鳥と雪風
71区A1信号場こと、高穂山麓信号場に着いた時は、日が傾き始めていた。
懐中時計は丁度4時を指している。
定期通信は7時半にすると連絡したので、高穂山に登って夕焼けを眺め、戻ってくるだけの時間はある。
この信号場は標高1262m。
71区の入り口にして、同区最大の難所でもある。
一部の新製機関車は編成の後ろに補機を繋がなければいけないほどの急勾配だが、旧時代の技術とは凄いもので、この機関車は規定両数以上の貨車を涼しい顔で牽き回している。
夕日を見るために山の方へ歩き、信号場を少し離れれば、そこはもう文明のない山である。
昔建築現場で遊んでいた時と同じ要領で岩を掴み、氷塊を登っていく。
この白く美しい山に登るのは、もう何度目だろうか。
親に負われて登った頃のことなど、とうに忘れてしまった。
先達が命懸けで渡した鎖を掴んで渡り、道なき山道を登っていく。
そうやって歩き慣れた酷道を往き、夕日の見える場所にたどり着いたのは、5時頃のことだった。
前来たときと全く変わらない、綺麗な夕日だった。
山道を戻り、信号場に戻ったのは7時のことである。
火を起こし、ストーブをつけ、ホコリだらけの宿舎の寝具を掃除するだけで30分経ったので、定期通信を入れる。
12分ほど経って、通信が開通した。
「えーっと…65区が体調不良、71区が電力トラブル、54区が体調不良のため46区が代行します。21マル8列車、異常はありませんか?」
「こちら21マル8列車。異常ありません。
リュウくん、46区に異動になったの?」
「違う。46区のバカが階段から落ちて骨折したから臨時で兼任してるだけだ。
それにしてもみんな風邪引きすぎだっての…」
「リュウくんも気をつけてよ?」
「俺はまだ良いんだよ。里歩の方こそな。風邪でぶっ倒れても助けに行けねえし。」
「はいはーい。気をつけまーす」
「お手本みたいな棒読みだな。まあいいや。あと15本分の定期報告捌かなきゃならんから切るぞ。」
「頑張ってね〜」
そうやって他愛もない話をして、通信を切った。
いつもは周波数をいじって民間のラジオ局を探したりするが、高穂山周辺ではラジオの電波など飛んでいない。
護身用の拳銃を持ち、いつもより早く、寝ずの番のため、列車後方を見回りに行った。




