけで、リールに激アツの小役がズドンと揃い、ホッパーから重厚な金属音とともにメダルが次々と吐き出されていく。
「な、なんだこれ……! 目押しも要らねぇ! 指示通りに押してるだけで、メダルが減るどころか増え続けて止まらねぇぞ!?」
「おい見ろ! ヴォルクの台、ドル箱がもう三つ目だぞ!?」
「連チャンが止まってねぇ!」
「うおおお! 神台だ! これぞ男の夢だあああ!!」
店内は、これまでの比ではない興奮と熱狂の坩堝と化した。
「ナビに従うだけで勝てる」というARTの中毒性は、瞬く間に客たちの理性を焼き尽くしていく。
カウンターで溢れかえるメダルと預り証の束を捌きながら、俺は冷や汗を拭った。
(……やべぇな。前世でホールを席巻した爆出しART機の破壊力を、ちょっと舐めてたかもしれん)
「マスター……」
シエルが、帳簿を手に震える声で囁いた。
「本日の試算ですが……出玉の波があまりにも激しすぎます。勝ち取られたメダルの総数が、過去最高を記録しました。……ですが、それ以上に恐ろしいことが起きています」
「恐ろしいこと?」
「はい。ARTの快感に魅了されたお客様方が、勝ったメダルを一切換金しようとされません。すべて『次の魔界ラッシュを引くための元手』として、そのまま貯メダルされるか、預り証に換えて手元に溜め込んでおられます。……我が金庫の現金比率が、過去見たこともない勢いで跳ね上がっています」
シエルは眼鏡を押し上げ、ぞっとするような笑みを浮かべた。
「出玉性能(ART)を極限まで高めることで、客の換金意欲を抑え込み、信用(預り証)の滞留速度を限界突破させる……。マスター、あなたはパチスロの皮をかぶった『完璧な資本回収システム』を完成させたのですね……!」
「いや、ただ前世で流行ったART機を再現してみたかっただけなんですけど……」
呆然とする俺の耳に、店内を包む狂乱の歓声と、ナビボイスの威勢の良い叫びが響き渡る。
スラムの小さなバーから始まったパチスロ店は、グランドホールの完成とART機の導入により、いよいよ誰にも止められない巨大な熱狂の旋風を巻き起こしていくのだった。




