第30話:一撃必殺
順調に攻略を進めて登った三十八階層、不気味な雰囲気の墓場で俺たちはイビルトレントという木の魔物と対峙していた。根っこを使って普通に動くが移動速度自体はそんなに早くはない。早くないとはいっても他の魔物と比べた場合の話で、大人なら逃げ切れるギリギリくらいの早さではある。
怖いのはたくさんの枝による攻撃だ。すごい勢いで鞭のように繰り出される。当たったら骨が折れるだけでは済まないだろうなぁ。
火が弱点ということなので、少し開けた場所に誘導してから火魔法を打ち込むことにする。トレント系の魔物は何度か倒してきたけれど、イビルトレントは初めてなので俺は後方支援という名の見学だ。皆、連携が取れているから安心して勉強させてもらえる。一応他の魔物に警戒しつつ、フォンゾが魔法を放つタイミングを待つ。
「火球。」
いつもの、落ち着いたフォンゾの声と共に作られたテニスボールくらいの大きさの火の玉がイビルトレントの方へ真っすぐ飛んでいく。すごい速さで動き続ける枝に触れることなく、根元の少し上、大人二人で抱え込めるかどうかという大きな幹に着弾した瞬間―!
ドッッッ!!!
閃光に視界が白く染まり、派手な爆発音とほぼ同時に爆風に襲われる。足を踏ん張ろうとしたが全く意味はなく、吹っ飛ばされて何かにぶつかり、それを巻き込んでなす術もなくゴロゴロ転がった。
耳がキーンとしている。俺の鼓膜は無事だろうか。なんとか根性で立ち上がるが、頭がグラグラする。一体何が起きたんだ。
あ、ごめん。ぶつかったのルークだったか。なんかボロボロのルークが槍を杖代わりにヨロヨロと立ち上がる。
呆然とした表情のフォンゾと目が合う。一拍おいて防御壁が消えた。先ほどまでイビルトレントが暴れまわっていた場所は陥没し、何かの焦げ跡が残っている。フォンゾが咄嗟に張ったと思われる防御壁の範囲がどこだったかわかるほど左右の地面もえぐれていた。
「…!…、…!」
「…、…!」
だめだ、皆の声がよく聞こえない。試しに最近覚えた治療を自分にかけてみる。
「おい!皆無事か!クッソ、音が遠い!」
とりあえずルークも耳が駄目そうだったので治療。
「助かった、アラタ。そっちは…さすがオスカー。」
あとのメンバーはオスカーが何とかしたようだ。俺とルーク以外はフォンゾの後ろに退避していたのでそこまでひどい様子ではなさそうだ。でも一体何が起きたんだ?ずっと見ていたけど何もおかしなところは無かったし。フォンゾなら何かわかるかな。そう思いフォンゾの方に顔を向けると、
…消し炭を背景に土下座するフォンゾという珍しいものが目に入った。
「ごめん、こんなに威力が出るとは思いませんでした…。」
「「「はあああああ???!!!」」」
叫ぶ先輩トリオの声にビックリしたが、間髪入れずに爆笑したディヒトの声につられて安心した俺も、笑い声が止まらなくなった。フォンゾもやらかすことがあるのか。
***
「なるほど、じゃあいつもの火球よりも魔力を込めたらあんなことになった、と。ちなみにどれくらいだ?」
「…五倍です。」
「バカ野郎せめて二倍から試せ。」
フォンゾが怒られている。まあ普通に危なかったもんな。
「エデルエデル、これは良い酒の肴です。俺は一生うまい酒が飲めそうです。」
「…やめてやれ。」
なんかもう優しくされた方がツラいかもしれない。こんな大失敗は珍しいようだ。フォンゾがルークに敬語を使っている。あとディヒト、お前はいつまで笑ってるんだ。小学生か。ヴィントはおびえているかと思いきやそうでもない。馬って臆病なんじゃなかったのか、肝の座ったやつだな。
さて、そうこうしているうちにルークの説教は終わりを迎えたらしい。フォンゾはまだしょんぼりしている。ウケる。
「よし、まだ早いが今日はこの辺で少し戻って野営の準備。あれだけとんでもない威力になるのは強みだ。フォンゾ、せっかくだから下の階で火球の練習をしてくれ。」
「あ、それなんだけど他の魔法にも今のやつって使えないのかな。」
皆がこちらを不思議そうに見る。
「大きさはそのままに、魔力量を増やして発動するってこと?」
「そうそう、さすがフォンゾ。そもそも最初は生活魔法の火でやってたじゃん。他の属性の初級魔法でさっきみたいなことやってみたらどうなるのかなって。」
「面白そうだな、俺もあのドーン!をやってみたい。」
「うえ…ディヒトはなんか危なそうだな。まあこの下ならほぼ草原だし、他のパーティを巻き込まずに練習できそうだな。せっかくだから全員で検証してみるか。」
全員異議なし!ということで、俺達は道を引き返して爽やかな草原・三十七階層へ足早に戻る。上を目指すパーティの「うわ!なんだこれ!焦げくさっ!」という声を遠くに聞きながら。
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ではまた来週土曜日に。




