第三幕 コンビ結成
「やってくれましたね、ガキ」
合同訓練で小春と勝利をもぎ取り、浮かれているところを水上に捕まって上官室に連れ込まれた。朔之介も同様である。
杏寿は水上のガキ発言に首を傾げ、朔之介を見た。
「日本の十六歳はガキなの?」
「……少なくとも水上中尉から見れば栗花落はガキだと思うけど」
「はへぇ」
空気が抜けるような返事をした後、また水上の方を見ると白い額の青筋がまた一本増えていた。
杏寿は選択肢を間違えたようだ。純粋な疑問だったのに。
すると水上はおおきな息を吐き、人差し指で机をコツコツと叩く。
コツコツと叩かれている机には杏寿が持っていた銃と禄士郎に斬られた銃の残骸が置かれていた。
「なんで訓練で実銃を出したのでしょうか?ねえ、栗花落?」
「え?戦うためです」
「紬器を使いなさい!紬器を!」
「そっちの方が危険じゃないですか?実銃より殺傷力が高いと思いますけど」
「……ああ、ここまで疎いとは。椿、お前は説明できますよね?」
「自分も分からないです。申し訳ありません」
「ん〜!ガキ!!」
ついに水上は頭を抱えた。何が駄目だったのか、杏寿には分からない。
隣に立っている朔乃介も同様で首を傾げている。
そして大きなため息を吐いた水上は再び口を開いた。
「二人とも、白夜軍が陸軍と海軍に対してどういう立ち位置にいると思いますか?」
「三つ巴、と聞いたことがあります」
「その通り」
首を傾げたままの杏寿とは反対に朔乃介は即座に答えた。
杏寿は自ら軍学校を志望したが内部情勢などまったくもって知らない。入学前に海軍に属してる実兄に聞けば良かったかもしれないが関わりをあまり持ちたくないので無理な話だ。
(そもそも家族から離れるためにここに来たわけだし)
結果として政治事情、軍の内情を知っている人間はいなくなる。
だが日本の事情を知らずとも経験則上、予想することはできる。
軍の大きさは国を守る力に直結する。永世中立国である日本は他国を攻めることはできない故に守り、維持をするために力を割くことになる。
となると軍の中でももっとも力、軍事金を注ぐとなると日本独自の力を持つ『白夜軍』になる。
(一つに偏るとなると他からも不満は上がる。結果としてそれぞれが平等になるようにとなると三つ巴だろうなぁ)
軍といえど形成しているのは人間だ。人間には感情があり、それぞれの正義と悪の定義を持っている。
横並びで仲良しこよしができれば一番丸く収まるだろうが金、地位、名声が絡めばそうはいかなくなるのが常。
結果として三つ巴という立ち位置に収まっているのだろう。そういう事例は他国で見てきた。
「紬器の使用は白夜軍の専売特許、他の軍が手も口も出せないものです。で、す、が!実銃となれば話は変わります!使用許可申請から銃の種類の把握!そして使用した後の事後報告!白夜軍が独自のルールを持つ代わりに提示されている条件なんです!戦うなら!紬器で!戦いなさい!」
「うわぁ…なんですか、そのめんどくさい条件。報告したところで他の軍に得なんてあるんですか?」
「白夜軍が創設される頃に作られた条件です。得、というより揚げ足取りのきっかけになればいいなくらいのものです」
「ああ、なるほど!」
「その報告書を書くのは上官である私なんですよぉ~?分かってますか栗花落ィ?」
「あーっと…」
水上の瞼がぴくぴくと痙攣している。確かに禄士郎との戦闘や発砲理由を書き出すとなると大変そうだ。
「紬器が紡げないなら紬師とコンビを組むなり、訓練なさい。私からは以上です。質問はありますか?」
「はいはいはーい!栗花落、あります!」
「どうぞ」
「実動部隊に移動するには何か手続きが必要なのでしょうか!」
「自由なガキですね。おかげでため息も出なくなりました」
何故だ?質問があるかと尋ねてきたのは水上なのに。
杏寿はまた解説を求めて朔乃介を見上げた。
朔乃介はそんな杏寿に苦笑いを浮かべて「今する質問ではないんじゃない?」と言った。解せぬ。
「確かに先ほどのお前を見ていると実動部隊の方がいい気がしますね」
「でしたら!」
「ですが駄目です、少なくとも今のままでは。移動したいなら成果を上げなさい。私や今日お越しになった吾妻大尉、もっと上の上官を唸らせるような成果を」
「え!?上官の上官の方の許可もいるんですか!?」
「適性試験の結果とお前たちの希望を元に吾妻大尉達が配属先を決められたんです。移動したいということはあの方たちの決定に意を唱えるということ。白夜軍は実力主義です。口より足を動かしなさい」
隣で朔乃介がなるほど、と呟いた。
白夜軍は実力主義。意を唱えるにはそれだけのものを提示しろということに他ならない。ならば俄然やる気が漲ってきた。
この話の後は特に話すこともなく杏寿達は早々に上官室を出た。
すると杏寿達が出るのを待っていたようで見上げた廊下の先に小春がいた。




