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栗花落杏寿の爽味  作者: 椄瀬結


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鈴蘭 二


「そういえば神崎郁美って保護されたんだよね?」

「らしいな。研究所行きだと」

「あぇ…可哀そうに…」

「晴前教は基本的に半妖で構成されている。犯人は半妖だと神崎郁美から証言もとれているしな」

「じゃあ、あの鵺は何だったの?妖怪でも飼ってるってこと?魔物を飼いならす物好きな人間なんて見たことないけど」

「魔物はどういうものか分からんが、知性がない妖は僕(しもべ)として使役する祓魔師や紬師はいし神崎郁美もそういう類じゃないか?晴前教で飼っていたいたわけじゃないかもな」

「へえ、日本人って命知らずだね」

「お前も日本人な」


 朔乃介からもっともな指摘が飛んでくる。耀に育てられようが異国を旅しようが杏寿が日本人であることに変わらない。

 ふと会話に花を咲かせている女たちが視界に映る。女が三人集まれば姦しいと孝文から教わったことがる。まさに姦しいを体現していた。

 杏寿は立ち止まり、女たちの会話に耳を澄ませる。女の口は軽いのでもしかしたら聞きたい情報を話してくれかもしれない。

 隣に朔乃介も立ち止まり、べらべらと大きな声で話している女達を指さしながら杏寿を見た。そして杏寿も答えるように頷いた。


「最近、白夜軍の人間がよく出入りしているそうよ。物騒よねぇ」

「ねぇ~!何の調査なのかしら?」

「あれやろ、ほら和泉さんちが信仰してはった晴前教ちゃうの?こんなこと言うのもあれやけど…胡散臭くない?半妖が救われる社会にするとか言ってはったやん」


 ここでも晴前教は噂の話題らしい。このまま話を聞くために杏寿はその場にしゃがみ込んだ。

 すると額から角が生えている女が眉を顰めて関西弁の女を窘め始めた。


「よしなさいよ。あの人達、どこにでもいるんだから…」

「せやかて…あの人らが出入りし始めてから知らん人も増えたやん…うちはともかく子供が心配やわ」

「あ!それ私も気になってた!知らない人が統括者様の住まいかを出入りしてるじゃない?うちの子なんて声を掛けられたらしいのよ」

「え!?やだぁ!」

「まあ!?それ本当!?」

「本当よ、本当!」


 あの狸、急に怪しく見えてきてしまった。何か隠しているのかもしれない。

 それよりも杏寿が気になったのは『知らない人の出入りの多さ』ということ。境に出入りするには通ずる扉を見つけないといけない。

 しかも扉はどこにでもあるわけでない上に簡単に見つからない。少なくとも妖が見える人間じゃないと無理だ。

 となれば特定の出入り口がある可能性が高い。杏寿は人気のない路地に降り立つ。ゴミ箱の上にいた猫が驚いてどこかへ行ってしまった。


「栗花落、どうかしたか?」


 疑問を掲げながら朔乃介も屋根から降りる。杏寿よりも大きく重いからか、飛び降りた先の地面が鈍い音を立てた。


「穴を探した方が早いかも」

「穴?」

「ほら、学校にあったやつ」

「ああ、あれか。…もしかしてさっきの出入りの話って」

「憶測だけどね。でも可能性は大いにあり!あとで蓮真さん達に共有しておかなくちゃ」

「確かに神崎郁美が穴を作れるほどの実力があるようにも思えないしな」


 朔乃介の言葉にうんうんと頷く。犯人を直接探すより、犯人も使っているであろう穴を探す方がいいかもしれない。郁美も使っていたのだ。信者の御用達なのだろう。

 その後、杏寿達は穴を虱潰しに探し始めたがあっという間に日が暮れる時間を迎えてしまった。境西は境の中では二番目に広く、二人で手分けして探すというのは負担がそれぞれ大きい。

 ホログラムに映し出された境西の地図に捜索した範囲を塗りつぶしていくが、まだまだ道のりは遠い。

 夜空のままなので体内にある時計が狂っていくのを感じながら杏寿と朔乃介は拠点に帰ってきた。


「朔乃介さん、疲れたね」

「だな。俺たちの話が出回ってるから住民に聞き込みができないのもきつい」

「ていうか、仮面…暑い!!すんごい蒸れる!!」

「妖術使っている間は外しても良かったのに」

「私の妖術は朔乃介さんほど精度が高くないの!扱いやすくはなってたけど、結局一時間ごとに休憩しなくちゃいけなかったし!その点、朔乃介さんは余裕だったじゃん!」

「そりゃあ、練習してるからな」


 目元に吹き出た汗を袖で拭って朔乃介の顔を見上げる。

 すると朔乃介はじっと杏寿の顔を見た後、顔の筋肉を緩ませて口角を僅かに上げた。


「なんか久しぶりに栗花落の顔を見れた気分」

「そ…うかぁ?今朝、見てたよ」

「そうなんだけどな。やっぱり顔が見えないのは不便だし、落ち着かないから」

「はへぇ…」


 まただ。しかも今度は頸が痒く感じる。

 困ったことがあれば耀がいつも言語化して教えてくれていたが、今はもうそんな人生の師はいないので再び訪れたこの感情の置き場に悩む。

 痒く感じた頸手を伸ばした刹那だった。二階の廊下の窓が開き、そこには額に青筋を立てている蓮真と氷菓を食べているウルシュ。そして拠点の外で会話していた杏寿達に怒声が降り注いだ。


「アオハルしてんじゃねぇぞコレェェェイ!!さっさと風呂入ってこい!!じゃないとお前らの飯、ウルシュが食うからな!!」

「え?僕ですか?やったー。お二方、ありがとうございまーす」


 杏寿と朔乃介は慌てて拠点に入った。

 ウルシュは一食で米を三合、食う大喰らいだ。冗談じゃない。何かを訴えるように杏寿の腹の虫が鳴いた。


 (てか、アオハルって何?)

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