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栗花落杏寿の爽味  作者: 椄瀬結


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6/16

コンビ結成 二

小春を見かけたのならやることは一つ。杏寿は小春の元へ走った。


「小春さん!」

「お疲れさまでした、栗花落さん。それから椿さんも」


 喜ぶ杏寿の後ろに小春は目をやり、追いかけてきた朔乃介にも笑いかけた。

 すると朔乃介は周りを見渡し、足りない存在について小春に問う。


「お疲れ様です。桃坂先輩はいないんですね」

「はい、医務室で手当てを受けていますから。お二人とも怪我はどうですか?手当ては…してなさそうですね」

「俺たち、訓練終わったらすぐに呼び出されたんで」


 二人の泥と汚れだらけの背広を見て小春は苦笑を浮かべた。

 朔乃介は目立った傷はない。

 だが杏寿は禄士郎との戦闘で無傷とはいかなかった。朔乃介の弾で掠った腕には応急処置としてネクタイで止血しており、酷使しすぎた腕は微弱な電流が入っているように痺れている。

 すると小春は杏寿の手を取り、妖力を流し始めた。


「栗花落さんは特に激しい戦闘でしたし、本当はすぐ病院に……栗花落さん、つかぬ事をお聞きしてもいいですか?」

「はい、なんですか?何でも聞いてください!」

「…栗花落さんは何か、回復系の『異質持ち』ですか?」

「異質持ち?」


 聞きなれない単語に解説を求めて朔乃介の方を見た。

 すると朔乃介は小春の質問の意図が分かったようで腕に巻いていたネクタイを解いて、掠めて敗れたジャケットの間から杏寿の肌を見る。


瘡蓋(かさぶた)になってる」

「え、なん、なんですか?え?」

「霧崎先輩、一日も経ってないのに人間の体は瘡蓋を作ることは可能なんですか?」


 疑問を投げられた小春は杏寿に妖力を流すのを止め、口元に手を当てた。

 眉間に皺が寄っていき、答えに困っているようだ。


「異質持ちであるならありえます。知り合いに回復系の異質持ちがいるので。ですがそうでないとすれば何か別の…魔術とか、または半妖とか」


 小春と朔乃介の視線が嫌というほど注がれる。

 何と答えればよいか分からず、杏寿は首筋を軽く掻いた。

 二人は杏寿の驚異的な回復力がありえないと言いたいのだろう。

 

「正確に覚えてないんですけど気が付いたらこんな体質になっていました。だからその異質持ち、なんですかね?私?」


 笑い交じりの返答に小春はまた唸った。

 そんなに大変なことなのだろうか。既にもう治りかけの頬の傷を触りながら杏寿は再び朔乃介を見上げた。

 すると今度は視線に気づいたようで朔乃介はおもむろに口を開いた。

 

「何か危ないとか、そういう話じゃないけどもし異質持ちならちゃんと把握しておいた方がいいって話」

「そもそも異質持ちってなんですか?」

「俺たちみたいな妖が見える妖力持ちの人間の中でもごく稀に生まれる人間のこと。持っている妖力に特殊な力、というか効果があるみたいな。さっき言った回復も自己治癒だったり、他者の治癒だったり」

「へえ!いいですねそれ!」

「でも中にはその異質が自分の糸を削る危険なものだったりするから。だからちゃんと把握した方がいいってこと」

「なるほど、理解でしました!」


 杏寿の脅威の回復力は今に始まったことではない。いつの間にかなっていたのだ。

 比べる対象が同じようにすぐに回復する妖だったので疑問を持つことがなかった。

 言われてみれば人間は一日も経たずに骨に入った亀裂が修復するなんてありえない話だ。


「栗花落さんに異常が起きていないのであればそこまで懸念することでもないことでしょう。変なことを聞いてすみません」

「いえいえ!むしろ新しいことを知れて嬉しいです!」

「じゃあもう一つ、聞きたいことがあって」

「なんでしょう!」

「戦い方は誰から教わりましたか?」

「育ての親です!」

「…その方、妖で人虎ではありませんか?」


 半分当たっていて半分不正解だ。

 杏寿の戦い方を見てこの質問をしてきたということは耀について何か知っているのかもしれない。


「私の育ての親は九尾の狐です。妖でしたけど虎ではありませんでした」

「…そうですか。なら私の思い違いだったようです」

「誰と間違えたんですか」

「私の友人に人虎がいるんですけど、そいつと戦い方が似ていて。もしかしたらと思ったんです」

「その方の名前は?今、どこにいるんですか?」


 自立する。友達を百人作る。この二つ以外にもう一つ目的がある。

 耀が杏寿を世界へ連れ出す前の事を知る。それが3つ目の目的だった。

 この目的は叶わなくても仕方がないと思っていた。何せ、耀は千年生きている長寿。知る者がいる方が稀なのだ。

 そんな薄い望みの中であっさりと手掛かりが転がってきたのだ。これを拾わないわけがない。

 杏寿は小春の手を掴み、望みを求めた。


「気のせいかもしれませんよ?」

「構いません、教えてください」

「…名は灼司(しゃくし)。今は大阪の(さかい)にいます」


 大阪の境と言えば妖の都のことを指す。世間では幻の都と言われ、都市伝説のような扱いだ。

 だが境は都市伝説ではなく本当に存在する。それは杏寿も行ったことはないが知っている。

 かつてフランスに滞在していた頃、一度だけ杏寿を残して耀が数日だけ境に行ったことがあった。


「何か訳がありそうですね」

「それは、まあ…色々と」

「深くは聞きませんし、話さないでください。もし灼司に会いたいなら私に連絡してください」


 杏寿に笑いかけた小春は耳につけているピアス型にニシキに触れた。

 すると杏寿のニシキが反応し、小さく振動した。何かを受信したらしい。


「私の連絡先を送りましたのでいつでも連絡してくださいね。それではまた」

「ありがとうございます!小春さん!」


 小春を見送ったのち、先に空気を破ったのは朔乃介だった。


「とりあえず、ご飯とシャワーと手当てと服を洗うが選択肢としてあるけどどうする?」

「うーん…全部だなぁ」


 今の杏寿は野良犬よりも汚い上に腹も空かせている。どれかを選ぶことなんてできなかった。

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